ベトナム経済学院校准教授チャン・ディン・ティエン博士は、ベトナム経済紙の今後ベトナム大企業の役割についてどのように変わるべきとの質問に答えた。
地場企業に関して筆者は、近年急速に発展が見られ工業、サービス部門で変化が起きていることをコラムにし、創業者一族で自己増殖した関連企業の資産の殆どを押えて系列化、グループ化しており、先進国における所有と経営の分離がされていないのが実態とみたが、彼は成熟していない問題を指摘する。
経営学を修めた人なら状況をみればすぐに分かることで、儲けの殆どは創業者に入り自在に事業を拡大している現状。急速にビリオネアがベトナムで増殖しているのはこれが理由だが、全ての事業が成功しているかと言えばそうでなく、手を付けたものの失敗した、慣れない事業で苦戦して事業を売ったという所もあり未だ成長の過渡期。国家が地場企業にインフラ整備を任せる方針を出し、これに対し南北新幹線を幾つかの大手企業が手を挙げたが、鉄道に関する技術やノウハウなどはない。海外の企業と提携という戦略を執ったが、ラム書記長の中国訪問であっけなく覆され、中国が手中に収めるような気配。だが原子力発電所はそう簡単にはいかない。
高速道路は地場企業が工事できるまでにはなったが、ODAで工事を担当した拠出国のゼネコンが、サブコンとして組んだ相手地場企業が次第に建設・土木機械を知り扱えるようになった。工事の施工にしても知識がなかったけれど、日本のゼネコンに就職して実務を覚えた、留学した人が戦力になったのです。筆者が初渡越時にハノイで出会った学生は東京工業大に在学中のHUE出身者、ニャチャンの高級リゾートを設計し国際賞を獲っている人なども活躍している。このようにして技術、施工法を取得していった。初めはコンクリートの打放しをみれば三流ゼネコン以下だったが、今は知識、技術、経験の積み重ねに拠り、技術が進歩していることを実感します。
また海外留学とか、就業で得た生産管理とか、マーケティング戦略、福利厚生などの先進知識を活かして成果を上げ、進出海外企業に製品を調達できるまでになった地場企業もある。この他の民間企業でも考えられない様なボーナスを社員に功労として出すとか待遇改善が行われるなど発展がみられる。
政府はIT、AI、半導体などの先端産業に脱炭素化、グリーンビジネスなど、科学技術国にしようと先の共産党大会で決定したがまだ始まったばかり。
今年が転換ゼロ年になるのではと筆者は考えるけれど、残念ながら先進諸国に30年以上遅れをとっており、如何に近づけるかだが、高度な技術を持つ人材が居ないし、高等教育に研究開発を自力でやろうとする気が見えず無理筋。
・1986年のドイモイから40年を経て企業はどう変化した
企業は第一に基本的使命とはビジネスを通じて人々を豊かにし、雇用の創出と予算に貢献する必要がある事を明確にする必要がある。だがそれだけではなく、競争が激しくなるとその環境下で地位を築くのは難しくなる。時代ごとに要件が異なり、開発条件が変化するに連れて企業は役割を再配置することになる。
即ちこれまでの地場企業は工業化の名のもとに加工、組立、低技術にあった。しかし今、ハイテクとイノベーションに切り替えが求められているが、選択の余地はなく生き残るための絶対条件。この指摘は正鵠を得ており、低レベルで付加価値の低い産業構造を変えるのは時代の要請、しなければ後退するだけ。
ドイモイ2,0の時代に入って行くなら、企業は富を築くだけでは不十分。経済が新たな開発の原動力を生み出さざるを得なくなると、企業は一歩踏み出して国の課題を背負わなければならない。国家企業という概念は新たな基準となる。
さらに重要なのはビジネスがもはや個人の(成功)物語ではなく、世界市場を目指して互いに連携、組織的な力を形成しなければならない使命がある。
また社会主義国の経済学者としての見解だが、企業の役割とは、国家とともに共創であり、制度や経済構造を構築すること。これが根本的思想という。
単にビジネスをするだけでなく、個人が金を稼ぐことで、経済のオペレーション・システムの設計に参加する段階だとティエン博士は語る。
のっけからこの調子で自説を連発、読むほどにとんでもない思想をもつ学者であることが分って来た。また新しい経済構築に新しい開発プラットホーム、接続するインフラと人材が必要と述べている。
特に交通に関してパッチワークスタイルで全体を設計して施工する概念に欠けている。これは資金不足だけでなく、物事の進め方、即ち政府が民間セクターに依頼する準備が出来ず、信頼もしていないことが原因になっているとする。例を挙げると高速道路、高速鉄道、港湾から空港までの方面モジュール接続が必要なのだが、完全なネットワークが出来ていないので混雑することになるとしている。ましてこの国はバイク天国、様々な問題があり、脱出するには新設した地下鉄の駅から、各住居圏を結ぶバス路線網が必要とされるが、こうしたネットワーク網の整備計画案は行政から出てこない。
インフラ整備問題は国家だけで解決できない。民間企業も資本だけでなく技術、組織、経営、現代的ビジネス経営などの力で参加しなければならざるを得ない。企業も利益追求だけでなく、使命を国家発展に結び付け主導する役割を担い、グローバル化に取り組み国際競争に参入しなければならない、とするけれど、地場企業にそれだけの経営力や海外企業と競争する技術や経験が無く、業務に精通する人材もいなければ無理な注文でしかありません。
30年ほど前は主要国道であっても地方は未舗装、二車線という有様。大洪水で多くの死傷者が出て道路も崩壊、完全に分断された事が切掛けで、ハイバン峠にトンネルと高速道路が日本のODAでやっと出来たけれど、隧道工事など出来る技術は当時なくシールドマシンもこの国に無かった。
今では急速に高速道路の全国的整備が進み、港湾でもHCM市にカイメップ・チーバイ港など整備され、中部でもフエ新港が出来た事など、かなりの勢いで人とモノの移動に関して整備を進めて来た事に違いない。
HCM市近郊も驚くほど道路が綺麗になったけれど、これは車が増え、物流は基本的にトラック輸送に依存するので当然。また南部メコン地域でも道路整備が進み、これは地方経済発展に大きく寄与するだろうし、外資企業が進出する上でも極めて重要な要素であるが、観光という観点からすれば面白みは無く、昔はよかったなんて懐古的になるほど進歩は早い。従って准教授が言う様に、インフラ整備は経済を活性化し社会を変え地方にまで恩恵が享受でき、国に繁栄をもたらすのは確か。もしかすると将来、ハノイ市やHCM市は金融・証券、サービスなどを担うビジネス都市に変貌する可能性があり、ただでさえ資本と人が集積、不動産や賃金が高騰している状況からすると、都市化が進む地方へ生産拠点が移動、分散化してゆく可能性も高くなると見ている。
それ以上のこれからAIにITなど情報処理、半導体を国家ビジネスにするなら大容量電力が必要になる。だが現状では到底賄えるだけもので無く、政府は原子力発電所の稼働を焦っているし、専門家に高等人材の養成をどうしてゆくのかなどの問題に直面するが、これには全然触れていないのは片手落ち。
・大企業だけでなく、起業家にも経済発展と国際競争での精神を喚起できるか
経済紙の質問に日本を引き合いに出して、戦争を経験し、奇跡を生んだ国の実践をみると国民の精神が貧困や突破口に重要な教訓として学ぶことが出来るとしている。最も大事なのは強力な経済、ビジネス力を持ったことで、発展と国際競争に於いて国民の精神を喚起する事だと語っているが迷惑な話です。
だが些か錯誤している。ソニーやホンダ、現パナソニックなどの創業者は日本を復興するためにリーダーシップを発揮、アイデアと技術力と情熱で物つくりをしていったが、国の為ではなく、疲弊した国民生活がどうすれば豊になれるか個人目線での理念、使命感、情熱で、国家主導でなかったと解するべき。
ところが准教授は、ベトナムが小国で戦争に勝ってきたが、国家独立が目標として最優先で全ての階級で力を結び付けるとしている。例えばVinグループが海外で車を生産、ヴィッテルが世界10か国以上に通信分野に投資しているのは一企業だけの問題ではなく、国家の地位を掛けた競争と断言している。国民の精神が呼び覚まされると無形の資産に成り強大な力となると言い切る。ベトナムは今ドイモイ2,0の段階に入っており、イデオロギー的な推進が必要な時期だとし、国家の支援と融合すれば競争力は増す、と恐ろしいことを語る。即ち全体主義的な親分に奉仕をせよ、という国民への洗脳です。要は国が全てに最優先。企業や国民はその精神を国家のため尽くす訳であり、即ち共産党の決議に従って事業を行うのがベトナム企業というなら、民間企業は経営理念と独自の行動指針を持ち、マーケティング戦略で製品を開発して、顧客を創造開拓する。そして利益を社員と株主に還元、社会貢献する意義はなく何のために企業が存在するのか。国の為。
それこそ計画生産で製品を供給、国民に割り当てる。品質が善し悪しは問題でなく数量さえ合えばいいだけの話。こんないい加減なモノしか無い不幸な時代に戻る気なのか、競争を放棄し世界から後塵を拝していいのかと問いたい?
・大企業は良いとして中小企業はどうなる
ベトナムは中小零細家内企業の割合が99%とも言われる。世界的大企業はなく、製鉄、石油など化学プラントは海外企業の支援と投資が無ければ存在し得ない。それどころかベトナム経済そのものが、外資企業の進出無くしてあり得ないという根本問題があるが、さらに海外からの投資、技術移転を進めようとしている。経済発展はしているけれど自助努力によるものではありません。いつの時点でテイクオフしようとするのかと言えば、官民ともそれはなさそう。
これに付いて、原則があり、開放性、透明性、そして自由な競争を挙げている。
大企業は圧倒的に優位に立つけれど小規模企業はアクセスを持っていない。
そこで重要なのは国家の役割。大企業がリーダーとなる条件を創り出し小規模企業がその連鎖に足場を持てる様システムを作ること。大企業の役割を排除することなく拡大の方向に発展させ、其処に中小企業を参加させてベトナムのビジネスコミュニティを作る。とあくまでも国家が基本になる。
よく理解できない。しかし日本の様に、かつての財閥による、民間の企業系列とか、独立系の大手企業の傘下として派生、成長してきた系列という解釈でもなく、国が無理矢理主導し、大手企業の傘下に中小企業を収めるという解釈が成り立つが、其処に何の関係性もなく事業が進む訳などなく無謀な論理。
・2045年までにベトナムが先進国になる目標について
ベトナム企業の出発点が低すぎると准教授は先ず指摘している。また事業やビジネス環境には未だ多くの障壁があるので成長は難しいという。地場企業が最初にすべきことは、真の意味で手を伸ばすために低いというスタート条件に拠る困難を迅速に排除し、長期的な目標を持って、イノベーション能力、つまり前進する能力が必要で自ら過去を手放すだけの覚悟がいる。
兎にも角にもベトナム地場企業は大企業であっても、設立は精々20~30年程と歴史は浅い。急成長しているのは確かだが、これまで自社が独自で技術を積み重ねて来たかと言えばそうではない。HCM市に存在しているけれど多くは戦後に国営企業として設立、経営側の人間も北の軍関係者が多く素人同然であったことは疑いのない事実であり、自画自賛の域を出る事はありません。
日系企業も進出を始めたが、地場企業は土地と製造する建物があるだけで、設備は古く現代では使い物にはならない、生産管理が出来ているかと言えば絶望的。販売するにもマーケティング力はなく、消費者のフィードバックも不可、商品企画が出来るとか販売促進、また根本的にその様な知識すらなかった。これは筆者が大手有名企業を訪問して問題を聞かされた事。合弁だが株式は半分以上保有できない。正直無能な経営者が居て、企業経営に関する知識も経験もなかった。戦争が終結、ただ地位が高かっただけで勢い企業責任者になれと言われても出来ない相談だった訳です。いくら新規事業や新製品を提案しても彼らは全く理解できないので否定するだけ。常識では到底考えられない低レベルの事業環境にありました。
大学でもマーケティングとは売る事と答える学生。教える側の教員でもレベルに達しなかったのでは当然。従がって外国企業の進出が続いてもワーカーが組み立てをするだけの能力しかなかった。セミナーでは、若くて手先が器用な若者が多い国、なんていうベトナム神話、が通用しただけの単純な話。
地場企業の輸出は主に一次産品だが品質は良くない。加工品でなく付加価値が無い。こんな状況で貿易収支は赤字が続いてきた。また政府は先進工業国化を国家戦略にし、部品を造るため裾野産業を育成しようとしたが失敗した。
准教授は語るが、具体的な内容には触れていないので恐らくこのような状況を指すのだろうと考えます。このような2000年代初めの酷い有様を知っている駐在員は少ない。だが駐在員だけでなく、留学して帰国、企業を任された若手社長も社員は基礎、基本が出来ていない悩みを抱えていた。
・国民起業家という概念 市場経済、グローバル化は認めるが
これに関する定義は無い。要は起業する人の国に対する態度、倫理的側面があるとするも、具体的で明確な基準も存在しない准教授の思想から来るだけ。平たく言えば愛国心、最も大事なのは市場経済で、グローバル化の中で国家発展に寄与する事としている。そして合法的に富を得るだけでなく、国家発展と国民共通の利益のため、自らの資産や努力を犠牲にする勇気を持つ必要があるとする。法律を遵守し、国の利益を損なわず、利益追求のために利用してはいけない。そして競争向上に寄与する製品と価値を創出する責務を負う。
だがこのとんでもない論理、もはや理解の範囲を飛び超えている。
例えば不動産企業、建物や街作りで利益を得る。より美しい景観を作り地域の価値を高め、地域全体を豊かにする。これが意図する貢献という。利益だけに注目するのでなく、ビジネスを行う動機が大切で市場経済に於ける企業の機能的役割を公平にみるべきと宣うのは正しいが視点が違っている。
もはや支離滅裂状態、市場経済と言いながら、全ては国への奉仕と貢献精神で資本主義的競争を肯定して価値を創造する。利益を出してもいいが犠牲の上に企業が成り立つ。つまり利益を国のため吐き出せと言いたい放題。
・Vinなど大手民間企業はリスクが高く直ぐ利益が出ない大規模長期投資傾向
だが、どのような見解か近年のこの様な状況に付いてどう感じるかの問いに、前向きであり新たな開発段階にある。不動産事業の成長で巨額利益を得ても間違いではないが、経済構造を歪めてしまった。だが新事業に取り組む事で新しい産業が開かれ、其処に企業が移動するのを余儀なくされている。
インフラ、物流、技術革新への投資に切り替えは、未来を創造する考え方へのシフト。AIやEVなどの製造業の大企業の中で新たな戦略分野や、海外市場に参入しているのはその例とある。
これは企業規模とビジョンが変化する中、地場企業が高付加価値で長期的でより持続可能な分野への進出、投資や事業をシフトさせ始めていることを示しているが始まったばかり。だがこれらの変化は単なるビジネスでの問題でなく、国の将来に関わる掛けであり、ベトナムを世界地図上で価値ある地位に位置付けるため挑戦するとみなすのです。
敢えてこの偏向した内容に踏み込んだが、彼は地場企業が存在する意義とは国家のためと言い切る。HCM市経済大学に在籍していた学生にマルクス経済学が主流?だが必須科目でないという。メインは近代経済学であり、経営学の単位を取ったと話した。
貿易大学・HCM校で知人の大学教授(商学)が特別講義をした。この大学は日本語教育のレベルが高く、講義後に学生の質問を聴いていたが日本の学生と経済に関する知識の差は殆どなかった。もちろん筆者が知る範囲でも地場企業経営者、一般市民も、この様な過激な考え方などしていません。ベトナム共産党は現在の経済形態は、社会主義実現に至るまでのひとつの段階であるとする。だが最近感じる事とは、思想の先祖帰り(と呼んでいる)。先の第14回共産党全国大会、また5月にはラム書記長の中国訪問で明らかになったのは、習近平との会談でベトナムは中国と共に社会主義国家を建設するという共通した認識。これが准教授の言論の暴走に火が付いたとみる。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生