年々酷くなる都市部とその周辺の大気汚染 バイクの法定排気ガス検査へ

2025年1月23日(木)

HCM市やハノイ市、および近隣省の大気汚染はかなり酷いものがあります。
2000年前後はそれほどひどいと感じなかったのだが、年を経るごとにますます空気が汚くなっている、と思えるほどになりました。これはバイクに乗っていると体感するけれど、自宅から事務所がある一区までは約10キロある。
特に朝夕の通勤時間帯に集中するバイクの数には初めてベトナムを訪問されると驚かれるが、何しろ信号待ちが一度できかないこともある位の渋滞。そしてバイクのほとんどはエンジンを止めずに動くまで我慢強く待っている。この間エンジンは動いているし、スタートの際にはエンジンを若干ふかすので尚の事空気が汚れるのは自明の理です。
ようやく事務所に着くと、先ず洗面所へ行ってうがいと顔を洗うが、安全のために義務付けられたヘルメットを被っているけれど暑くて堪らず髪の毛は汗で
濡れている。石鹸で洗うとサッパリして気持ちいいが、中には頭を洗う御仁も居るほど。ハンカチで顔を拭くと黒くなるくらいで、汚れが付着しているのが分かるし、ヘルメットのフェイスカバーもザラザラです。わずか30~40分だが市内を走るとこんな有様。如何に空気が汚いのか実感することになります。さらに砂埃とか排気ガスなどで汚れた空気を吸うことになるためマスクは必需品だが、洗濯するか時々取り換えなければなりません。このフェイスカバーの付いたヘルメットを被り、マスクを付けていると筆者が外国人と分らないので、速度と通行区分を守ってさえいれば交通警察に停止しろと言われる恐れは全くありません。しかし欧米人は直ぐに分るので餌食になっている。
さらにこのところ急速に自動車台数が増えている。ベトナムのビンファスト社は国内で組み立てをしているけれど、全てEV車に舵を切ったにしても、実際にはレシプロエンジン車が市井では活躍している状況にあります。

つい最近の現地記事に、ハノイ市とハイフォン市、バクニン省、タイグエン省など北部の市・省で年間平均PM2,5指数が2019年以降常に基準値を上回っていることがわかったという。これは極めて深刻な状況であり、ここ10年の間で急速に悪化の傾向にあるが、最も深刻なのが粒子状物質で特にハノイ市は基準値の1,1~2,1倍にもなっていると公表している。
今年ハノイ市は4回の重度環境汚染を記録されたけれど、通常大気汚染が悪化するのは10月から翌年3月にかけて起きるのです。この理由は、北部は結構寒くて薪や練炭などを燃やすのだが、雨量が少なくなり気温の低下で粒子物質の拡散ができなくなり汚染が酷くなるということが分かっています。
さらにバイクや自動車の排気ガス、工場等での排気が原因であるとされるが、ハノイ市だけが元凶ではなく、近隣省から越境して汚染された大気が入ってきている原因も妨げられないと云われる。こうした傾向は益々酷くなる一方で、大気汚染の結果、市民の3000人が呼吸器疾患による入院、また1100人が心血管疾患で入院を余儀なくされるという健康被害、経済的損失が発生していると書いている。
こうした状況の中で、大気汚染の改善を先ずは車両が発生源としてヤリ玉にあげて通行制限とか、渋滞緩和よる規制、公共交通機関への転換を進めるための投資を検討していると報じています。

・バイクの排気ガス検査を義務付け

こうした大気汚染が都市部を中心にして年々酷くなる一方である状況にある中、交通運輸省は製造から5年を経過したバイクの所有者は、車両登録センターで排気ガスの検査を受けることが義務付けられることになったとあります。
オイル交換を適時にしておけば比較的問題にならないけれど、中には放ったらかしたままで、煙をまき散らしている輩も居る。こうなるとエンジンにも支障を来たすし、何よりも空気を汚くする原因になっているけれど、こうした自覚などもとよりない。管理の悪いバイクは見た目でも汚れているので直ぐ分かる。
通達によると、製造から5年未満のバイクは排気ガス検査を免除される。5年以上12年未満の場合は2年ごとに検査を受ける必要がある、また12年を超えると毎年検査を受けなければならないとされます。

車輛の製造日に関する情報が無ければ、製造年の12月31日を起算日とする。
検査が済んだバイクに対して、車両センターは証明書を交付するが、検査を受ける前に所有者は登録証の原本、または登録証の交渉コピーを提出することになります。
となれば、この国はバイクの盗難が実に多いが、この場合、登録証などある筈がないので、野放しになる可能性が高いがこの盗難対策を併せてどうするのか。
センターではデータベースに車両登録情報と登録証明書の内容を照合し、一致しない場合は検査が出来ないとする。問題が無ければ検査が実施されて所有者の電子IDアカウントに電子証明書が発給される仕組みとなっている。

これは1月1日から有効とされるが、しかし年の瀬も押し迫った年末なのだが、検査が出来る状況ではないとしており、何時もながらのまさに見切り発車。
発案は良いのだが、現場では行政の準備が追い付かないのはいつものことで、では何時になれば可能なのかは定かでありません。
バイクの排気ガスに関しては法律で検査が義務付けられているけれど、とても実施できる状況にないのは余りにも普及台数が多すぎることに原因がある。
資源環境省と交通運輸省がこの検査開始時期、対象車種、費用を協議中だとあるし、さらに結果については政府の承認が無ければ実施できないのがこの国の閉鎖的な事務処理。承認が出たと言っても今度は現場の行政がすんなりと動かない。恣意的もあるが行政の消化不良体質など珍しくありません。
本来ならばハノイとHCM市の二大都市では、2015年までにおおよそ80~90%のバイクが排ガス基準を満たしているかの検査を受ける筈、となっているのだが、その施設でさえある訳では無く、実施に関してもロードマップでさえできていない有様なのです。
だが大都市とその周辺省はバイクが増加する一方。国内には7400万台以上も走っていて、日々の生活の足や通勤手段になっている現実がある。仮に一日何台検査できるのか分らないが、単純に計算しても5年以上のバイクであっても全部を一年で検査終了できるなど常識的にあり得ない話。
手をこまねいている間もバイク天国のベトナムは、一年で約240万台が新規に登録されているので、どこから手を付ければいいのか分らないのが実情ではないかと考えられます。

余談ではあるけれど、奇しくもHCM市では12月22日、10年遅れで地下鉄一号線がようやく商業運転の運びとなったが、これを機に一気呵成に地下鉄網を広げて都市交通を整備しようとしており、すでに路線計画自体は出来上がっているものの、はっきり言って無理があり過ぎると思っています。
遅れの原因は用地買収の遅れと、この買収費とか建設費が上昇したことにも拠るが、日本のODAを使い、日本の建設技術と日立の車両に先端運行システム。
だがHCM市の運輸当局に現地ゼネコンもこれが初の電気鉄道体験なのです。
しかしこうしたJV企業への支払遅延が大きな問題として未だにのしかかっているのです。何しろ邦貨換算で2100億円以上もかかっているけれど、こういう悪しき事例があるのであれば、海外企業は安心して受注できず、ODAの拠出も躊躇せざるを得ないし、自国で資金調達できないのならば借款の返済は膨らむ一方。都市交通の在り方、すなわち地下鉄の建設を促進し今のバイクの台数を減らして環境汚染と経済損失、健康被害を押さえることと、借金まみれ体質とのバランスを考える必要があります。何しろ国家予算が日本の10分の1しかないのに無理して高くついた地下鉄。いざとなれば中国頼みとなるか!
この地下鉄一号線開通への10年間の遅れ、ウンザリというか、もう慣れっこになって痛くも痒くもなく、マヒ状態で話題にもならなかったのが市民感覚。
其処に来て、ロンタン新空港も開港が一年延びるとかだが、一年先は分らない。こうした交通インフラ整備がトラブル続きになってもらいたくないのだが。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生