政治にビジネスが翻弄される?

2024年6月21日(金)

5月16日、中央執行委員会は序列5位のマイ女史(政治局員)を解職した。4月に越日友好議員連盟会長として来日したばかりで、中央委員・書記局常務など重要職に在ったが党規違反とされ、本人の辞任申し出を受けて解職とある。これに関する詳細は伝えられておらず、またも相次ぐ指導部の重要人物の解職。これは明らかにおかし過ぎて何かあると勘繰られても仕方ありません。チョン氏のコメントはなかった。
女史は1958年、クアンビン省の出身。歴史学と法学学士、公共行政学修士。
2023年3月から書記局常務であったが、僅か1年の任期。今年4月に来日し首相とも会談している。越日議員連盟会長でもあった。
これで僅か1年程の間に合計6人もの国家の指導者が解任という異常事態。
新人事が発表されたが、この中でレ・ミン・フン官房長官が中央組織委員長に任命された。彼は日本の国立大学に留学経験もあるという人物。
また日本国内では自民党内が裏金問題で大荒れ。日越議員連盟会長でベトナムがお気に入りだった二階しも奇しくもこれで辞めざるを得なかった。ご本人は入院。退院したとしても、しょせん巨像は虚像でしかなかったのか。
どうでも良いけれど、日越窓口の二名が跡を濁して居なくなった。リタイアした筈の元日越議員連盟会長であった武部氏が今以ってベトナムに往還しており、居場所を誇示している模様。過去の栄光をベトナム刻んでおきたいとの気持ちはもしかして二階氏にも在る。しかし彼にとって何をして魅力ある国かと思わざるを得ず、また入院したとなれば年齢も年齢、夢のまた夢と終わるのか。
混沌とした政治情勢ながら、先記の通り日本企業にとって対ベトナム投資意欲は未だに強く、今のところは魅力度が落ちていないと見受けられます。
こうした中で、近年のベトナムは2022年から続く汚職撲滅キャンペーンで、ビジネスにあってはこの影響から新たなリスクがあると考える必要があります。二年ほど前、進出したプラスティック企業T社が政府高官へ賄賂を贈り有罪になった事件がありました。相手から要求があり断れなかったと弁明したが無駄。余りの高額ゆえ流石に黙認はできない。有能な現地コンサルタントが居てこそ避けられた事だし、会社も現地事情が分からずに赴任させた問題は確かにある。
さらに国内でも2022年には新型コロナウイルスの検査キットの不正価格での販売に拠る利益供与。これは保健省の大臣やハノイ市長など100人が逮捕されるという事態で、リベートの総額は50億円にもなるという。
また日本からの実習生の帰国に際してベトナム政府が用意した臨時便での不正。これは手配した旅行会社が過大請求する手口。外務省幹部や駐日日本大使など507名近い逮捕者が出たのです。
おりしも不正撲滅をリードするチョン書記長が躍起になっている中での事件、政府高官が引き起こした事件に書記長は怒り心頭だが、ただでさえ輸出加工区では税関のオネダリが頻繁にあって、日本大使館や商工会などが政府に撲滅を申し入れているにも拘わらず、現場では一向に改まっていないのが現実です。
さらに民間の新興不動産企業で一大コングロマリットであるFLCグループのクエット会長が株価操作で逮捕。また不動産大手タンホアミン社会長のズン氏が私募債発行の不正で逮捕。同VTPグループ、ラン会長(死刑判決)の社債不正発行で華人G86人の逮捕が続いたため、外国人投資家は不動産・金融はリスクが高いと敬遠。与信管理が厳しくなり、価格が急激に下落したのです。
こうした一連の不祥事は、成りあがって来たナンチャッテ経営者が多いという証明で、例え大手企業であっても信頼出来ないし、経営力は思う程ではないというのが現実。人は居るけれど、有能な人材がいないという企業の内幕の証明でもあります。また根深く政治や行政に忖し、これに伴い大なり小なり、見返りの賄賂が国内外企業に社会悪として平然と横行している実態があり誰もが遭遇するのです。

以前、このコラムに書いたが、2年前にはフック主席を始め2名の副首相など解任。さらに今年3月にはトゥォン国家主席が党政治局員・党中央執行委員・国家主席・国防安全保障評議会議長として役職を全て解任。5月には国会でフエ国会議長は政治局員と国会議長の職を解任、これはベトナム政治史上前例がない異常さ。多くの雑誌などで紹介されているのが、ベトナムは共産党一党支配なので政治的に安定している。というけれど、実際にはもはや通用しない恐怖政治だということです。
政治的空白と、またこうした政権トップからの賄賂撲滅指示で萎縮しているのが行政。これまでの経験だが、申請書類を通すため、それなりに融通が利く支援企業が長い時間を掛けて築いて飲み食いしてきた人間関係が効いてくる。でなければ何時までも机の上に書類は下に積まれ放置したまま。

法律的には決済の期間に定めがあるけれどそうはなりません。許認可のスピードは以前に比べて早くなったが、それでもアジア新興国は担当者が他者に任せないのが通常。組織ではなく、人が人を動かすわけで、ゆえに人治国家とも云われるのです。即ち行政であっても個人とか縁者とのつながりが重視される世の中。しかしこの所、一連の事件と、その撲滅効果で事情が少し変わってきたとある。

かつて大学卒は超エリート。30歳代で本省の部長、企業の役員は多かったのだが、こういう学卒者グループのコネクションの絶大さとか、人脈の結びつきの強さは事業や権限を超えているが、これは実際に経験した者でないと理解できない。通り一遍の現地視察なんて見せられる所を回るだけ、国の出先機関でも出来ない。中小企業が訪越しても本当に知りたい真の現場とのコネクションは無く、分りっこありません。
如何に現場に精通し、人脈を持っている現地のキーマンを捕まえるかが最大の課題。これに金を惜しんではならないが、日本の多くの企業は殆ど無駄で分厚い資料作りに金を出しても、真に必要な金を出さない吝嗇。だから韓国に負ける。進出に関して何が重要なのか。もう一度整理してみようと考えます。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生