現地発の習近平訪越に関する記事は思うほど多くなかったが、習近平は重要な中央経済工作会議をハノイ訪問に乗じてわざと欠席、暗雲垂れる国内では失望。
一方で12月15~18日に日本で開催された「日本・アセアン友好協力50周年特別首脳会議」に出席したファム・ミン・チン首相の訪日。天皇陛下に謁見し訪越を要請。またかつて来日した際にオームステイした家族を東京に招いて親しく面談。かなりの親日をアピールするなど今までの首脳と異なった民間外交も展開するなど、飾らない地に付いた笑顔が印象的だった。現地ビジネスニュースでは、岸田首相と面談。これは過去2年間で6回、今年でさえ訪日が2回にもなるなどベトナムとの距離を縮めたと現地の専門家は評価しています。
現地報では、日本はベトナムにとって世界最大のODA拠出国であり、統計に拠れば2020年度末時点で総融資額は2兆8128億円となっており、この資金は交通インフラ、エネルギーインフラ、都市インフラと言う分野に重点が置かれており、ベトナム社会とベトナム人の生活利便性に貢献しています。
また円借款も2023年には2017年以降に1000億円を超えたとある。
チン首相は日本政府が自動車、電子産業、医療設備、縫製等の分野でベトナム企業がサプライチェーンへ参入できる条件を整備する事を期待していると述べ、またベトナムの戦略的な交通インフラ開発案件のため、新世代ODAの融資を継続することも期待。これは具体的に南北高速鉄道、都市鉄道、裾野産業育成、デジタルトランスフォーメーションとグリーンビジネス促進と医療体制拡充と盛沢山。この日本政府の支援にする強い期待感が現れています。
事実南北高速鉄道は、これまで紆余曲折があり、一旦国会で否決されています。しかし他の鉄道網と併せて輸送力強化のため再度復活しているし、地下鉄案件はHCM市で用地買収と工事費の高騰で感性が遅れたが、ようやく運転開始へ訓練が始まり来年には何とか動く見通し。このため新しくドンナイ省まで延長する案件が出ており、無い袖が触れない工事費の捻出が新に問題となっている。
さらに遅れている医療体制と水準。現地に居るとそのお粗末さに驚くばかりで、これまで現地ではどうしようもない治療は近隣国のタイなどへ行かざるをえなかったし、この所は急に増えてきたのが日本への医療ツーリズム。安心と医療技術の高さが評価されています。しかし一部のリッチ層しかこうした恩恵には与れません。そこでベトナム国内でも先進医療が受けられる様にと要請した。
日本に来たベトナム人は、一様に日本の鉄道網と時間の正確さに感動している。新幹線だけでなく縦横無尽に張り巡らされている都市交通網と、ターミナルで連結されているバス便の利便性。経済発展と市民生活に於ける交通インフラの真の充実度を実感して帰ると自国の問題点が浮かび上がってくる次第です。
さらに長い間、先進工業国入りを目指しつつも、このところ目移りしているのがデジタル社会とエネルギー、グリーン社会と言うカーボンフリーに代表される環境問題。COPでは大きな目標を掲げているけれど、足元は実際には心もとなく実現性は低いのです。このことが分っているため、アメリカ・バイデン大統領が来た際にもあらゆる支援を求めているのが実態なのです。
とは言え、工業化も必要なことで、現在の状況では何時まで経っても自国でのもの作りなど出来る訳がなく、今さらながらこのままではグローバルチェーン化など覚束ないのが実情。せっかく中小企業が育ってきても資金的、あるいは技術的問題から抜け出せず、成長も出来ず力を発揮できないままに年々外資系企業へのM&Aが増えている状況。そこでまたもや裾野産業育成を持ち出したのが真相であり、本当の実態を理解できた故、危機感の表れと推測できます。
必要なのは、政府が溺れずに自国産業と企業の経営力の実情を確実に把握し、然るべき政策を打ち立てることだが、勢い先進国へ支援を求める、と言うのがこれまでのやり方だし、これから先も同じような事態になると考えられます。
ではこれを何処の国に?と言えば話をし易く、親身になって支援してくれるのは官民共にお人好し日本。そこで毎年どころか政府首脳のオネダリ外交が後を絶たず、これにおまけが付いて日本の各自治体のベトナム詣でが再開するとの報道が相次ぎ、またもや無駄で無意味なパフォーマンス繰り拡げられ訳です。
チン首相は日本政府に対して、ベトナム国民への日本入国ビザの免除、簡略化にも言及しているが、相互外交の観点からは双方がこの原則による解除が求められる筈である。だが国家間の事情が異なれば一定の条件が付されるのが当然。
これに対して岸田首相は、ベトナム人の優秀な人材で技術を持つという実習生に触れ、日本の社会経済には欠かせないものと評価したという。まさに日本人が忌嫌う深夜労働とかいわゆる3Kの作業をこなしている実態はあるけれど、こうした実態を知っているのか。或いは知りながら敢えて言及しないのかだが、以前に比べてレベルが落ち、日本国内で犯罪の温床となっていることは確かな事実だし、悪行に手を染める若者が増えていることをどのように考えるのか?
だが現場で起きている実情を知らない人のリップサービスだとも考えられるし、あるいは両国政府間で相互に利権が存在する実態に関しては触れず、余りにも身勝手で馬鹿げた話題をエサにして持ち上げるのは茶番劇でしかありません。
課題となっているはベトナムの先端現場にいる人達の人権問題。日本の状況には一切触れず、まるで日本が天国の様に実習生、または留学生を募集している。これをスルーし、一部の関係者だけおこぼれを頂戴するとか天下る。こういう掴みどころのない与太話に企業は乗せられてはいけません。然し何れの企業でも人は不足しており、猫の手でも借りたいため無理を承知で実習生に来てもらっている所は多い。こうした所にミスマッチ、問題が発生しているのです。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生