ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議

2023年10月17日(火)

インドネシアの首都ジャカルタで開催されたASEAN首脳会談。ASEANに加盟する10ケ国、中国、アメリカ、日本、韓国、インド、オーストラリア、カナダ、ロシアがパートナー国として参加。だが習近辺、プーチンの二大巨頭は不参加で、これには様々な憶測が飛び交っていたのは周知の通りです。

現地報に拠れば9月5日にベトナムのチン首相が演説を行った。その要旨とは、国際社会で複雑、多元的な変動を起こしている主な要因は、大国同士の熾烈な戦略的競争に拠ってであり各国は厳しい選択を迫られている。この中で加盟国はASEANが中心的役割を果たすため、互いの強みを活かし、域内で戦略的バランスを確保する必要があると、大国への批判的論理を展開した。
さらに最も重要なことは、加盟各国が地域の安全保障と開発環境へ直接に関連する問題に関し、原則的な立場を維持しつつ団結することだとした。
また加盟国の共通の利益を守り、独立、自立、遵法の精神を堅持し、その責任を果たすため南シナ海における共通の立場を維持・強化する努力をしなければならない。自制と紛争の平和的解決の原則を重視して、国際法と海洋法に関する国連条約を尊重し、南シナ海における関係国の行動宣言を継続的に完全かつ効率的に実現、法に基づいた南シナ海行動規範を活動する各国に求めて行かなければならないとした。明らかに中国へ牽制の意味合いが強く出ています。
国際的な戦略摩擦や地政学的な競争に直面しても、毅然とした態度で望むためには加盟国の団結が重要だとも強調。これは地域の平和と安定、発展に向けた対話と協力への取り組みを先導する上でASEANの役割を強化するベースになる、と締め括りました。

特定の具体国名こそ出していないが、ひとつにはロシアのウクライナ侵攻への解決を促しており、これに伴いアメリカなどの後方支援で泥沼化している現状は世界経済、特に新興国へ重大な打撃を与えているとの批判が言下に取れる。
また海洋問題は、中国の東シナ海への進出であり、埋め立てに拠る領有権主張への問題提起。表立っては批判出来ないが、不法な自国の船舶や漁業への大型中国船の威嚇や実害を意味している。これはフィリッピンも同じで、大国への一向に止まらない嫌がらせへの抵抗が読み取れるのです。

さらにミャンマーの軍事政権へは暗黙の非難。ASEANが主導して平和的に解決するべく、インドネシア・ジョコ大統領と特使の派遣を支持すると表明。
だが全面的かつ平和的解決など見込める要素など何処にも見当たりません。

・チン首相 中国の李強首相と会談

両者は首脳級会談の定期開催を増やすことで合意したと報じられています。
これは前回のコラムに書いた通り、チン首相が訪中した際に王毅外相と会談し、ハイレベル級会談を増やすことですでに合意に達していた。しかしASEAN首脳会議と関連会議に於ける会談でも、国内外へのアピールでもある訳だが、両国の包括的な戦略パートナーシップが前向きで、発展的に進んでいることに満足。両国が一より実践的で深い協力関係の促進に同意したとあります。

チン首相は、ベトナムは中国との関係を戦略的選択であって、最優先事項だと考えているとさえ伝えたとあります。ベトナムの各行政機関はハイレベル交流を進めるため、また両国の指導者が共通認識を具体化するために、多くの措置を効率的に展開するとして、中国側の機関と連携を深めていると報じています。
両国が持つ懸念する事項に関しても、積極的に解決してゆく姿勢を双方で確認したともありますが、先のチン首相の演説にある通り、これまで東シナ海での領海問題、これに付随したベトナム船舶への妨害は一度たりとも収まった試しがありません。日本政府は海上警備のため巡視船を供与しており、ベトナム軍も監視を怠ったこともない。しかし中国の海警局の船は大型で重火器を備えて威圧的行動をするため、容易に対処できないままにベトナム漁船は泣きの涙。
まるで一事が万事、一発触発状態なのだが、解決への意向など中国は全く持っていない。あるならば引き上げている筈だが、性懲りもなく絡んでくる。
このような事情を含んだ演説内容であっても馬の耳に念仏か、釈迦に説法状態。ウンともスンとも言わないのは完全無視とも取れ、理解する意志が無い訳です。
中国としては何としても自国勢力圏にベトナムを引き込んでおきたい。それはやはりチョン書記長への信頼が一つにあることと、貿易関係においてベトナムが中国から離れることが現状では不可能であるのを見越しての囲い込みが実態である訳です。これは長い歴史から見ても明らかで、過去に千年も続いた南越という隷属的でしか見ていない、と考えても過言ではないかもしれません。
もはや朝貢外交の時代へと遡る時代では無かろうに。

今回習近辺主席が参加しない事を受け、中国はベトナムと双方から書簡を交換して緊密度を演出しました。そして広西チワン族自治区・南寧市で開催され、中国が主導する第20回中国・ASEAN貿易投資サミット博覧会へチン首相の出席を歓迎すると述べたとある。
これは中国からのベトナムを仲間に引き留め、投資を加速したいとの強い意向であると邪推するが、ベトナムから輸入を促進するものでなく、反対にただでさえベトナム側の大幅入超である輸出を増やそうとの狙いがあると考えます。
チン首相の思惑は、ベトナム製品の中国側の輸入拡大や農水産物の貿易促進。巨額貿易赤字が続くため、市場開放と中国を経由した輸出の制限緩和の要請であり、また通関業務のスピード化と処理能力の向上を提案したという訳だが、そこまで考えてくれる余裕がはあるのか。

だがベトナム国内ではまた、チョン書記長とアメリカ・バイデン大統領が電話で会談。訪越を前にしてインド太平洋経済枠組みについて意見交換しており、南シナ海を含めたインド太平洋地域での平和と安定の維持、航行の自由確保に関しての必要性で一致をみた。しかしアメリカと中国との等間隔でのバランスと安定を如何に取るか腐心しているとされ、舵取りが大変な状況が続きます。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生