カーボンニュートラル時代 ベトナムのエネルギー事情

2022年11月29日(火)

ベトナムで俄かに脚光を浴びているカーボンニュートラル。即ち脱炭素社会。政府はこれに向けて日本に支援を要請したのは先記の通り。
だが実態はどうなのか。ベトナムは暑い国と思っている人は多いが冬のハノイは寒い。日本の厳しい冷たさと比較にならないけれど、誰もが厚いセーターやダウンを着込む。北部の山間部では雪が降ることもある位です。
冬にはバイクや車の排気ガスに加え、暖房に木炭や練炭を使うので大気汚染は深刻になる。昨冬はPM2,5が300を超えるなど空気が汚れる日が続いたと報じられるほど酷い。HCM市でも年々空気汚染はドンドン進んでいる印象だが、移動手段に使うバイクの増加や自動車が主な原因かと思える。30分も走れば顔が黒く汚れているのが現地の実情。
ベトナムは都市ガスが無くプロパンガスが一般的。私が住んでいたアパートでもボンベを室内に置いていました。農村部などは質の悪い木炭や練炭を使う所もあり、実際HCM市内の自宅近所に練炭製造所があったくらいで、都市部でさえ一部で未だに使っている。事実、何年か前だが友人宅で煮炊き物に木炭を使っていた。なぜプロパンを使わないのか聞いた所、爆発の危険があるからと嘯いていたが実は木炭価格が安かった。
一方で知人が住む新しいアパートはオール電化。場所によって落差が激し過ぎるが、地方は石油バーナーも使っている。
別の記事は電気バスを導入したとか、風力発電や太陽光発電に内外企業が参入したなど、この数年間で再生エネルギーへの関心や投資が高まってきている。小規模だが個人住宅でも屋上設置型の太陽光発電や温水機も使用しているし、照明もLEDに替えています。
また排気ガスの原因である車のEV化促進や、バイクの電動化も急速に進むことになる。これは交通運輸省が2040年までにガソリン車やディーゼル車の製造中止を検討しているからとの理由もある。こうした努力もさることながら、地方でも都市化が急速に進むベトナム。便利でより良い生活をしたいのは人情。エアコンとか白物等の家電製品の需要が進むなど生活水準は上がっているため電力消費量はうなぎ上り。予測では2020年から5年間で50%も上昇する。これでは対処できず国内最大の水力発電所を造り、石炭発電主力からLNG。バイオマス、廃棄物利用の発電など一部稼働しているが、先進技術を持つ国、企業が新規事業案件として進出する可能性が出て来ます。
さらに計画中止となったニントアン省での原子力発電所建設も浮上する事に成り兼ねない不安がある。この様にベトナムではクリーンエネルギーへの関与が一層高くなる。

(実現へ課題となるのは)

こうした状況の中、ベトナムは昨年の国連気候変動サミットにおいて、対応を約束しています。即ち2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするという目標設定。これに付いて海外メディアはベトナムが積極的に排出量削減にチャレンジすると好意的に捉えました。
ところがこのために、温室効果ガス排出量4分の3を占める石油、石炭、ガスによる発電を再生エネルギーに変換して行かなければ実現不可能となる。
ベトナムは2030年以降、すでに承認しているプロジェクトを除いて新規の火力発電所の建設をやめ、稼働している発電所を段階的に閉鎖する計画であるとしているが、人口増加と経済成長を続けている現状からみればかなり厳しいと考えるのが正解。
本気でこれを実現するためには計算によると3300億ドル~3700億ドルが必要とされ、ベトナム一国では賄え切れず海外の公的・民間資金による支援に頼らざるを得ないと報じています。啖呵を切ったのは良いがやむを得ず日本へ支援を要請するに至ったと考えられる。

一案として天然資源省では環境保護法に基づき、カーボンクレジットを創出するなど国内外で取引できるようにしました。
既に各分野ではエネルギー、工業、建設、不動産、物流、農林野6分野で温室効果ガス削減対象として副首相が一覧表を公布しています。だが事業者にとっては経済活動を制限するものだし煩雑な計算と手続きが必要。また政府は事前公聴を経ずして一方的に削減を公表しました。動きの速さを評価に値するが、いささか勇み足かも知れません。従って企業や団体などはこの削減に関し同意しているものでは無いと言われているのです。
国連によれば実質的削減との定義とは、できるだけゼロに近づけるという意味で残った排気ガスは海や森林に吸収されるとある。しかしこうなると逃げ道をわざわざ造っている裏返しで、海水の酸性化が酷くなるという別の問題が出てきて海洋生物や資源へ影響を及ぼすがこれには触れていない。
であるならCO2削減に向け森林などの資源保護、これを回収する新しい技術開発が求められる。日本はコンクリートに吸収させる新技術が完成しているが、人類が直面する地球的課題に各国が真摯に向き合わなければなりません。
新興国から脱皮しつつあるベトナムの挑戦には大きい意味があります。しかし根本的な問題、排出量の76%を占めるのがアメリカ、中国を筆頭にヨーロッパ、日本などを含む先進70か国。公約通りに削減への工程を確実に実施する事が重要だし、世界の企業1200社、地方都市も1000以上が賛同している。ベトナムも実現に向けこうした協力を得なければことは進みません。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生