テトが近づくと仕事が手に付かない

2024年3月16日(土)

今年度のテト(旧正月)は2月10日。旧暦なので毎年元日は変わるのでややこしい。いつも繰り返されるのが、都会で働いている人達が故郷に戻るための切符争奪戦。飛行機を利用する人も多くなったが、長距離バに、スピードが遅いサイゴン~ハノイ間の列車(電車ではない)も満席。メコンや中部に実家があり、距離が数00キロでもバイクに土産を目一杯積んで戻る人も多く、最近はSNSで一緒に帰郷する人を探すグループ帰省も流行っている。
もし切符が取れないとなればそのまま残る人も居るけれど、だが店は殆ど開いてはいないしレストランへ行けば正月料金を取られるので結局は自炊となる。
一応は年末年始を含めた5日間だが、とてもではないが短くて、特に平生に休みが取れない小さな会社とか店で働く人は2週間などの休暇を取ります。
誰もが地元に戻り、家族に親戚、友人知人を会うことを楽しみにしているので、これは世間の公認とする所で文句の付けようなどはありません。
しかし問題は酒を飲み過ぎて体を壊し、休暇終了日までに戻ってこないとか、例年の如く工場で働く人の話題は給料と支給される食事のこと。人が足りない会社などでは帰郷時にスカウトした場合、報酬を与えられることもあるので、精一杯見栄を張ることもある。こうして僅かの賃金の差で寝返る若い子もいるため、企業は気が気ではないのです。これは外資系だけではなくローカル大手でも、よほどのことがない限り無縁ではありません。
このため本来はテト前に支給される賞与をテト後にと言う企業もあるけれど、流石に行き過ぎたやり方。しかし働く人は企業へのロイヤリティーなど無く、如何に労働力を高く買ってくれるか、これだけ。本来は職階が上がるとか各種手当が完備していて、これを評価すればいいけれど、こうした正当な人事評価を期待してはいけません。場合によっては歩合とか、成功報酬的な給与などもある。工場勤務であれば与えられた一日の生産量があるので、これをこなすのに必死で働いているけれど、多くの場合、仕事環境は余り良いとは言えません。
だから話を聞いて良いと思えば即実行。もはや戻らないし、携帯の番号も変更。
従って何人のワーカーが残るのかは、その時次第です。

また例年繰り返されているのが、テトが近づくに連れて来もそぞろになる人が続出するのです。一年に一回戻ることが出来るかどうか。思いを馳せるのは人として当然だが、さて土産は何がいいのか、誰に会えるのかとか、まして恋人が居るならその想いは仕事中であっても目に浮かんでくる訳です。こうなると仕事が手に付かなくなる。機械を使う仕事なんて危険この上ないのが、一日の仕事が終われば解放されてホッとして、買い出しに出かけるのです。
現地報は、こうした状況を記事にしています。これに拠るとHCM市内で働く、メコンデルタ出身の女性を取材し、テト前の2週間は全意識を休暇に集中し、オンラインで注文した商品を受け取り、服を選ぶとか、チケットの手配に夢中だとあります。カレンダーには帰郷時のスケジュールが埋まっていて何時何処で誰に会うなどが記入され、もう頭の中にはこの場景で一杯。ついつい夜更かしして寝坊。仕事は捗らず、溜まる一方と言う。
こういう状況は殆どの人に共通するけれど、都会に住まいがあって家族が居る少し年齢が高くなると、土産も親戚などだけではなく、年末には政府関係者に配らなければならなくなり、こうしたプレゼントを購入、テトを迎えるための準備も必要で、子供達に新しい服を買うとか、正月に出す料理や菓子、果物の買い出しなどのマラソンレースに明け暮れて疲労困憊。
正月に自宅にやってくる一番の客に拠ってその年の善し悪しが決まるという、ソンダットという慣習があるので、この儀式のために親しい友人などに頼まなければいけないし、スイカを2個用意するが、切って色が赤ければ赤いほど運がいい都市となる。こうしたジンクスをかなり真剣に守っている人は多くいる。
また京都の愛宕さんのように火災除けのご利益を得るのと同じ、かまどの神様へオンタオも欠かせません。年が明ければお寺へ参詣。
こういう歴史がある歳時、経済が発展し、生活が豊かになって様式が変わっても代々受け継がれ、家族が守って来た風習と習慣などは消えないものです。

文化発展協会なる所は、こうした帰郷が近づくに連れて興奮し落ち着かなくなる状況をホリデイ・クリック・オフという症候群に陥っていると指摘します。
ベトナムではこれに関する研究はない様だが、アメリカの研究機関が調査するところでは、約1万人の管理者・従業員の半数以上が大型連休の何日も前から仕事が手に付かないとあります。これは年配者よりも若い人ほど早めに休暇のモードに入るともある。だが今に始まった事ではないし、翌年に持ち越さないようにテト前に何事も終了する傾向はある様だし、新年を迎えるにあたって、服や家財道具を買い替えるともあります。さらにこれまで日頃お世話になった方たちへの感謝の気持ちを伝えるための贈り物の習慣もある。これは日本でも同じであって、新年を迎える準備の一環で新調するとか、いわゆる「お世話になったあの方に」なんてTV・CMにあった様に、取引先や親せきなどへ贈る歳暮と共通しています。
しかし都会に住む人は、この所は海外に旅行に出るとか、国内の観光地に家族で行くことが増えており、これまでの慣習だけではなく、また心理的な圧迫感を避けることが多くなって来ています。これは一部の富裕層や田舎に縁戚がないという事だが、リフレッシュと言う観点からも結果は良好です。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生