粉もんと調味料の数々

2019年11月23日(土)

ベトナム料理には絶対欠かせない、何処の家にも常備してあるヌック・マム。
司馬遼太郎は「ベトナムはヌック・マムの匂いで溢れている」と書いている程。ヌックとは液体、マムは魚などの塩漬けの意味です。
この他にはヌック・チャム、マム・トムという発酵したエビや小魚の調味料がありますが、強烈な匂いがありベトナム人でも好き嫌いがあり、独特の匂いのある琵琶湖の鮒寿司や伊豆のクサヤを食し、世界一の発酵技術を持つ日本人でも食べ辛い様です。

このヌック・マムとベトナム醤油ヌック・トゥーンについて触れてみます。
ヌック・マムは日本では秋田のしょっつる、能登のいしる、タイのナンプラーと並ぶ魚醤。
南端フーコック島産が一番の様ですが、中部のファンティエットやニャチャンも有名。ベトナム人に言わせると塩が違うといいますが、アミノ酸にミネラルがたっぷり。製法は小魚を樽(昔は木樽)に入れ、3ヶ月間ほど塩漬けにして発酵させ、染み出た液を漉すだけの極めてシンプルなもの。それ故にかえって微妙・繊細で風味は天候で大きく左右されます。
各製造所では使う魚の種類、鮮度に気を配ります。塩の分量や積み方、家伝の秘密が加わり、これで出来上がった製品の色、味、香りが異なるそうです。
最も美味しいのは一番絞り。これを別の樽に移し替え更に3ヶ月ほど寝かされるのです。時間を掛ける程に良いヌック・マムに仕上がるといい、ワインと同じくヴィンテージ物。ラベル表示の度数が高いものほど品質は良く、綺麗に澄み、コクと風味があります。二番、三番手になると水を加えて漉しますから、透明度は低くなり、粘りも無く、味も匂いもよくありません。
ベトナム家庭料理で肉魚を煮込ものがありますがこれもヌック・マムが調味料。
ヌック・マムを味噌汁などに入れると美味くなります。日本のカレー・ルーにも添加されていて、『魚醤』と箱の裏に記載があります。
以前満足な薬が無い時に、家庭では火傷をしたときにこのヌック・マムを塗りました。日本でも捻挫等の腫れ止めに酢と小麦粉を練って使いましたが、いくら民間療法だからといっても余りにも不衛生で危険。それはいけないと言って私が薬屋で抗生物質とガーゼなどを買ってきた事があるほどです。

ヌック・トゥーンとは大豆から作るベトナム醤油のこと。日本の醤油に比べると色は濃いのですが、塩辛くはなく比較的マイルドで結構なお味。最近日本でも買える様になりました。
野菜、魚肉類にもつけると満点。ご飯にかけてもOK。夫々のお店ではヌック・マムにニンニク、唐辛子、砂糖、酢などを加えて独自のタレの味を創りますし、ヌック・トゥーンには唐辛子を刻んで入れます。
青い唐辛子は赤よりもさらに辛さが強烈なので注意。Ot Xanhといいますが、従業員に「オッサン」と大阪弁で呼んでみると持ってきてくれる!
開高健も大阪生まれのおっさんですが、晩年、サイゴンに居た時の情景を書いた短編『一日』の中で、青唐辛子の事を『緑色のトウガラシはしたたかに辛いけれど、入れずにはいられない』と認めます。
『朝・6時。明るくなる。』と書き始め『窓の外を行くウドン屋のおばさんの声を聞きつけようと耳を済ませる。おばさんはハダシで歩道にやってきて、ブリキの破片をあわせたのをチャカチャカ鳴らせつつ、フォ フォと呼んで歩き。過ぎてゆく。』そして『竹籠の一つにはビーフンや細ウドンが入り、もう一つにはニョックマム、トウガラシ、醤油などが入っている』・・『おばさんは呼びとめられると天秤棒を肩からおろし、いそいそと、欠け茶碗にウドンを入れて、オツユをかけ、トウガラシをふりまいて』とサイゴンの朝の風景を鮮やかに描いています。
この作品は遺作となって未完成に終わった『花終わる闇』の直ぐ前に発表した物語で、トリスおじさん開高は、大好きなコニャック・ソーダを毎晩飲んで、特派員仲間と過ごした日の記憶をなぞっています。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生

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