キャッシュレス社会へ前進するベトナム

2022年8月6日(土)

*まずは現金のお話から

現地報で「キャッシュレスが進むベトナム・ドン」(VND)との記事がありました。ドンとはベトナム通貨の呼称で、元々は日本から大量に輸入された銅を意味するが、HCM市内では何処の両替屋・金屋(金販売店)の率が良いなんて話が、在住邦人が集まれば仲間内で情報としてそれとなく流れたほどです。観光客は個人土産店で支払いをする時、両替したこのドン紙幣を頭の中で計算しながら渡す姿がひとつの風景であったのです。何しろ桁が円のほぼ200倍にもなっているので慣れないと頭が混乱するのは仕方のないこと。カシオを手にして割り算しても直ぐに納得できないので、横の友達とヒソヒソ話をしながら札を勘定している。
店員は出された札を丁寧に数えて、多ければ返してくれる。何と親切!と思いつつ、様子を伺うと、この札をレジスターではなく店主に手渡す。店主は再度枚数を調べて太った腹の中にしまう。しかし外国人の中には直ぐに計算出来ないため、過分に出してもしって受け取る輩も居て差額をポッポにナイナイ。後で気づいても遅いと恨み節。こんなやり取りが日常の仕草にありました。
札の人物の絵柄は全てホー・チ・ミンさん。大きさはみんな同じ。かつての紙幣は偽造されやすく、日本の様にしょっちゅう回収して新札を市中に出さないから汚い。価値が低いから文字を書いているとか、一部に欠損がってもそのまま流通。中国で両替した時はこれよりも酷かったが、何しろ大口決済には山と積むほど必要。当座預金なんてなく小切手も当然無いから数えなければ仕方がない。日系と違って、ベトナムの銀行は札計算機を貸してくれる親切な心など持っていないので往生する次第です。
これをオーストラリアで印刷。紙幣とは言うけれど、材質をポリマーに変更した。偽造防止だとか。ところが欠点もあって、直ぐに汚くなり、熱に弱くチリジリになってしまう。
こんな文句を言いながら、スリにあっても困らない様に各所に分散、しかも財布に入れないでそのまま裸で入れていた習慣。帰国してもこの癖が抜けずに叱られる毎日。

COVID-19感染前、来日した親しい家族と食事に行った際、支払いはスマホで決済。しかし何しろ以前も国内で銀色のカード、会社の社長ともなればこんな時代の先端を行くのかと思ったのだが、今ではその様な状況にすらない。苦労した外貨持出し制限や海外送金なんてもう意味がなくなったのです。
現金取引が無いかと言えばそうでないが、UBERにしても訪問先ではスマホで呼んでくれ「もう払ってあるからね!」なんて言ってくれる。日本でもようやくDIDIが始まったが、ベトナムは数歩先を行っているのは否めません。
この5月に早速仕事で来た時も、ホテルのチェックインも全てがスマホ一つで終了。
4月に終了したガラケー。もうこれ以上は面倒臭いと思いつつ、国内通話がタダというのに惹かれ、持ってはみたが、使いこなせないおじさんには苦痛の種の連続です。
この5月に早速仕事で来た時も、ホテルのチェックインも全てがスマホ一つで終了。
4月に終了したガラケー。もうこれ以上は面倒臭いと思いつつ、国内通話がタダという宣伝に惹かれ、持ってはみたものの、使いこなせないおじさんには苦痛の種の連続。

・銀行と社会の決済方法が変わってきている

長くなった枕詞はさておき、このところベトナムでキャッシュレスとかデジタルに関するメディア記事がやたら多くなってきました。
そのうちの一つ、世界各国で一般的になっているキャッシュレス決済は個人や機関に多大の利益と便益を齎したとしています。銀行にデジタル・トランスフォーメーションを加速する機会を与えていて、ベトナム変わったね、と思わずにいられないのは以前の銀行の状態を見ていればこそ。普通のオフィスビル内でのフロアで営業なので、誰も彼もが出入り自由。当社や日系テナントが多数入っている建物でも1階にカウンターひとつで区切られているだけ。11時ともなれば店内の照明をダウンし2時間の食事とシエスタ。アオザイの女子行員が床にゴザを敷き、我関せずにゴロ寝など絵にならず、百年の恋も醒めてしまう。元々が不愛想、まるでお役所仕事と思うほど。金庫もあるだろうに特別の防犯仕様でなさそう。カウンターを容易に乗り越えられるのは危険で不用心この上ないが何とも思っていない。かつてはこんな光景が当たり前でした。

どうやらこの所、この様なアバウトな雰囲気が変わってきている。ベトナム国家銀行の決済部門は短時間でモバイル決済サービスを受けるため、新しいアカウントを開設したがその口座は直ぐ100万を超えたと言います。
またベトコム・バンクは技術基盤への投資を奨励していると言う。決済部門の担当者は2025年までにキャッシュレス決済の発展計画を、都市部を標準とし、その範囲を遠隔の地方に拡大を目標にしているとする。

即ち、現金を使った対面の支払いからカード利用、さらに電子決済、非接触型決済へのシナリオを描き、人から人への支払いを、現金を使わないシステム構築を行う。
これは国家戦略でもあり、銀行にとっても重要な事案だとしています。
こうした急速な動きは、COVID-19による感染拡大が経済活動に大きく影響しており、これまで現金でしか決済できなかった形態から、非接触型決済への移行を促進することになったとしている。怪我の功名とは言いにくいけれど、切掛けを掴むのが上手かったし、日本の銀行の様にシステムなど先進的でなかったのが反って功を奏した。

これを裏付けるのは、2021年に行われたキャッシュレス決済が約18億6千万回で、その金額は23兆6千万VNDに達したと言う。これは前年の回数では169%、金額では164%の増加であり、今後はさらに促進されるとしています。
実際市民生活ではオンラインでの通信販売や決済、学校の授業料支払いでさえこれまでの振り込みではなく、電子マネー決済が出来るようになったとしている。
東南アジアの国の中では急速に発展的に普及しているのがベトナムだと、投資開発銀行は指摘しており、さらに進化するとみています。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生