・土地は単なる地面ではないのかも
司馬遼太郎は著書「土地と日本人」の中で日本人が土地(戸建て)に執着するのは農耕民族だからと、ドナルドキーンと対談をしたのを記憶していますが、抗えない血(文化)かもしれません。ベトナム人も同じ定住農耕文化の遺伝子が組み込まれている筈、なんて事を考えながらこのコラムを書いているのです。
本当は土地付きの家に住みたいけれども、今の世にあって集合住宅になるのは仕方ありません。しかし一旦住めば便利で合理的な生活を送れると宗旨替え。
時代が進化し社会・経済が高度に発展してゆくと都市部に住むなら土地利用の観点からみてもやむを得ない。そうなると土地の利用に関して様々な法的規制が出て来るし、無暗矢鱈に建っていた建物を撤去、都市計画が明確になって行くし建築技術も進化する。同じ構築物内で居住者が快適に住むため管理規約も造られ個人の生活環境は一定の条件下に置かれ不自由になって行くのです。
現在のHCM市をみれば過剰に人が集積している。従ってどんどん郊外へ居住地域が拡大してゆく。だがインフラ整備が追い付かない。インフラと経済発展は密接に繋がっているが余りにも急速に発展してきて息苦しく感じます。
大都市には超高層アパートが林立しているが、むしろ野中の一軒家ほど存在感を感じます。いわばその土地に根差して気候風土などの自然から人を守るが、都市が発展するとこのような戸建て住宅は肩身が狭くなる。
小さいおうち、という絵本があって、そこにはまさにこの状況が描かれ、安住の地を求め小さなおうちはドンドン郊外に移って行く物語。国や地域、時代が変わっても人の営みや都市化の移ろいは変わりません。
大阪の有名な西野バレエ団の創設者は呼吸法に熱心だったが、何処でも良いというのではなく、両足を地に着け、大地から得るエネルギーを吸収するというイメージで呼吸するとあった。家もイキモノ、地面にくっ付いているのがいいみたいです。
薪火を見ていると雑念が失せてしまう。今キャンプが流行とかだが殆ど似非でカッコつけ。道具類はお洒落、ブランド服を着こなしベッドを持ち込んで寝るなんてほぼ日常の延長。企業に翻弄され流行を追っかけているだけでしかない。
ベトナムでも民家に泊まると気分が落ち着く。彼の地におわす土地の神様とか竈や火の神様など総出で家族一党の安寧を守っている気配を感じる。バブルは土地の神様のお怒りかも知れないなんて、妄想だが。
HCM市内の有名な古いアパートが老朽化。築後50年程とかなのに、危険だから取り壊されるというニュースがありました。
建て替えてどうなるのか?また川沿いにズラッと並んだ違法建築。これまでは見逃していたが何時までもとはいかない。撤去に踏み切り綺麗な街作りを模索している。市内に高層ビルや高層アパートが建設されたが多くは金持ちのため、即ち投資目的の支援でしかなかったのです。
・苦境に立つ不動産業者
一度目のバブルは一般市民にとっては殆ど蚊帳の外。だが今回二度目のバブル後の現在の状況は中間層も大きな影響を被っていると考えています。
バブルであっても比較的小さい部屋を主体に、価格も無理しなくてもある程度の物件を供給してきたのがホアン・アン・ヤーライ社。元は地方の材木屋だが、ダラットにある同社のホテルは立派な材木をふんだんに使った素敵なホテル、経営者の姿勢が感じられます。
だが今、苦境に陥っているという大手不動産開発業者の見方は必ずしも楽観的でなく、世界経済が鈍化している影響を受けているため、最低でも2024年まで続くとの見解もあります。
金にはシビアな投資会社でも同じ考え方。元々ベトナムの不動産市場の課題は資本不足が常、根本的に流動性は低く活性化できない、とクールに述べている。
・近代化の遅れはなにか
筆者はベトナム不動産市場の近代化が遅れている要因は上記にもあるが、人の移動・集積が少ないことに拠ると考えます。経済成長が加速し地方から都市、都市から大都市へという流れが起きる。また地方の優秀な人は都市部の学校へ進学するが、地域格差が大きく故郷に働く場や能力を発揮できる所もなければ戻る人はいない。教育の機会均等は国家の成長にとり重要課題であるのです。
最近では大学が地方にも出来ているし、海外企業も地方へ進出する機運にある。となれば今後事情は変わってくるかもしれないが、これまで一部の地方にしか大学はなかったのです。海外に出た人たちも大都市から離れない事情もある。
現時点では不動産の需要と供給は低く、金融市場にも不透明感がある。多くの企業は事業を縮小するという事態に直面しているのが現状だとしている。
さらにこの投資会社・MH社が見ているのは国内の行政課題があるという。
即ち運営に関する政策は遅れているとしています。実需でなく投資客を専門に扱うこの会社でさえ、金融機関から与信を得られない間、売りは先行しても、信頼を失った市場へは買い手が付かないとしています。
投資会社が回復へは数年かかるとみているのは、これまでに書いた様に、世界経済の復活が第一だが、国内で予想されるのは来年2023年にはリストラと個人選別が強力になってくる恐れがある。此処までの覚悟が投資家には必要としており、最悪ネガティブな結果を想定しておくべきと忠告している。
またHCM市の開発業者は、2023年も引き続き市場は不安定のままであり、最悪の時期は来年の初旬から中旬にかけて発生すると見ており、その後徐々に改善されて行くとしています。また彼の考えかたは四半期ごとに大きく変わるものでは無く、数年単位で変化を見て行かないとならないと論じています。
目先の利益だけを追っかけてきた多くの経営者。こんな中、少しはまともな考えができる人も出て来た。政府は小手先の政策でなく地方分散を考えるべき。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生