ベトナムの不十分な予防ケアシステム パンデミックで露呈

2023年7月27日(木)

ベトナムの医療は未だ低レベルにあることに付いて、幾度となくコラムにした。このところは大病院やプライベート病院も出来て改善されており、移植手術が成功したとの報道もあるが、全国レベルで見ると世界水準から相当遅れているというのが現実です。素人でも分かるほど唖然とする診断をされ病院に苦言を呈した位に酷かった事実もあるし、要人や富裕層は自国の医療を信用せずタイや海外で手術や治療を受けているのが実態。

とは言え、筆者は地方の外科医にお世話になった経験があり、親切さと治療費の安さには心から感謝している。自宅開業医で夜の10時頃に縫合処置をしてくれたが、ハノイとHCMの両医科大学を出ている若い優秀な人でした。
日本製の各種機器が置いてあり、医療用照明も備えているから相当のレベル。英語もでき、まさかこんなとんでもない雛の村に、と思わず驚いた経験があり、まさに地獄に仏。彼も恐らく此処に外国人が来るなど思いも寄らなかったはず。
出生地に戻って開業医をしているが、日々進化する医療技術に医療・検査機器。変化のスピードに付いて行けなくなる可能性が無くはないので心配です。

有名な話だが、眼科医の服部さんは自費で何度も渡越。ベトナムの遅れた眼科医療、これまでは失明するしかなかった何百、何千もの患者に光を戻しました。
20年前は自らの無知を棚に上げ、目にメスを入れるなど想像できない現地の医師は非難轟轟。若い学生や医師を指導、バスで僻地へ行って治療。こうした貢献で政府から勲章を授与されている。眼科医療に関しては、会社の従業員を専門病院へ連れて行った事があった。どんな診立をされたか不詳だが、貰う薬は漢方のみで点眼薬はない。手術など聞いたことはなく技術が劣っているのは確実。患者は溢れているが、当然ながら処置できず失明する人は多いと聞く。
図らずも家人が阪大病院で角膜移植手術を受けることになったが、1時間程で終了、術後の入院は10日程。こんなことは現地では想像すらできません。

筆者は何度かHCM市最大のチョーライ病院へも行き、その状況をみているが、地方から多くの患者が来るために限界を超え、廊下にはみ出て横たわっていた。
地方ではまともな医療設備に機器類が無く診断が遅れて亡くなるケースもある。知人の母親は虫垂炎で逝去、父親もガンが発見できず気付くと進行していた。
現場のスタッフは検査機器を購入する金が無い、画像検査の解読力、医療技術が低い事を承知。日本へ研修に行きたいとか先進設備が必要、高齢化は進むが、介護のノウハウはないし、機能回復訓練用の機械器具も無く、あっても古くて意味が無い。役人が現状を理解していないなど不満は何処の国も同じです。
資格を持ち、看護や介護経験を持つ人が帰国してレベルアップに期待したいが、国際病院に勤務する人もいて在住者は安心して生活できます。

・予防医療制度はまして弱い

パンデミックが露見させたのは、ベトナムの予防医療制度が依然として貧弱で、医療従事者への国の支援も政策も不十分。そうしたことが原因で、COVID-19で多くの医師や看護師などが嫌気を指して次々辞めたと報じる記事がありました。
これは国会の監査チームが、COVID-19に対する医療資源の管理と関係者の動員に付いて開催された分科会で報告したもので、これに拠るとパンデミックが国の予防医学の弱点をいみじくも露呈させたとしています。

医療システムの組織など何年にも渡って大きく変化したが、医療従事者の労働改善は依然として不十分としている。彼らが追わなければならない重大な責任を考慮すると、支援すべき政策は適切でなかったと報告した。
この所は医療施設への投資には充分注意がなされておらず、医薬品、医療機器、またその他の物資は制限されており、地区やコミュニケーションレベルでのアクセスも不十分だと指摘。さらに金融とか医療保険制度にも問題があるとしています。
全国の地域レベルでの医療システムと医療サービスへの出資比率は、2017年の32,4%から、2年後の2019年には23,1%に低下したと発表。
また予防医療に対する人材は、必要とされる人員の42%しか満たしておらず、23,800人が不足していると報告しています。
この状況と低賃金に不十分な福利厚生、パンデミック時に起きた職場環境でのストレスが相まって彼らの士気を低下させた。こうした状況がますます多くの医療従事者が職場を変えるとか、現場から離脱しているとしている。

こうした事情を鑑み、国会は予防医学に関する政策と法制度の監視を強化しなければ、改善する方向にはないと提言。2025年までにこれらの問題に関する法案を提出するよう求めたのです。
保健省は無駄な投資を防いで、国内各地で医療施設のネットワーク計画を完成させ、また新しい病院を建設するだけでなく、地域での格差が大きい医療施設の改善に焦点を当てるべきと求めたとあります。

さらに保健省は、無駄な投資を防ぐため、ベトナムの各地域で医療施設ネットワークの計画を完成させ、発行するよう求められています。また、新しい病院を建設するだけでなく、地域レベルの医療施設の改善にもっと焦点を当てる事を求められています。
予防に関しては医療施設だけに付託するべきでなく、個人や家庭、学校や職場などもその任を負う必要があります。
日本では昔から様々な検診が行われているが、此処は学校の集団検診とか企業単位でも実施されていません。筆者が現地法人に勤務をしていた時でも日本人、ベトナム人スタッフ共にありませんでした。大手企業の社員など健康診断だけで帰国していたのは羨ましい限りです。
社会の一単位で行う啓蒙とか検診システムを国が構築しない限り、個人が健康を守るとか予防のために費用を負担してまでする事はありません。

・医療従事者は優遇されていない

現地の医療従事者の待遇は決して良いというものではなく、例えば僻地に居る看護師の給与の方が、都市で勤務する医師よりも高給という場合もありました。
こんな具合なので勤務医などは自宅でも開業していることもあり、法律上どうなのか知らないが、HCM市で小さな看板を掲げていたのを見かけました。
テレビドラマにもあるけれど、医師に対して患者の家族親類などが幾ばくかの金銭を渡しているというシーンがある様に、未だに多くの人はこうしなければ良い治療をしてもらえない、と思っているのは確かです。
さらに事故などで運ばれても直ぐに治療しない場合もある。逃げ得を防ぎたいためだが、家族に支払いの確認をしている場面なども、日本人には信じ難い。
また病院では検査や診察ごとに支払うとか、以前から薬局は別にしてあり院内では薬を出してくれません。*国際病院は殆ど保険診療なので異なる。
友人の姉は心臓外科のナース。手術の際の器具出しをしていたが、結構羽振りは良かったけれど、おこぼれに与ったのか!
およそこれらは今の日本では考えられないこと。しかし現地ではまかり通っているのも事実で、患者にとってこういう状況を改善することも提議しなければ不利益を与えている訳で、先進国家にはなり得ない。
日本は近年、入院の際の説明に、金品の贈与は禁止されている旨の説明があり、パンフレットにも記載されているので、いわば悪弊は消えつつある様です。

・一見すると正当な提言だが闇の部分が存在 これを解決しなければ意味無し

もう一件、定義の中では医療機器や医薬品に触れているけれど、これに関して大きな問題があります。
実際に販売会社の社長に会った際に聞いた話だが、例え日本から販売代理店として独占的に医療機器輸入販売している商社がある。だが直接納入はできない。全て病院のOBとか、或いは国営などであれば、その系列の会社を通さなければ納入できない。これは医薬品でも全く同じ。即ちトンネル会社の存在があり、医薬品や医療機器などの販売会社から体よく分け前を配分している実態がある。
こういう状況にある事を分かっていながら、何故この闇に食い込まないのか。これに拠って患者がその分高くなった薬品を買わされ、治療を受けている事は周知の事実なのに言えない上下関係の壁があります。
公平公正で忖度は一切しない患者の味方、ベンケーシーの様な医師が必要。

パンデミックが続き、日本でも医療従事者の過酷な労働に、辞職する従事者も多かった。またワクチン接種でも不祥事が発生するなど問題があった。しかし国は病院等の医療施設に多額の費用を拠出。このために赤字体質から抜け出し黒字に転換したところも多かった。だが現場のスタッフへの配慮は思うほどではなく、ベトナムと近い酷い労働環境にあったと言えます。

・COVID-19ワクチン開発を終了すべき

如何にも医療先進国、と言いたげなのか、テレビでベトナムでもワクチン開発をしている研究現場がかつて放映されていました。
HCM市1区にはフランスのパスツール研究所があり、ニャチャンで熱帯地域の感染症の研究をしていたので研究開発のルーツが無い訳ではありません。
しかしこの当時とは状況は異なる。
こうした中、国立血液学研究所というのがある様で、この元所長の言に拠れば、COVID-19は最悪期を脱したためベトナムが行っているワクチン開発は終了すべきと提案したという。
元所長であるTri教授は先の報告会で、独自に開発するのではなく、必要に応じて適切な価格で輸入するのが良いと語ったと報じています。 
この理由、ベトナムがこの特殊分野である感染症ワクチンを開発できない弱点は分かっていて、そう簡単に行くものではありません。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生