新幹線計画と交通インフラ計画

2022年11月28日(月)

今度は正夢となるのか新幹線計画。この南北新幹線計画は一度、2010年に国会へ提出されたが、この時は反対論者が多くて承認されませんでした。
既存の1700キロ以上に及ぶ鉄路や車両の老朽化は激しく、橋梁や施設なども耐用年数が過ぎて危ない。それでなくても単線で世界一遅いと言われたほど。旅情を楽しむ観光客は嬉しいけれど、数時間の到着遅れなど日常茶飯事。車内サービスも全く評価できない。根本的に電化されずディーゼル機関車での運行。信号システムは整備されず、踏切で職員が旗を振って通行を遮断しているのが映画のワンシーンにも出てくるほど長閑な雰囲気。
これ等を先に解決すべきとしたのは賢明。問題をさて置きイキナリ新幹線とは無茶振りが激しいのです。
現地に居た当時、在住者同士の内輪話でもキャンセルが圧倒的。これは当然でそれよりも急速に搭乗人員が増えた航空機を利用した交通インフラを整備するのが得策であり、この国の実情に合っていると考えた人は多かったのです。
即ち「夢の超特急計画」でしかなく、どだいハノイ~サイゴン間に巨額の費用を(当然借款)投じた所で、乗りものなのに採算に乗るものではありません。
HCM市の人々は気が逸りサイゴン新駅を現在のトゥドック市のビン・チュウ駅に造ることが決まったなど下世話な儲け話が流布。噂のみ勝手に一人歩きしました。
この当時は貿易赤字が続いており、これと言う付加価値のある国内産業がなく、南北間でのビジネス往来など考えられないほどの経済状況。まして国民の所得も限られ観光する余裕など無いのが実情。このような状況の中で旅客需要など見込める筈はなく夢で終わったのは無理からぬことです。仮に造ったところで利用する人は少なく、赤字の垂れ流しでは宝の持ち腐れでしかありません。
ところが今年初旬に、この南北高速鉄道の実現可能性調査報告書とやらが交通運輸省から政府に提出されたのです。現在この審議は俎上にあって継続されているが、計画が復活した訳ではなくこれからが正念場となってきます。
計画に拠れば全長1559km、平均時速320キロ。旅客主体で運行するという。では既存の鉄道はどうなるのかだが、貨物輸送専用に切り替えるとある。
だがこんなに簡単に話が進む筈などあり得ず、時期尚早かもしれない。
問題はこの投下資金。総投資額580億ドルを超えると見るが、いつもの話。こんな程度で収まるものでは到底ないのは、これまでの地下鉄案件などからも証明される。こうなると資金不足。追加支援が要るし開業も遅れまくる。
さらに車両本体から路線建設の技術的課題や高速ならではの安全運行システムに至る一連のシステム。供与されなければ計画はボツになります。
国家百年の計なのかもしれないが、万一の場合には誰も無茶な計画に関し責任を取らないし、しわ寄せは国民、ツケはODA供与国に及ぶが、採算に見合わないとなれば何人かの人身御供が出て来るシナリオが何時もの定めです。
昨年ベトナムは今後10年間で全長4800キロに及ぶ16本の鉄道を敷設、あるいはグレードアップする計画を立て、これに105億ドル必要とする案をレ・バン・タィン副首相が発表しました。2400キロの7路線を改修、同じく2400キロの新路線を建設するという。これにはかつてサイゴンからミトー、ニントアン~ダラットの路線復活もある様だが、経済を大きく伸長するために交通インフラ整備促進という役割を担うと推測されます。ベトナム運輸省は2021年~2030年の間に430億ドル~650億ドルのコストを投じて輸送インフラの整備を行う計画。実のところ、先のハノイとサイゴン駅を結ぶ南北新幹線の複線広軌軌道建設もこのインフラ整備計画に入っているのだが、21年に施行された新しい法律に基づいて実施される予定なのです。先ずは2030年の第一フェーズ。ハノイ~ヴィン、HCM市~ニャチャンの2区間を建設。簡単に言うけれど、そんな話では絶対に終わりません。コンサルタントは完成の暁には飛行機の搭乗時間などと総合的に勘案すれば、高速鉄道のメリットはある。運賃にしても航空機よりも25%程度安くなるとするが計算なら素人でもできる。問題は何処で鉛筆を舐めるのかにかかってくるが、何ら具体性のない計画など当てにするなどできません。
また昨年9月に2021年~2030年における道路開発計画も採択している。これに拠ると、高速道路建設を2021年の3841キロメートルから、ほぼ5000キロメートルに増やした計画を推進するとしている。さらに2030年までに、全長29,795キロに達する172の国道を建設する計画、28の市・省を結ぶ3034キロの沿岸道路建設計画もあります。インフラ整備を積極的に行い経済活性化に繋がるのは大いに結構だがこの資金、何処から出てくるのでしょうか。
日越経済交流センターの理事長であった人見氏(元国労委員長)は、道路網や高速鉄道整備など夢に思わなかった頃、不要になったJR高速バスをベトナムにと考えていたが高速バス網が理に適っていないか。今更になって考えます。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生