ベトナム南北新幹線に興味を持った中国

2023年12月19日(火)

10月に中国で開催された第3回一帯一路国際協力サミットのフォーラムで、中国港湾建設公司社長、兼中国交通建設グループ代表のバック・ゴ・チェン氏は、ベトナム計画投資省のズン大臣と会談した際に、ベトナム南北高速鉄道を含む多くのプロジェクトへの投資を行ないたいとの意向を示したとあります。
これまで中国交通建設グループは、1996年からベトナムへ進出し港湾開発、火力発電所建設案件など20以上のインフラ整備を行ってきたという。
そして此処にきて南北高速鉄道開発計画への参加をしたいと表明。さらにこの他に大規模プロジェクトである高速道路建設と拡張計画、風力発電などの国家インフラ整備に関する事業への参画に言及したとあるが、企業進出だけでなく基盤整備への投資を虎視眈々と目論んでいるのです。
これは他のアジア・アフリカ諸国へ、これまで懐柔してきたシナリオそのものと全く変わらない。イタリアはメリットが無いとして離脱する考えのようだが、一部の国は危険と知りつつ、これまで中国から多額の借款を受けて来た償還が出来ず、租借権を中国が取得したというけれど、初めから暗に計画されていた債務不履行が表面化しただけに過ぎません。
中国へチン首相共々参加して、予め決めてあった筋書きにまんまと嵌った形と言えるけれど、ベトナムは否応なしに会談に臨まされた格好と言えなくはない。
この提案に対してベトナムのズン大臣は、中国の高い財政能力と技術力、また優秀なマネジメント力を有する企業が、主要インフラプロジェクトへの入札を奨励すると歓迎の意を述べたとしています。
しかしその一方で、過去に中国企業が参加した一部のインフラ案件での限界を指摘して牽制することを忘れなかったのは極めて賢明であったと言えます。
大臣は共有、協力、支援、相互補完、相互利益と言う方針を持ち出して、この企業が単なる一民間建設企業ではなく、ベトナムに於ける戦略的投資家としての位置付けであり、その立場での振る舞いが必要であるとも指摘したという。
さらに効率的で持続可能な形でインフラ整備の開発管理を行うように、我が国と中国首脳が合意して協力の実現に貢献するようにし、経験の共有、人材育成、技術移転に取り組むべきと、吞まれないようにしっかり述べたという。
これ等の内容はこれまでに進出してきた各国に対しても、今後のベトナムへの投資に関してベトナムの方針を伝えている内容であって、中国にもこれを守るように促した形であると言えます。
これに対し中国交通建設グループは、真に両国の懸け橋となるようにベトナムのインフラ整備の各プロジェクトに付いて、参加できるように努力すると述べたと報じられているが、腹の中までは分らない。
南北高速鉄道は過去に一度計画段階まで進んだが、国会で否決されています。
当時資金面は元より、果たして今のベトナムに必要か、との議論の結果でした。
当初から日本への発注を頭に入れての計画だったが、見栄で建設できるものでは無いし、収支計算すれば黒字になる筈などあり得ず時期尚早という訳でした。
しかし鉄道計画がまたもや各地で計画され、共産党政治局は2030年までに工事開始、2045年に完工できるとした。だが此処に来て最高意思決定機関は2025年までには全ての投資方針と手続きが完了されなければならない、2030年には工事が開始されると結論していますが、インフラ整備は国家の基幹で経済や社会への影響も大きく何れは必要なのだが、余りにも性急な事でこれはどう見ても無理な話。だが2026年から2030年にハノイとヴィン間での区間、ニャチャンとHCM市の二つの区間が優先されるとしています。

事前調査では総延長1559キロメートルを、時速350~350キロ/Hで運行。従来の鉄路は運輸用に転用するとある。これを政治局は南北高速鉄道を都市鉄道で、主要経済の中心地、港湾、空港、国境に接続するバックボーン軸と特定したと報じられています。総費用は58億ドルともあるが、これまでも地下鉄工事でも膨らんだ通り、予算枠には収まらないと考えるのが妥当です。
今年1月に鈴木財務相が訪越した際に、チン首相は鉄道建設への日本の支援を二度目となる要請をしています。だが首相は取次であって、中国寄りとされる主席の意向がどう出るかで大きく変わるが、中国側もベトナムの顔色を観察、どう出て来るのかを伺っていると思えるのです。

中国はインドネシアで建設した高速鉄道の成功をネタに、ベトナムでの二匹目のドジョウを狙っている訳だが、インドネシアでは工事費用の問題から日本案が否決され、ジョコ大統領は中国を選んだが用地買収の遅れもあって、完成もずれ込んで今年のASEANでようやく間に合った経緯がある。安全面やこれまでの運行システム、車両、保守保全など、地下鉄建設に運行とは全く事情が異なるけれど、何処まで理解と認識されているのか良く解からない。
またもや日本との駆け引きになるのかだが、所詮は資金を借りなければ建設は出来ないし、運行状況(人の移動)から黒字となるのかも疑問。果たして計画通りに進むのか。それより都市交通の整備と、HCM市~メコンへの復活なども控えており、優先順位の取り方に問題はないのか。

此処に来てまたもや新しい鉄道建設の話が出て来た。
現地報に拠れば、チン首相はベトナムと中国を結ぶ標準的な高速鉄道の開発の必要性を検討しているとあります。
これは北京で行われた習近平国家主席との会談で、チン首相がベトナムの農産物の市場開放を強化し、貿易を促進するために事務所開設を要請した。そして中国がベトナム製品を第三国へ輸出する割り当てを与えることに加え、これに対して両国を結ぶ高速鉄道の協力を検討する様に依頼したとあります。
また中国企業のベトナムへの高い質の投資促進、交流を望み、二国間の強靭な社会基盤の構築を称賛したという。こうした安定的で長期的な関係強化はベトナムにとって最優先の戦略的関係だとした。
こうなると中国の思うつぼ。なし崩し的にベトナムに乱入する可能性が高い。
まさに罠であるのを知りつつ、自ら望んでというのが解せない。

習主席は意を得たとばかり、同じ様に外交政策としてベトナムは最優先事項で、両国、両党の関係を強化すると表明。ベトナムの提案を受け入れ準備する旨を伝え、意見の不一致を管理し、適切に処理、また海上での平和と安定を維持することに合意するとした。
結局は口先だけの、リップサービス。この先、どのように実務レベルで調整が図られるのかだが現場の反応はどう出るのか。
バイデン大統領に先を越された習主席。ベトナム訪問を行う手はずだというけれど、こうしたインフラ事業への中国企業の参入を、ベトナム側に強く打診させられる羽目なれば、受けざるを得なくなる状況に追い込まれるのは必至となるのは目に見えている。ベトナムは高速鉄道を建設したいが低金利の資金を調達する必要がある。建設技術に列車を造る技術はない。となれば渡りに船。
ただで習主席は帰れないと中国は切り崩しを計るかも知れません。
しかし此処に来て前首相の急逝。何かと取り沙汰されているけれど、真相は分からないにしてもどうやら市民に不満がくすぶっているのは分かります。また愛国法の来年からの施行。これに拠ってますます以って習近辺への忠誠と権力集中が見え隠れするが、外資系企業の撤退に拍車がかかる可能性は否定できません。となれば今年に明らかになった不動産の巨額不良債権の露呈と、さらに国内大企業への締め付けなど、経済が極めて深刻な危険水域になるのは容易に考えられます。自国経済のハンドリングさえ出来ないのに他国のインフラなど考える立場には無いのだが、それでも集中的にベトナムへの投資は南北縦断高速鉄道を皮切りに推し進めるのでしょうか。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生