・日本で初めて開催されるベトナム・バインミー祭り
実習生として日本に来て、期限が来てもそのまま残っているベトナム人は多い様で、筆者の家の周辺にもちらほらとバインミーの店が開店しており、先日も新しい店が開店、とチラシ広告がポストに入っていた。
隣の市は農業実習生が多く、恐らく何らかの形で在住許可を取って商売をしているのだろうと考えられるが、市役所の駐車場前の店は半年ほど経ったけれど今度は別の店舗が駅ロータリーに出店とあった。価格も表示されていたけれど結構高い。かといって材料はほぼ日本で調達できてしまう。
時々買いに行く店の女主人はバケットも八尾市で買えると言い、香草は自分の畑で育てているという。彼女はご主人の仕事の都合で来日。毎朝、ベトナム人のためにこの材料を使ってバインミーを作って届けていると言うからさぞかし味も彼らに取れば馴染みがある本物の故郷の味なのでしょう。しっかりとパテを塗っており注文の度に手作りしてくれるし、価格は500円程と良心的
今では日本各地のベトナム料理店でバインミーが食べられるし最近では専門店まで出来ているが、日本でも普通のベトナムのサンドイッチという感覚。
コンビニ店でも売っているが手に取っただけで買うのをやめた。やはり目の前でバケットにナイフを入れ、野菜と具を入れ、調味料を振りかけるのを見ない事には安心できない。これはベトナムの露店でも同じだが、作るのを見るのは実に楽しいけれど、何よりもパリッとしたバケットの食感が大事なのです。
9月29日、東京で初のベトナムバインミーフェスティバルが2日間開催され、ベトナム大使館からも応援に駆け付け、地元住民とベトナムコミュニティが、ベトナムのポピュラーな料理を通して繋がる場とした。
開催日当日は雨模様にも拘らず、何千人もの来場者で溢れ、ベトナム料理や飲み物を愉しみ、ベトナムの文化や人、アイデンティティの一部を体験できるとして人気。また今年はベトナムの中秋節とかさなったため提灯、獅子舞に月餅の試食コーナー、また屋台に立ち寄って温かい料理を初めて味わうなどで大変賑わったと現地ニュースが報じています。
特に以前にベトナムに観光で行った日本人や、日本人の子供が初めて体験する文化、また日本で生まれたベトナム人の子供にとっても故郷の伝統文化を学び、これを守って行く大切な機会でもあったという。
主催者側は、このフェスティバルが毎年の恒例イベントとなり、日本人がベトナム料理などを体験、また在住ベトナム人は故郷の味を共有することで、共に親しみやすい場になることを期待しているコメントしたとあります。
・手頃な価格が定番か、高級品か?マーケティングから見ると
ところが本家本元のベトナム、HCM市ではこのバインミーを巡って論争が始まったとあります。この論争とはベトナムの象徴的な食べ物であるバインミーをプレミアムな商品として再構築するか、それとも一般の人が手軽に食べられる日常の料理として残すべきかという二つの考え方。
8ドルで売っているバインミー。これはミシュランの星付きレストランであるアナン・サイゴンのオーナーでありシェフが作ったものだが、何と和牛や見事に調理された具材が小さなローフで提供されるなど高級感に溢れているという。
8ドルの中身はこうした高級食材と有名店のシェフがつくると言うことなので、高所得層にとっては特別なもので決して不合理な値段ではないとしている。
8ドルのバインミーは、10年間に渡りオーナーシェフが新たな視点から探求してきた結果で、一般的に0,8ドル~1,2ドルで売られているバインミーと置き換えられるものではない上位の選択肢を提供している。
バインミーには万人向けの価格はないとして、アナン・サイゴンでは多くの種類のバインミーを作っており、4,5ドルから10ドルを超えるものまで用意されているので顧客はその時の気分で好きなものを選べるという。
しかし一方で、手頃な価格の料理を贅沢品に変えてはいけないとする意見もあって、本来バインミーは庶民の食べ物なので低価格であるけれど栄養と風味を備えたものであるという考えがある。例えば小さなヘム(路地)裏にある屋台では豚の皮を細く切った具とか、豚肉をスライスしたバインミーなら10倍も買える。さらにベトナム人の殆どは様々な高い具材、パテがたっぷり入った物を必要とはしない。というのです。
この論争にHCM市文化大学の副学長トゥイ博士は、伝統的な食べ物が高級な料理へ昇格すると言うことは、料理の進化の中でよくあることで避けられないものとしている。この様なイノベーションは消費者と市場の多様化するニーズに応える自然な反応であるとしています。
マーケティングからみるとこの様な新しい挑戦は特定の層のニーズやウオンツに基づいている訳で、即ち敢えて市場調査をするかしないかは別にして、何らかの要望があり、そのうえで企画され製品化するものです。
要は差別化を図っているということだが、所得が向上して生活が豊かになるほどこの傾向は明確になって行く。
これをベトナムの経済成長と併せて見て行くと、裕福になった家族にすれば良いものを食べたいとする気持ちの反映であると言えます。
もし市場に出ても受け入れられなければ、売れずに廃番となって行くだけだが、バインミーはどの層にも受け入れが出来る適応力があるため、安価な路面店で買うストリートフードから、高級レストランで提供されるものまで幅広くラインアップ出来るのです。これは中秋で売っている月餅とほぼ同じことが言えるけれど、長く商売を続けるためにはその時代に合わせた商品の改良が重要であるが、しかし決して伝統を蔑ろにするとか無視するというものではありません。
むしろ基本は守りながらも、食べ物であれば形や味、材料、量に大きさなどを変えるのはよくあることで、これは世界共通の習いなのです。
なおユニリーバ・ベトナムに拠る2026年度の未来のメニュー・レポートではストリートフードの向上が図られていると言われ、62%もの人が丁寧に調理され、食品の安全基準を満たし、より良い環境で提供される馴染みのある料理に対して、より高い価格を支払うことが出来るとしているとの結果が出てきているとある。これは社会が成熟、進歩と捉えるべきこと。
トゥイ博士も高価なバインミーは、伝統的な文化を損なうものではないとし、伝統の定義は一つではないという。また他の研究者もバインミーは19世紀のフランス植民地時代に残された文化で、ベトナム人が1世紀に渡って進化させたという。即ち100年以上に渡って改善されて来た歴史があり、気候風土や味覚などに合ったベトナム料理に変貌したものとしています。
高ければいいというのではなく、その価値に見合うだけの品質があり、購入者が納得できるものだが、これは原材料の吟味から製造過程でのその企業、また職人や技術者が持つワザ、そして企業の積年の経験に裏付けられている。
この様に経営論的に考えるならば、この8ドルバインミーを販売した方を評価すべきであって、学問的かどうかは別にして、ベトナムの経済成長の中でしっかりと社会、消費者の行動を見ていると思える。一般的に企画力とか、独創性、創造力に欠けている。さらに言えば企業にしても個人にしても、新しい何かに挑戦するという気概や情熱は弱くて横並び。さらに企業や創業者経営者に明確な理念があるかといえばそうでもない。何かの切掛けで大きく成っただけで、社会的存在価値観に乏しい。だから何時まで経っても先進国の下請け的企業や組立という単純労働から抜け出せず生産性が低いのです。
この論争は単なるバインミーの問題ではなく、ベトナムの社会が経済成長で大きく変化、消費者の嗜好も変ってゆく最中の出来事であり、まさに時代の流れに則した現象。マーケティングの原則から考えるとこれは他の商品にも同様の傾向が現れても然るべきであると考えられると捉えるべきで、この様な視点で見ないと感情論に流されてしまうことに終始する。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生