大手開発企業の抱えている資金調達問題

2023年2月17日(金)

11月に入ってから現地報では不動産株が急速に下落。HCM市とハノイ市の証券取引所の81銘柄の内71銘柄が下落し、このうち35銘柄が最低値を付けたと報じています。
これにはHCM市で幅広く開発事業を行っていたダット・サン社、ノバランド社、また企業向け不動産開発のキンバクシティー、カンディエンハウスが含まれ、特にダット・サン社、ノバランド社は一般の市民も良く認知しているので、予測していたものの、この先も下落し続けるだろうとの不安感が席巻していたのです。この大型不動産株下落の影響は、VNインデックスを1000P以下に引き下げる要因になったともいわれるほど、社会へ影響を及ぼしました。
VNエキスプレスに拠ると、HCM市証券取引所に上場している49不動産株の内、44銘柄が今期に損失を計上。多数の株式投資家が損失を出したと報じています。この投資家の中には企業の経営層が含まれていて、彼らが保有する自社株式を売ることを余儀なくされたとあります。
この売りとは信用引き締めと債券発行の取り締まりに起因していると言われ、仕掛けられたと言えなくないのだが、ローン金利の上昇、不動産需要の減少、不正行為に対する当局の厳格な処分などが影響したものだと分析があります。
多額の債務を抱える企業の株は下落するだろうが、しかしこういった状況でも財務体質が健全と思われる企業の株は、長期的にみれば保有し続けるのが正解だと証券会社の調査部門では見ていると言うが、素人でもわかる。

最も顕著に報じられているのはノバランド株。昨年6月にはピークである92000VNDだったけれど、今年10月から5週連続で下落を続け11月には最低となっていると報じられました。しかし好転する可能性は今のところ低く、財務体質の強化は、塩漬けになっている保有物件が捌けないことには期待出来ない。これは市民への訴求力が無かった、即ち他社と比較して物件に魅力等が無かった、要するに顧客は満足しなかった訳です。時間の経過と共にこうした高層住宅の品質や価値は購入者に評価され巷へ急速に伝播してゆく。
銀行から与信が得られない。資金不足ではどうしようもない。もちろん資金を得たから反転して売れるとか、信頼度が上るものでもありません。
そこで策に打って出たのが外資調達。国内でのフローなど限られている。このため海外調達に活路を見つけようとの動きが出て来た。
この大手ノバ社もドイツとマレーシアの銀行から4000万ドルを借りる予定、8月に投資ファンド1億ドルの融資に関する取引を役員会で承認したとするが、危険水域ともなれば相手がどう掌を変えるのか。
こうなると推測されるのが、融資に関する取引内容だが、どう見ても好転する可能性は高くありません。ではファンドはこれを見越しているのか、あるいは先読みすれば将来の不動産事業への布石として狙っているのか。何れにしても普通に考えれば魅力があるとは思えません。

不動産企業に限らず、他の複数の銀行や投資会社、先月話題にした大手食品のマサングループ、配車アプリの企業に農産品輸出企業まで海外からの資金導入に積極的になっています。融資元は日本の銀行や、シンガポール、アメリカ、ドイツ、フランス、スイスなど多岐に亘り、シンジケートローンや転換社債と幅広い。何れにしても国内では調達できないことが此処で明確になりました。
というわけで、外資頼みがこれからも重要度が増すことに違いありません。
だがこういういう傾向が吉と出るのか、あるいは返済不能や利払いが出来ない状態になったとすれば、一企業だけの問題でなく、国の経済がどのような状況に追込まれるのか予測が付かない危なさも感じます。

・販売ライセンスが取り消された

この混沌とした不動産が置かれた環境の中で、11月下旬、こんなニュースが。タイトルにある様に不動産を売るのも免許がいるの?と日本人であればきっと驚かれると思います。
HCM市に隣接するドンナイ省・ビエンホア市。此処から中部ダラット、国道1号線を北進して果てはハノイ、また南下すればブンタウへと交通の要衝です。現在近くに新空港が建設中で不動産価格は上がる可能性が高いと思われる。
省当局が販売を中止させたのは理由があって、アクアシティと称して開発中のアパート752戸がほぼ完成したのにも拘わらず、業者に銀行から保証証明が取れなかったとあります。即ち信用機関から財政的に保証されていない訳で、2020年に発行した開発案件のライセンスを取り消したのです。この時点では業者は取引銀行から財政保証を受けたとしていたが、銀行側はローン承認の文書など出していないとしていたと主張。こうなると顧客にとって危険だとし販売のライセンスを取り消したのが理由です。
業者側は仕方なく販売を中止したとのことだが、用地買収、造成や設備の引き込み、建設にかかる費用がどう捻出されたのか疑問。なまじのコストではなく、何がどうなっておるのか真相は良く解かりません。法的に銀行からの財政保証が必要となっているベトナム。顧客にとっては安全と言えなくないが、しかし大手開発業者でさえ自己資金はそれほど持っておらず多くは借入に頼っている。
今の状況では完成在庫として持っていたところで売れなければ資金回収に銀行への利払いも出来ず、倒産への道を進むしかありません。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生