数字が読めないベトナム人経営者

2022年5月30日(月)

折に触れ、また別のコラムにも何度か書いたが、現地事業を進める上での心配事のひとつに、経営者でも事務・経理に必要な知識がないとの実態があります。外国人がローカル事業をすれば(名義借も含む)、スタッフにその能力がない事に気が付く。こうなると事業が軌道に乗っているのか、会社が利益を出しているのかも分かりません。算数・数学の強い国なのに!外資系企業にはベトナム人アカウンターの採用が義務付けられていて、筆者が勤務した会社でも在職していました。他に現地の経理スタッフもいるけれど、この者はチーフという肩書でかなりの実権を持っています。外資系企業は金持ちというのが前提。この人に会社のお金に関して掴んで貰ってしっかり税金を頂こうということでしょう。現地の税務署へは会計事務所から毎月申告すると言う厄介な仕事がある。だがこれで相手が納得する訳ではありません。確実に毎月の出入りの管理を行い、証拠書類は水も漏らさず程きちんとしている。それでも何か隠しているとして譲らない。赤字であれば尚更のこと、絶対に何処かに儲けがあるとあらぬ疑いをかけ法外な請求をしてくる。真面目に書類を整えてもこんな実態もあるので、アホらしくてやっていられない。
現地の、例えば代表者をベトナム人の奥さん名義にしていても、日本人の旦那が役員に入っていれば、実質日本企業となり、あの手この手で嫌がらせをする。現地有名会計事務所の申告でも否認され、また人を介して正当な要求をしても、いわれのない請求金額を幾らか落とすだけ。こんなことが実際にあります。
だが現地の小さな企業や個人商店でさえこの光景は変わりません。私の友人が地区の税務署へ行った。後日現地調査と称して役人が来る。でも単なる儀式。
要は暗にお小遣いの要求である。一度では諦めず、何度かしかも休日に私服で来るのです。レストランなら家族連れで食事にくるが、支払いの段になると財布を出す素振り。店主は飲食代を大体は受け取らないとなり、始末に悪い。
なぜこんなことになるか。日本の様な青色申告制度もなく、担当者の匙加減。
こんな馬鹿げた賄賂文化が日常茶飯事で改まりません。
古くから一緒に仕事をしていたパートナーの奥さん。地区の人民委員会に勤めていたが、こうして集まった資金を階級によって山分けするのが嫌で辞めた。
真面な人も居ない訳ではないが、断ると仕事が出来ない程に仲間外れ、村八分。
誰もが良いとは思ってはいない。こうした状況に、事ある毎に改善を要求しているのは日越ビジネス関係団体や経営者協会。しかし無くならないベトナムの賄賂収受が手数料と思っているから。高級官僚は捕まるが、ザコは相手にせずほったらかしたまま。この社会がいけないのです。
では、企業にあっては会計に関しての知識を持っているのか。これはNO!
観光客が行くローカルレストランや土産物店。レシートを貰う事があればまだいいかも知れないが、現金で払ってそのままの場合も多い。従業員は受け取った金銭を主人に渡し、お釣りをもらって客に渡します。ネコババさせない。
日銭商売であれば、こうして主人が采配を振るうが何にいくら使ったかは明確にはできない。少なくてもノートに金の出入りを書いていればましな方。即ちどんぶり勘定。行政発効の正式な領収書でなければ経費として認められない。
私が現地でしていた電気屋・内装・家具製造・建築の業務。これを始めた時に勘定科目を教え仕訳をさせようと試みました。どの科目にいくら該当するのか確認させ毎日の金銭の出入りを把握して記帳。極めて容易なこと。これ以上を求めても無理とは分かっているので難しい要求はしない。少なくても月ごとに纏めて簡単で良いから損益を明らかにする事から始めようとした。貸借対照表なんてなおさら出来る筈はないどころか知識がない。多くのベトナム人も簿記でさえも知らない。予算も作らないから、何が無駄なのか分析もできません。経費も使い放題、利益率などの指標が出せず次期の目標も出せないまま。こういうのが民族性なのか、文化ギャップなのかと考えてしまいます。
残念だが本人がギブアップ。そこで先ほどの奥さんを経理の学校に行かせて覚えさせようとしたけれど、数字とのにらめっこが苦痛。バンザイでした。
恐らく多くのベトナム人に経理・財務知識求めることは絶望的、覚えようともしません。一方で夜に経理学校に行き日本企業に就職した人もいた。
先日、日本電産の永守さんが書かれた本を読んでいました。右京区に本社があったとき、売れなかったミニマンションを同社に社宅として購入いただいたのだが、ネギリのキツイことは半端ではなく、後輩の担当者の顔が歪むほどの厳しさ。なるほど本を読めば納得。なぜ同社が此処まで伸び、これからEV車用モーター、小さくなるCP関連機器に対応できる各種製品が世界に供給できるようになったか。この一つの答えが此処にあります。すなわち企業トップは財務経理を知っていて当然で、むしろ知らないのは罪。入りを増やして出を制す。これには様々な手法があるがキャッシュを重視する基本中の基本。これらの題目は金銭に纏わる地獄を見てきたからこそで、苦労してゼロから立ち上げた経営・金融理論には実践で培った真実が滲み出ている。ベトナムにも早くから進出。企業経営者が時の元首に会って対等に話ができるのは雇用の拡大、此処から世界へ製品が出て行くのだから当然のことです。本人は技術屋だが、こうした金融、マーケティングまでできるからこの強さ。普通のビジネス書というより独自の経営論、経営哲学の極意をみて共感です。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生