ベトナム人学生の海外留学が増えているという。教育訓練省の報じる所、毎年約4万人が海外に留学しており、2013年に比べ、10年間で2,5倍の増加。
また現在高校、大学、大学院レベルで20万人近くのベトナム人が海外で学んでいると述べた。ベトナム語ではDuHoc、即ち遊学と呼ぶ。
これは国際協力局のフン局長が11月7日に開催された科学、技術、国際協力において、根本的かつ包括的イノベーション教育・訓練に関する決議実施10年を振り返るシンポジウムで講演したと報じて居る。
これだけ見ると誇らしげで、如何にも国の努力があったと言いたげなのだが、しかし筆者のこれまでの経験からみれば、ベトナム人の海外留学は国の機関に拠る積極的な支援があったとは言えないと断言できます。
かつてベトナム人の若い人が、例えば日本へ留学するとなれば親の苦労は並大抵ではなく、また本人も生活費に学校へ行く交通費でさえ入国後にアルバイトをしなければ賄えない厳しさであったのです。ある人はトヨタの期間工として学費と生活費を稼ぎ、別の学生は夕・夜に2箇所でアルバイトを掛け持ちする。食事は賄いを戴くとか、狭い部屋を同郷の学友と共同で借りるのは当たり前。こんな生活を誰もが送っていました。
一部の大学では学費免除、或いは50%減額などの措置があったけれど、これさえも残りを調達できず断念したケースがある事実を知っている。今は世帯収入が良くなったけれど当時年間100万円の生活費は払えない。それにもまして日本へ送金する学費でさえ銀行で両替や送金は簡単でなく立て替えた事もあったし、入学時には布団、服などを送るとか、知人に依頼したこともありました。
さらに病気になったが治療費に学費に困窮、泣きつかれたが未だに返済はない。
随分前だが関西で50人程しか留学生がいなかった時期があった。そこで毎年2回、彼らのために総領事館に名簿を借り、食事会を催したことがありました。
何故苦しい想いをしてまでにそこまでするのか。これは外資系企業のベトナム進出に拠る高等人材の不足が見えてきたこと。進出企業先の言葉を話せる人が少なかったとか、技術習得、ビジネス慣習に外国文化への理解が必要になったなどが挙げられるが、要するにこうした教育環境が自国で適わなかったのです。
実際に卒業後に多くの人が日本企業等に就職し、中には現地事業を任せられる優秀な人も数多く出てきたとか、本社の役員に登用された方も居ました。
また何人かは高校入学時から日本へ来た人もいたし、中にはインドやイギリスなどへ留学をした知人の子弟のケースを知っているけれど、これは本人だけの希望だけでは済まず、保護者の理解とあらゆる覚悟が要ったのです。
ある人は土地や家を売って子や孫の留学費用に充当したが、日本人が購入した中にこの話をした売主が居ました。しかし居心地がいいのかベトナムには帰国せず、卒業後もそのまま残って就職。また家庭を築く人も結構多い様に聞くのだが、これに関する詳細データを公表してもらえれば実態が明らかになる。
そして記事には、また海外からベトナムに留学してくる外国人学生の数も増えてきており現在約22,000人に達しようとしているが、このうち4,000人近い学生は協定に基づいて来越したとある。しかし何処から来るのかとするデータの公表が無いので、恐らく大半は近隣国ではなかろうかと推測します。
教育当局に拠れば、過去10年間で教育訓練省は積極的に交渉を行ない161ヵ国と国際条約に署名した。また100以上の国や地域との関係も促進したとあります。さらに多くの小さい地域、地域と中核地域間のメカニズムに参加し教育と訓練に於ける国際協力のレベルを向上させたとしています。
最終的にベトナムと外国の教育機関との間で、研修、科学研究、学生と講師の交流に関する覚書が3,500件以上締結されたとしている。
なおベトナムは国連教育科学文化機関(ユネスコ)、国連児童基金(ユニセフ)、東南アジア教育大臣機構(SEAMEO)、東南アジア諸国連合(ASEAN)、アジア太平洋経済協力会議(APEC)、アジア欧州会議(ASEM)などの国際機関やアジア地域の教育関連活動に積極的に参加しているとしています。
教育訓練省が発表したデータでは、2023年6月現在、ベトナム国内44の高等教育機関が、26の国・地域にある102教育機関とで、408件の共同研修プログラムを実施しているとする。
また外国投資庁の統計では、2022年6月現在、33の国・地域から45億ドルに及ぶ605案件による教育部門への投資が行われているとしています。
だが問題は何に投資をしているのか、内容は明らかにしていない。さらに相手国との教育等に関する覚え書締結に関して、これは必ずしも相互主義的なものでは無く、ベトナムがメリットを受ける方が多いと感じる。
これまで現地の教育について何度か触れてきたが、先進工業国を目指していた割には大学などで必須とされる専門講座や実習設備はなく、教える側の人材と能力不足、世界の潮流から遅れている実態が目に付く。即ち教育に投資するだけの財政力が伴わず、海外から支援を得ているのです。
記事はこれに付いて触れていないが、世界大学ランキングなどから見ても優位に立てる理由は見つかりません。だから若くて意思と能力のある人は海外を目指し、そして学業を修め、国内でそれを活かして成功している人もいます。
・韓国がベトナム人留学生を歓迎すると表明
こうした中で高齢化と少子化が極度に進み、さらに自国を見限った高等人材や若い人の海外流失が一向に止まらない。このままではヘル・コリアと揶揄し、将来人口減少で国が消滅する、と大きな社会問題になっているのが韓国です。
最近の記事で、この様な現状からベトナム人の学生を無料で勉強してもらい、卒業後も住み続け、また就業することを望んでいるのが韓国だといい、これをプログラム化して少子高齢化を解決する目的を持っているとあります。
自国の若者が国を諦め日本に職を求める、出生率も僅かに0,7。日本円は下落一方、日本で仕事をしている新興国の若者は生活が厳しく母国の親元へ仕送りが出来ない。だから仕方なく新興国から若者を呼ぶなんて、可笑しくないのか。
韓国も実習生を数多く受け入れてきました。しかし幾ら人気があるとはいえ、また日本と違って国が直接採用、実習期間もはるかに長かったのだが、期間を終えて帰国する段になると行く方不明になる(逃走)ケースが急増したのです。
現地で韓国人と結婚すれば問題なく残れる。しかし実際には実習生は男が多い、ただでさえ嫁不足の韓国が必要としていたのは女性だけ。従ってベトナム本国でも問題が多い田舎の女性を大量に嫁狩が横行しました。しかしこうして入国したものの、文化習慣が違い、言葉もまったく出来ない。これでは馴染めない。もっと酷いのは農家に嫁いだけれど初めのバラ色の話は嘘八百。野良仕事に明け暮れ、結婚生活などもう限界と自殺者が増えて国家間で大問題となりました。ベトナム戦争時、言語道断の殺戮や強姦の悪行の限りでさえ国は平気で嘘を付く位でこんな事は朝飯前。だが流石にこれまで通りとは何時までも行かない。
韓国紙に拠れば、韓国・慶尚北道はベトナムを始め、タイ、モンゴル、インドネシア、カンボジア、中国など72ヵ国から、2024人の10歳代の志願者を選抜。来年から始まる新学期に併せ9校が彼らを受け入れ勉強を開始するといい、すでに授業を始めた学校もあるとする。
学校は高等学校もあるが多くは寄宿舎付き。大学の付属高校、料理や鉄道などの職業専門学校もあり、そのまま就職も可能。またベトナム人を多く受け入れるという学校もあるという。
授業料は無料だが生活費は自弁とあるけれど、殆どの国や地域出身者は、韓国よりも貧しいのに、初めからまともな生活をするだけの金銭を持っている訳が無く、入国してからどの様にして稼ぐ方法があるのかも分からない。
また学生のビザは一般研修生用のサブタイプの申請だが、この辺りよく理解できない。勉強を続けるために毎年更新しなければならないとあるのには無理がある。通常は学業ビザのはず、でなければ卒業年度まで期限を設定しなければならない。当初の考え方との整合性が見えない不思議さと、あり得ない矛盾だらけで無責任極まる話。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生