アパート火災で56名死亡

2023年10月26日(木)

トイチェ紙に拠れば、ハノイ市Thanh Xuan区(タン・スアン)の10階建てアパートで12日の深夜火災が起き、救助隊はおよそ70名を病院へ運んだが、子供10人を含む56名が亡くなり、他にも37名が負傷したと報じています。
15台の消防車が45分以内に?出動して消火、火炎は翌日の朝に消火した。40室には約150名が住むというが、まだ住居内に閉じ込められている人が居るとの情報があり、生存者の確認と捜索が続いているとあります。
ハノイ公安は死亡者の39名の身元は判明したが17名は不詳。タンニエン紙は、市内に住むオーナーを防火規則違反の容疑で公安が逮捕したと報じている。
原因は調査中だが、駐車場から出火した模様で、止めてあったバイクが数十台も焼ける被害に遭ったとある。
チン首相はこの大火災に関して、13日の午後、火災現場を視察。関係機関に原因の迅速な調査・究明を命じ、同様の悲劇を防ぐように指示したという。

駐車場から火が出たという事は、付け火か?深夜なのでバイクからガソリンを抜きに来た泥棒が、などの原因かもとの噂がある。実際に筆者も抜き取られた経験があります。だがアパートの入口はセキュリティーがフルタイムで駐在し、見知らぬ人物は住人に確認すことになっているはず。もちろん駐車場は火の気など一切なく、住民しか利用できない様になっているので、内部犯行か?
またこの火災をネット上で、電動バイク(のバッテリー)が原因に拠るものと言う情報が出回っているという。もちろん勝手な推測に拠るものでデマとまでは言い切れないが、騒ぎに乗じて恐怖感を煽っているだけなら大問題です。
当局が捜査中なので確かな情報はない。ところが、このためアパートの駐車場での充電が禁止されたとか、他の幾つかのアパートでも電動バイクを所有している場合、賃貸は不可とまで言われたとあるが、幾らなんでも行き過ぎた行為。
だが最近は一般のアパートまでEV用の電源を備えていることに驚くばかり。
しかし何れも日本の様な、煙感知器、熱感知器、火災報知機とかの防火設備を備えているところは殆ど無いので、音で知らせられない。またスプリンクラー設備も聞いた事がない。法整備と対策が必要だが遅々として進まない。
またこのアパートは違反建築。個人用住宅として申請。建蔽率は70%だが、実際には100%。また7階建ての申請だったが10階建て。完工検査をしていないのか、ワイロで役人を抱き込んだのか。だが問題はヘムと呼ばれる狭い路地の中、しかも狭隘地に建っているミニアパートが乱立。ベトナムの都会にはこうした物件が多い。都市改造や再開発が待ったなしだが手つかずのまま。

それよりもこんな場所なのに、重たく大きな建設資材を搬入し、高層アパートを建築できるということ自体が不思議でなりません。
罹災したアパートは恐らくベトナム人向け賃貸アパートと思われるが、消防隊専用の消火栓はもちろんなく、消防車などが進入できず、しかも高層階なので消火活動は極めて困難であった事は容易に推測できます。
ハノイ市は約90棟のミニアパート、1800棟の高層アパートを調査し始めたが、タン・スアン区は高層住宅の駐車場からバイクを撤去するよう要請した。公共交通が発達してないのに市民は足を奪われることになり、やり過ぎ。
以前、一区の中心部にあったこうしたヘムのドン突きにある家に行った。彼はトイチェ紙の記者だが、もし何かあれば逃げるなんて絶対に不可能。暫くして家族は7区に引っ越した。

*9月21日、公安は火災原因を発表。これに拠るとバイクが原因だと判明。
EVでなく、従来のガソリンで動くスクーターだが、搭載していたバッテリーが漏電し燃料に火が付いたとするが、簡単に燃え移るか?一件落着と言いたいけれど、だがこのスクーターの持ち主の管理責任とか、メーカーの責任は問えるか。バッテリーが純正品で無かったらなど、疑問が残ります。

日本なら建築基準法や消防法の規制があって厳しいけれど、此処はお構いなし。市内一区の外国人観光客が集まる格安ホテル街でも違反建築は目立つ。建築主は分かっていながらも増築するし、役所も知っていても知らんふりで野放し。
何年か前、高さ制限違反で軒並み減築を命令された事件がHCM市であった。外国人が集まるデタム通りの周辺。図面では8階建だが、実際は12階建とか。日本なら撤去命令書を掲示し暫く様子を見るが、此処は優しくありません。
従わなければ役所が実力行使する。これを実際に見たけれど、何故できたか。ハノイから来た偉いさんが違法建築を咎めて当局に命令したからでした。

またHCM市タンダー地区の50年以上も前に建てられた古い集合住宅。専ら中部から来た人が多く住んでいる。日本で言えば公団住宅が何棟も建っているのとほぼ同じで、かなり戸数の多いのだが中廊下形式。この廊下に電線が何本もぶら下がっていたのです。その内の一本が部屋の中に入っている。送電効率は良いけれど何とも異様で、鼠がかじるとなればショートして火が出る可能性もあるので恐怖心が沸いてくる。チュウイ。因みにベトナム語でも、Chu Y!

この他にも1区で大火災があり、これは以前に書いた。原因は漏電だったが、当時近くに偶然居合わせた。古い建物で非常階段は無論なく、消防設備も無い。もちろん消防隊用の放水口BOXなどある訳はないので、将来ある若い人たちが大勢亡くなった。もはや人災だとしか言えない悲惨な有様でした。
要するに、街にはこんな危険が一杯溢れている。誰も火事を出したいと思っていないが、建築にも携わってきた者として感じることは、特に古い建物は電気設備に問題があると思えます。だがABC消火器さえも置いていないお粗末さ。
また防火、防災社会インフラは未整備状態、予算が無く手が付けられないまま。これが実態なのだが、これにも増して住民の防災・防火意識は高くありません。
だから工業団地とか地域、学校でも消火訓練とか避難訓練などの活動をした、と聞いたことなど記憶に全くありません。

ベトナムで火災を出せば出火責任を厳しく問われます。今回もオーナーが否応なしに逮捕されたが原因究明は後回し。定期的に日本の様な防災査察など殆んどしていないことも問題。だが最近は事前の図面審査があり、非常階段の設置や外の設備も色々と言われ、クリアしなければ建てても営業ができません。
また隣家延焼も家主や経営者に賠償責任が待っており、ある日本人が経営する老舗日本レストランで従業員の不始末で火災が起きた。このため弁済に充てるため全てを売り払った御仁が居ました。外国人は弁済が済むまで出国できない。

今回の火災で報じられたのは、人気のカラオケバーなどの娯楽施設で致命的な火災が頻繁にあるとの警鐘。何れも通りが狭い地域にあり、何かあっても救助できないほど。大都市は人口が急増するが、都市計画は全くできていない所に小さな住宅が密集する。迷い込めば面白いけれど別の話。2年前にもビンユン省で32名が亡くなり、17名が火傷を負ったという事例を紹介している。

別の記事で建設省は、2年前にミニアパートと言われる敷地は狭いが多層階の各住戸を調査し、警告したとあります。また中央都市の人民委員会に対して、高層住宅建設の際、地域の法令に基づく検査を行うように指示しました。
ところが一部地域で当局が規制緩和。これで建築主が増長、法律に準規しない高層の建物を建てたとか、或いは違反を承知で、許可されていない建築を強行して分譲するケースがあったという。こうなると所有権証明書が発行されず、販売者と知識が無い購入者の間で訴訟が起きる事件が増えたのです。
こうした問題は実際に多々あるのだが、多くの日本人は知らない。アパートは不動産関連法規を守って建てられていると考え、また購入者も基本的に法律は無知として法で守られていると思っているけれど、此処では必ずしもそうではありません。法整備自体がされていない。海外で住むことが夢!は理解するが、様々な落とし穴があるため、現地事情に精通したプロの知見は重要です。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生