アメリカ・バイデン大統領の初訪越

2023年10月25日(水)

10日・11日の両日、バイデン大統領は国賓としてベトナムを初訪問した。
これはベトナムにとって越米包括的パートナーシップ樹立10周年記念の一環と言われ、現地各メディアでも大きく報じられていました。

VOV5ベトナムの声放送に拠ると、10日ハノイ・ノイバイ空港に到着したバイデン大統領は、ブリンケン国務長官、サリバン国家安全保障担当補佐官、ケリー気候問題担当大統領特使などが随行、国賓外交を始めたとあります。
これまでの両国関係の良好な発展からみて、意義深い節目になると期待されていると記事が目立ちます。

10日ベトナムとアメリカは包括的な戦略的パートナーシップの確立に関する共同声明を採択。会談後の共同会見では、チョン書記長とバイデン大統領は、「関係の格上げは両国の平和、協力、及び持続可能な開発を目指すものである」と中国を睨んでか、これまで以上の緊密性を強調した。
チョン書記長は、1995年に越米関係が正常化されてから、効果的、実質的に発展。これを基礎に両国民の利益、新たな段階における平和と、持続可能な開発への協力強化に向けて両国の指導者は共同声明を採択したと述べた。
書記長の要旨は、相互理解屋それぞれの正当な利益、独立、主権、領土保全の尊重、内政不干渉は基本的な原則であり、両国関係及び国際関係において重要な意義があるとも強調。

アメリカがベトナムを支持していることを高く評価し、重視もしている。またこれまで以上にイノベーションを柱とする貿易・投資分野での協力促進を通じて格上げされると発表。ベトナムへ先進・先端技術支援の要請を行なった。
ベトナムは独立後、アメリカや他の国との関係を推進。この原則は全ての国の友人になることを強調。第13回党大会では独立、自主、平和、協力、発展、全方位、国際関係の多様化、各国の信頼に足りるパートナーであり、国際社会の責任あるメンバーであるという対外外交が再確認されたと語った。

国際関係の主旨に踏み込んでいるのは、多分に中国を意識してのことなのだが、過度な刺激はしたくない。怒らせて中国から資源・素材や部品の供給が止まるとベトナムは喰っていけません。だがアメリカとも上手くやって、バランスを取り、深化させたい考えの表れだと感じるのです。昨年の中国訪問に先立って2015年には訪米し、共同宣言を行っている。
一方、現地報道に拠ると、バイデン大統領が自身の訪問は歴史的とし越米両国にとって50年に渡る関係を振り返る良い機会。新たな関係となる1ページであり、過去の衝突から関係正常化へと移行したが、世界の最も重要な地域での安全保障と繁栄の促進を目指し、両国関係の格上げを決定した。これは地域と国際関係に大きな影響を与える課題に直面している中で、両国関係の力強さを示すもの。と暗に中国を意識的に念頭に置いたスピーチを行ったのです。
地政学的、また歴史的にもベトナムの置かれた環境と位置は、地図を見れば納得できるが、世界各国からみて、取り分け東西陣営という対立構造からすれば、殊のほか要衝なのは歴史的な事実。ベトナム戦争後にロシア海軍(バルチック艦隊寄港でも因縁がある)が長期間駐留したカムラン湾、時折主要国の船籍の軍艦が入港したことが証明しているし、ダナン港もまた然り。

また先に挙げていた南シナ海で中国が実力行使する、傍若無人の海洋法を無視した行動は、何時までものさばらせておく訳にはいかない緊急課題。引いては世界危機の通じる訳で、ブリンケン国務長官、サリバン国家安全保障担当補佐官を引き連れて来た理由はまさにこの安全保障を重視する姿勢を見せたのです。
これに対して、ベトナム外務省筋では、中国の新地図など認められないと公言している位、流石にチャン書記長も完全に同意しなければ国内は治まらない。

今回大統領が言及した中で、科学振興分野での協力体制の深化で目を引くのは半導体産業のサプライチェーンを構築計画に及んだ事です。実際に中国からの工場移転は進んでおり、さらに不安定な経済状況やビジネスを行うに際しての法改正に拠る社員の危険性が増したことで、この傾向は増える可能性が高い。

中国の現状からみれば、半導体関連産業の西側集中はアキレス健となる訳で、厳しい。だがベトナムとしては新しい産業分野の構築と育成をしなければならない段階であるため大歓迎、遠慮は無用と言うべきか。
他にも複数の重要な貿易協定が締結されたとしているが、グリーンエネルギーへの移行と気候変動に関しては、ケリー気候問題担当大統領特使を同行させた理由は此処にあるのです。

さらにベトナムが遅れている医療、教育分野での協力、草の根外交の促進に取り組むとしている。大統領が「過去の衝突」に触れたのは、ベトナム戦争後に残された地雷とか不発弾処理、ダイオキシン除去と土壌洗浄、行方不明兵士の捜索と遺骨収集も挙げているという。だが過去への謝罪はない。

実際に激戦地では地雷が埋まっている。これを除去するため、南の兵士だった人たちを現地に送り込んで除去していたことがあり、事実、筆者の友人がこの危険な作業に中部・チューライ近辺まで行かされたことがありました。
またこれまでベトナムは、民間人がダイオキシン被害救済をアメリカの裁判所に訴えたが何れも却下されている。今でも薬害が隔世遺伝で出ている非人道的化学兵器の行使と被害の事実は明白であるが、被告となる最終の人物(犯罪人)は大統領になるという見解から、何としてでも避けなければならない。という話もあるが、無慈悲にも一切の救済措置を講じる事はなかった。
これは韓国軍(アメリカの傭兵)のアメリカ軍より残虐な行為も同罪であり、韓国内でその事実は無かったと、おとぼけの限りが政府の公式発表。

ベトナム航空は大統領訪問に際し、ボーイング機50機を100億ドルで購入することを決定、覚書を締結した。VN機の殆どはエアバスだが、アメリカに乗り換えか?またFTPも1億ドルを投資、アメリカに半導体関連工場を建設する計画。まさにうってつけの同社、産業を急速転換して成長を再び加速する。

・チン首相 バイデン大統領と会見

11日にチン首相はバイデン大統領と会見。この中で両国が持続可能な開発のため包括的な戦略的パートナーシップ関係を格上げした事に重要な意義があると強調し、ベトナムのアメリカに対する終始一貫した立場を明確にしました。
そのうえで、アメリカにはベトナムの市場経済体制を早く認定する事と、投資と貿易に関する枠組みの協定を格上げすること、またハイテク企業がベトナム進出を促進するよう奨励する事を希望したとあります。
陰りが見えた韓国・サムスンからアメリカのハイテク、半導体企業へ移行するとまで深く考えている訳では無いだろう。だが単に輸出と貿易黒字一位というだけで満足せず、より一層の投資と企業進出を期待するのはリップサービスでない。これに拠って国内産業の構造的変革と、経済活性化を図りたいのが本音であろう思われます。
ところがベトナムは中国と6月に閣僚級レベルでの会談を相次いで開催。また中国のCPTTP加盟支持を表明、この辺りどっち付かずの対応をせざるを得ないのか、あるいはお得意の全方位お友達外交で逃げ切ることが出来るのか。

アメリカも6月に原子力空母ドナルド・リーガンをベトナムに寄港させており、アメリカのベトナムへのプレゼンスをアピールしています。
これは軍事面での協力関係と、紛争海域で勝手な真似はさせない、安全保障をアメリカが担うぞ、という意味合いも含んでいるのかな、と推測しています。
またこれより先、トゥオン主席は越米関係が最盛期に入っている。かつての敵から中露と同等となった。これは戦後の関係回復と友好の世界的模範になっていると話したという。
これからも両国の相互信頼、相互理解、相互尊重、バイデン大統領がもたらしたモチベーションで、実質的に発展してゆく事を確信すると持ち上げた。
これに呼応して大統領は、パートナーシップの確立は、ともに試練に対応し、将来を迎えることが狙いだとあります。では試練とは何か?中国・ロシアとの関係の深さが壁として立向かってくる事を示唆するのか。あるいはベトナムの国家体制自体が阻害要因になるのか、意味深長です。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生