人間と犬はお友達。日本の縄文時代ですら犬は食用ではなく夫々の家の飼い犬として共存していた。なんてことを聞いた記憶があるけれど、日本だけでなく、世界各地でも同じ様に人と犬の関係は、例えば猟犬や愛玩用として人気があり、ダックスフントなどは兎を獲るために穴に潜れるように短足胴長だが、これは人間の都合で改良していった品種でもある。日本では特に有名になったのが、タロとジロの樺太犬だが、もっと以前には間宮林蔵が北海道を探検するために連れて行ったのが大型のこの樺太犬。ユキと名付けられ寒い地では暖房替わりに使い、食料が尽きればこれを食べるという目的もあったという。また飼っていた犬をミイラにし、来世もご主人さまのお傍にと気の毒にも共に埋められた、なんてケースなどが数多く存在する様です。今では麻薬探知犬とか盲導犬など人間にとって必要な存在に成り活躍している姿は何とも頼もしい限りです。
では日本で犬を食しなかったかと言えばそうではなく、赤犬は特に体が温まるとして珍重されたし、猟師や登山家の尻当てには犬の皮を使用していた。
しかし食文化として完全には根付かなかったようで、懐いているのに可哀そう、という気持ちになるのは、数千年もの関係が根本にあるからかもしれません。
・韓国で犬食が法的に禁止となった
日本の新聞やネットニュースでも報じられたが、韓国では犬肉を食することを法律で来年2月から完全に禁止したのです。
2027年2月に全国的に犬の繁殖、屠殺、販売を全面的に禁止する事となるのだが、この措置はペット数の増加と動物福祉に対する考え方の変化が世論を変え、犬食文化を止めるきっかけになったともあります。
法律が制定される二年前の調査では、サンプル数2000のうち、90%以上が犬肉を食べるつもりはないと回答。80%以上の人が禁止を支持したとあります。
また95%の人は前年に犬肉を食べていないと答えたとされ、もはや韓国内でも犬食文化は殆どの人が嫌がり、風前の灯火であったのです。
この立役者は全大統領のユン・ソクニョル氏、またその妻であるキム・ゴンヒさんも公然たる支持者。キャンペーンを張ってまで犬肉取引を終わらせようと運動しました。こういう事があって議会は2024年1月、人間の消費を目的とした犬の繫殖、屠殺、流通と販売を禁止する法律を可決したとの経緯がある。
3年間の猶予期間を設けて、2027年2月には完全に施行されるが、違反者には罰金や懲役刑が科されるとあります。また当局は禁止の影響を受けた農家、関係する業者、レストラン経営者へ支援すると約束しているのは、長い食文化として継承してきた歴史があるからかもしれません。
政府に拠ると5600以上の業者が法律の影響を受けており、以前から問題になっていた犬農場は既に閉鎖されているという。
韓国の習慣で夏の3日間は年間で最も暑く、犬肉店はこの時が最高に忙しかったけれど、客はこの暑さを乗り切るために伝統的なスタミナ食を犬料理に向けていた。日本の土用の鰻とよく似た事情がありました。
国内でも有名であったソウルの市場でこの理屈をこねるのは高齢者。しかし若い人は毛嫌いし、今ではこの賑やかさはなく荒涼としているとあります。
だが客だけではなく、生業として来た業者の中には韓国の国際的なイメージや批判があるし、変化している社会事情から、残念ではあるが伝統的な犬食文化は終わらせるのが正しいのではと考える人もいる。また調達コストも急騰しており商売として成り立たない所まで来ているという背景もある。
人間にとって健康食の一つであったと信じて来た犬食という文化が無くなるのは時代の流れと諦めて廃業するしかないけれど、他にすることがなく、支援を求めたいとしていると報じていたのです。
・ホーチミン市でも有名だった犬肉店の街が次々に消えて無くなる
今年の初め、HCM市の新カオンラン区にある犬肉店で商売を諦めてヤギ料理の店を新たに始めようと、店主が料理法を学びに出かけたとあります。
ヤギの焼肉と鍋はベトナム料理の一つで一般的、取り分けヴー・イェ―・ヌンはヤギのおっぱいを焼くけれど柔らかくて人気がある。またラウ・イェーは、ヤギ鍋、野菜とスープに入った鍋と持ってきて炭火のコンロで煮るのだが、肉は柔らかく、スープは薬膳の様な味、健康にいい。
ベトナム人は暑い時でも鍋を食べるけれど、筆者の住んでいたベトナム国鉄の線路沿いのレストランにも、様々な料理があり常に客で満席、よく利用した。市中心よりも安くて旨いので、市内からバイクで食べにくる家族も多かった。
では何故この犬肉店のオーナーが商売替えをしなければならなかったのかだが、この街区は犬の肉を販売していた店が並んでいた。しかし今は完全になくなったという。元々のHCM子はこれを食しないけれど、北方から多くの人が流入してきた結果、食文化も共に入ってくるのは仕方がない。どういうきっかけでこの街に店が集まったのかは知らないけれど、兎に角多かったし、客も途切れなかった。ではどうしてこの店の様に、あるいは街が衰退して無くなって行ったのかだが、店主に拠ると2000年以降に生まれた人は犬の肉を食べない。
その習慣もない。というのが大きな理由。それどころか積極的に反対する人もいるのだとか。かつては昼時から夜遅くまで賑わっていたけれど、しかもそんなに古い話ではなく2010年~2025年頃だというからついこの前のこと。
ところが5年前から急速に新規の客が来なくなり商売が落ち込み始めたという。
結局残されたのは古くからの顧客だけ。徐々に店は閉店に追いやられていった。
売上は激減して2025年には一軒の店だけになったけれど、そうすると今度は地元の当局から説得があり、やむなく別の職種に変更する決断をしたというのが真相だとか。
これはベトナムにとって歴史的に大きな出来事であるけれど、この他にも今のタンソンニャット区の通り、犬肉店が道路沿いに並ぶ有名な街であるファム・ヴァン・ハイ通りにも影響を及ぼし、昨年末までに多くの犬肉店が閉鎖に追い込まれたとあります。この他にも幾つかの街区があったけれど、殆どが消滅し、昨年末にはファム・ヴァン・バック通りの2軒だけになってしまったけれど、何れ無くなるというお先真っ暗状態にあるというのです。
実はこの近所には日本人の知人が当時の7区から移転して釣具店をやっていた。ベトナムで初めて日本人が経営する釣具店だが、ベトナムには無かった様々な道具が揃っていて、有名な釣り師も馴染み客の一人であったのです。
しばしば訪れていたけれど、道路をバイクで走ると自然と目に入ってくるのが店先に吊るされていた白い物体。これは何と茹でた犬肉そのものだった。
だが店だけではなく、筆者が目撃したのは、かつての4区、運河沿いの住宅地。
道路沿いで数人が棒を持ち、袋に入れた何かを寄って集って叩いていたけれど、キャンキャンという鳴き声が聞こえて来た。何処かから恐らく盗んできた犬を殺そうとしていたのです。このように犯罪であるけれど、知人の家でも飼い犬を盗られたというケースは結構多い。
またベトナム国内だけで調達できるものではなく、実は近隣国から輸入してまで肉に加工していた。こういう実態が暴露され、けしからんことをベトナムはしていると非難轟轟。世界から叩かれたことも原因の一つにあります。
一つの食文化の消滅であるけれど、やはり韓国と同じく時代の流れには逆らえない。こうして店はヤギ肉の店とか、焼肉を提供する店に変っていったとある。
今ではすっかり街や道路沿いの模様が変わり、別の物を売る商店に置き換わって一変したと新聞が報じています。
・食習慣と意識の変化
経済成長が続き、国民の所得も向上してゆく中で食生活はどんどん豊かになっていった。また海外と接点が増え各国の料理が味わえるようになって行った。
さらにアメリカと国交回復。これで多くのベト僑が帰国したとか、一時帰国が増加し、徐々に彼らが持ち込んできた様々な文化があたかも先進国文化として歓迎されたのです。知人のベトナム人家族もそうで、戦後強制教育キャンプを終えて渡米した親や親戚が帰国。珍しい土産、現地での普通の生活をビデオで見て感激し、中にはアメリカに嫁いでいった知り合いもいる。現地ベトナム人社会は嫁にするなら本国から、なんてことで関係が深くなり、さらに留学とかで現地とつながりが出来た結果、ベトナムにファストフードをチェーン化していった事もあるし、その前には日本からロッテが進出してハンバーガーなどの、ベトナム人にしては新感覚のフードが若い人を中心にして喜ばれた。
誕生会をファストフード店で、およそ日本で思いつかないような行事も増え、伝統的なベトナム食よりもこの方がおしゃれで美味しいと評判になり、その後はコンビニ店でもお握りにおでんなど外国の料理やサンドイッチなど、これも若者を中心に店内で食べている風景が見られるようになって行った。こうした食文化の変遷の流れを筆者は時系列、間じかで見て来たのです。
・外国の動物愛護団体が活躍
また2021年には世界的な動物愛護団体がハノイとHCMで調査を実施したけれど、24歳未満の若者の犬食の消費が著しく低いことが判明。HCM市で88%が拒否すると回答。さらに元々は北が中心の食文化、ハノイでは44%と低かったけれど、調査に参加した人の91%が犬猫の取引に反対し、95%は犬肉や猫肉食はベトナムの食文化ではないとまで答えていると断言したのです。
猫肉を食べる習慣も北、地方の店にティット・メオと看板がかかっていれば、猫肉を売っている。流石に此処までとは、もはや信じられないのが日本人。
動物愛護団体では19年間、HCM市で活動して来て確実に犬肉の消費が減少してゆくのを見てきた。主に食するのは高齢者でドンドン高齢化して減少したけれど、若い世代はこの習慣を受け入れようとしないというのです。
より多くの家族がペットを飼い、動物に対する社会的な問題を道徳的と捉えた。
多くの肉に供されるのはベトナムでは他国にある農場で飼育されたものだけでなく、盗まれたペットであるという現実があるという事を強調したとしている。
さらにグローバル化してゆく中で、外国人観光、外国人の経営者に在住者が増えたこと。また国際結婚で文化の異なる生活経験、海外留学や赴任も増えた。
この様な社会構造の変化も犬食文化が無くなってゆく重要な機会になった可能性もあるし、動物福祉に関する人々の視点や思考が昔と大きく違って来たことに重大な役割を果たしているとあります。
この動物愛護団体は、昨年に59の学校を訪問して、責任あるペットケアとはどういう事かを生徒に教えたという。こういう子供達への教訓を家庭内で共有させることで、知らずしらずのうちにペットに対する理解をしてもらうという試みを行っている。これから先は、社会が動物をどの様にして伴侶として捉えて扱って行くのかに関して変化がもたらされるとしているのです。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生