ハッピーターン

2022年1月10日(月)

これ有名なお菓子の名前。せんべいに振ってある何とも表現できない魔法の粉が病みつきになる、という人気ぶりだとか。大阪・梅田阪急百貨店では一時期幻の高級品を販売、たかが袋菓子とバカに出来ません。
グリコ・ポッキーの高級バージョンも同じで、山のような人だかりで直ぐ売り切れる。何でこんなモンまで思うけれど50年以上続くオリジナルが一番いい。消費者の口が肥えて贅沢になった証だが、其処まで差別化する必要はあるの?
此処は日本の菓子が人気。土産にすれば喜ばれ、TV収録の際にも村の子供にあげれば親が喜び撮影などスムーズに行くほど。
このせんべいや、柿の種などを製造する亀田製菓。今年5月にベトナムで米菓を製造する合弁会社を子会社化するとの新聞記事がありました。
現社長が過去にベトナム責任者(当時は課長)として赴任したが、2年足らずで撤退。今回は文字通りハッピーターンとオチがありました。
因みに、やめられない、止まらないというフレーズ、かっぱえびせんのパクリがあり、OISHIと名前そのままいける味。
進出を誘ったとあるのが既に進出していた神戸(当時は尼崎市)のコンフェクショナリー・コトブキ。この会社、進出したけれど、南北の事情の違いを考慮して南・北夫々の合弁で2社に分けていたのです。
まだ進出企業は少なく、何をしていいか分からない日本企業向けに成功例として様々な本に書かれていました。
当時、1990年代には、コトブキが造る洋菓子など目が飛び出る程美味しい。こんなものが世の中にあるのか?と感嘆。
余談だが現法社長をしていたT氏は一番儲かるのはドライ・アイスの販売と話し、他にホテル事業(現ロッテホテル)等にも進出。一見大成功しているかの様子だったが本家本元は起死回生で進出の筈でした。
さて置き、今はベトナムの両社とも株式を上場しており、年間10数%伸びていると言われる菓子市場で結構上手く行っているが、ベトナムで米菓を製造して販売という海外初進出の成功に向け、同社とコトブキ、三菱商事に現地菓子メーカー・ハイハコ社の4JVで急遽会社を設立した。
亀田には現地で菓子工場を経営する日本人Y氏も協力したと言っていたが、思う様には売れなかったのです。
今でこそスーパーではタイで造られた一見日本製と間違う様なあられ・おかきが棚に並んでいるが、この当時(約20年前)にはベトナム米を使ったことや、製造にムラがあって食感は良くなく不評の様で、また現地の販売をハイハコ社に依存したため営業が疎かであったという事もあり、売れず赤字が嵩んだため
結果は失敗、撤退する破目になった次第です。

・失敗の原因

この当時、外資系企業の進出はそれほど多くなく、ベトナム経済も今ほど評価されておらず貿易赤字。所得も少ない。要は殆どの人が生活ギリギリで余裕のない状態。ベトナムの菓子は沢山あるが、例えばケーキはバタークリーム。
量販店は少なく、パン屋(ケーキも売っている)には冷蔵ケースがない、殆んど日本の昭和30年代。
ベトナム人の主食は米だから、米菓も売れるだろうと思ったに違いありません。
確かに情報は多くない。勢い進出して成功していた同業に勧められ、今進出しないとライセンスはとれないとでも思ったか、焦りと勘違いがありました。
私はIBPCの現地在住アドバイザーとして日本企業の視察や進出支援を行い、またセミナーでは現地事情を報告、コラムを発信して真の実態などを伝えてきました。これらの経験を基にした推測に拠ると、撤退の理由は下記に記す様な要因が考えられます。

・事前調査が出来ていなかった あなた任せは失敗する

常に話すのは、社員を少なくても数カ月滞在させ現地を知ること。必要な情報を収集し、本やセミナーでは分らない本当の実態を自分の目で確かめること。これにはそれなりの人脈を持つ人や、しっかりした日本語が解せる人が重要。
また日本の物なら何でも受け入れられると言う考えは間違っています。

・合弁に頼る読みの甘さ 相手先を過信してはいけない

4社のJVは自信の無さの表れ。呉越同舟どころではなく、収まるわけがない。また販売をルート持っているからと言って、現地企業に任せたのはマイナス。マーケティング戦略やセールス能力がなく、財務体質も強くない企業は多い。   
若い人が頑張って日本に進出するなど近年随分変わってきたが、こうした人達は海外留学、彼の地の企業で勤務経験もある。企業格差は随分あるがこれなら将来は期待できます。しかし筆者の経験から多くの経営者はビジネスセンスがない、井の中の蛙。海外企業と仕事をするうえで必ず生じて来るリスクがあることを認識すべきです。ある時、現地企業を調べて欲しいとの相談。まず社長なりが来越し、直接企業を訪問して自分で確かめなければいけません。大手だからと言って安易に信用できるものではないのです。経営理念はあるのか、企業や工場、社員の雰囲気、販売先などの確認。日本でビジネスに揉まれた人なら直ぐに見えてきます。
今では上場企業の財務諸表が一応は確かめられるし、監査法人や弁護士事務所もあって調査もできる。またコンサル会社は多いけれど、地元に強力な人脈やコネクションを持つ所は意外と少ないのが実情です。

・商品力が問題 要は売れてナンボ

現地の人の嗜好はどうなのか。日本料理や菓子は人気だが、さて参入するうえで味覚や製品に勝算はあるのか。仔細は不詳だが20年程前とはいえ市場調査無くして無謀としか思えず、勘違いの代償は大きい。
大阪のさる会社が来越。わざわざ自社のサンプルを持ってきて、現地のトップメーカー、NO2企業などを訪問した。相手は熱心ではあるが能力に疑問を感じ進まなかったが、製品を試食して、担当者と話してみて初めて相手の状況が分かることは多い。そういう経営者の直感力は大切です。
今ではベトナム側に委託生産した菓子が日本の量販店の一部で販売されているけれど、安いが美味くもなく、それだけのもの。
ベトナムでSPAするのならともかく、敢えて製造しなくても日本でもこれ位ならできる。目的が無くつられて進出する事が正解かどうか考えるべきと感じます。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生