昨年12月、(公財)日本経済センターが発表する所、COVID-19が収束して後、経済が復興し、国民所得が11000ドルに達するとありました。
3000ドルにならない中所得国の低という部類のベトナム。経済成長が続くとしてもこれはいくら何でもあり得ない。
ベトナムはFDI主導型経済成長の典型。海外の投資・進出に依存し経済成長を持続させてきました。経済発展には一見目を見張るものがあり、都市の様相や人の生活が日増しに変化するのが分ります。
だがこれまで何度も記してきた通り、この成長は自国の自助努力で齎されたものでは無く、2000年以降続いてきた貿易黒字も進出外資企業に依るものが大きくその輸出割合は70%を超えるに至っています。
今回のCOVID-19が切掛けになり、政府の感染対応が与えた経済への影響を考えると、上書きされて来た成功物語から、表には出ない問題が具現化。いささか危惧を抱くものです。
この問題には前早稲田大学教授のチャン・ヴァン・トー(Trần Văn Thọ)氏がアジア新興国の中所得国事情に最も詳しいはず。クアンナム省出身でもあって同郷のフック主席の経済諮問グループにも属している先生です。
ドイモイ以来改革を進め先進工業国化を目標に、経済発展を実現するため外資企業の投資・進出を積極的進めたが、成果は数字となって確実に表れています。
だが急成長の歪は現場サイドで随所にみられ、それが露呈したのが中国からの世界的部品供給網をリスクからベトナムへ移転すると言うハナシ。
ところが裾野産業が育成できておらず、製造能力、品質管理の問題などが国内で問われているのです。実際の問題として精密部品は造れない。素材・原材料の自国調達が殆どできない。資本力、R&D力が弱い事。もっとも前回にあるように急速にその機運が出てきたことは期待できると考えます。
もっと基本的な事になると、国有企業の改革が進んでいない。企業数は減少してはいるが国有企業に所属する人数は変わらない。
常に言われる法律、行政への届け出など様々な規制解除・改革はできていない。
不動産は高騰。一度バブルは弾けたが二度目の可能性があり安定化が出来ない
イノベーションはIT化とかスマート化は徐々に進みつつあるが、自国での新技術開発や革新は出来ない。
こうした状況からみればやがてこの罠に嵌って行く可能性は高いと考えられる。優秀な経済学者もいるので、今からでも対策は講じられる筈だが着手した形跡はない
・今年第3四半期のGDP
経済成長はマイナス6,17%だったと統計総局が発表。これは2000年から継続して発表してきた中で初の出来事。この事態、各機関が推測していた数字よりもはるかに落ち込んでいて思った以上に悪いのです。特に製造業、建設業、サービス産業がCOVID-19感染の影響をもろに受けて深刻な打撃を被ったと分析しています。
問題は製造ラインの復旧に数カ月かかると見込む製造企業だけに留まらない。壊滅状況にある部品供給網(多くの地場企業は規模が小さい)が復活するのか。帰郷したワーカーの再雇用が容易ではない。これらが大きく圧し掛かり、影響は当面収まりそうにはありません。
進出した外資系企業の輸出額割合は70%を悠に超えている。これは2000年以降黒字を続けてきたベトナムにとって大きな痛手。
注文があっても製造できない。急速に伸ばしてきた繊維・アパレル部門、靴・履物というベトナムにとって地場企業が得意とするものまで厳しい状況に追い込まれています。
もう一つ考えられるのは、ベトナムの中小企業は97%以上だが、これらの多くは充分なリソースを持っていない。資金的にも余裕がない。物つくりにあっては部品供給が止まるのは致命的。都市封鎖で企業体力は極端に疲弊してしまいました。このため何とか休業状態を保っていたのだが、もうどうにもならないと自発的に事業から撤退していきました。
こうなるとベトナムにとっても先進工業国化を目指し裾野産業を育成しようとする矢先。国内の部品供給が壊滅状態になり機能しない。また中国から世界のサプライチェーンを移転との降って湧いた幸運。この目算や各国からの期待に、ああ、やっぱり無理なのか、と水を差してしまいます。この他辺りのジレンマをどう解決してゆくのかは未知数です。
感染拡大防止に必死となって経済は後回し。盤石ではない地場企業、特に中小の部品製造の実態を早急に把握し支援をしなければ、これまで外資企業へ投資や進出を盛んに誘致していたが、結果として信頼を裏切る事になりかねない。
混乱状態はまだ続くと考える方が妥当です。
またサービス産業にしても深刻な状況。初めから飲食・観光業は言うに及ばず、消費財も低迷。第3四半期の成長率はマイナス9%、9月の小売売上額は前年同期比で28,4%も減少しており、第3四半期でも28%以上だとしている。
世界銀行は10月13日、これまで予測していたベトナムの経済成長を8月の4,8%から2,0~2,5%へ下方修正しました。
FDIは減速しているが大型投資や追加投資は堅調。一部の外資系企業は製造を他国にした例はあるが全面移転とまでは行っていない。ベトナムは海外投資に依存します。これが経済面でのもろ刃の剣。
経済連携協定は10月にエジプトと新たに発効、依然積極的で今後も継続する。新規進出が止まっているが、周辺国と比較しても復活する可能性が高いとみられている。
為替レートについては、貿易収支は赤字となったが、思いのほか安定を見せています。これは約1000億ドルもの外貨保有高があるためで、このため通貨VNDも変動はないどころか少々驚きだが若干米ドルに対し上昇した。
・労働者不足
操業停止や失業で帰郷した労働者は多く、そこで残業延長という奥の手が。
労働法に定めている超過時間勤務。月40時間、年間で300時間を超えてはならないとの決まりです。外資系企業はこれを遵守しないと罰金。とにかくとるだけ取られるが、地場企業は余り関係ないという実態。労働組合があっても問題なし。一応は労働者の同意が要るがこんなの建前。註文が増えて在籍するワーカーだけでは対応し切れず一日2交代制を続けている工場もあり、お陰で辞める社員が一人もいない位に忙しいところもある。工員は残業代と深夜手当が増えると喜んでいる現金なもの。自分で遣うよりも実家に送金、本人は慎ましく過ごす。こんな状況をみます。
9月30日、労働省は残業時間の規定を改定する案を政府に提出。これは月の残業時間40時間を超えないとする今の法律を、特定業種に偏ることなく全ての業種で年間200~300時間以内にするというもの。現行では繊維・縫製関連業、靴・履物製造、農林水産業など輸出関連や国民の生活に直轄し、日取りや時間を制限できない事業など残業時間枠を300時間になっています。
しかし今回は事情が事情だけに、もちろん賛否はあり、各業界の意見を聴収して検討するが、労働者が確保できなければ経済に悪影響を及ぼすため、企業の生産力の回復を目的としており、長期に亘って継続する残業が労働者の負担とならない前提で改正を考えているとあります。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生