ベトナムで起業 欧米人がなぜ魅了され増えているか だが実は問題も多い

2025年5月27日(火)

先コラムだが、如何にも欧米人はこの2~3年で、ベトナムでの起業に魅力を感じたような内容だと勘違いしそうだが、このイギリス人のケースとは時流に極めてマッチしたひとつの成功物語に過ぎません。
ベトナム政府は各国とFTAの締結を積極的におこなっており、EUともその例外ではなく、此の所双方での経済交流面での動きは確かに多くなりました。
そういう観点からみれば、確かに機は熟したと考えてもいい。だが多くは無いけれど早くから事業を始めた人もいるし、アメリカで生まれたベト僑にすれば、ベトナム政府が彼らの持つ資金にビジネスコネクションを自国で活かして貰いたいとの観点から、ベトナム国籍に土地の所有も認めるなどしたため、実際に帰国して事業を始めた方もいる。またアメリカに在住する3世・4世には母国ベトナム人の嫁さんが相応しいとして、親世代などが呼び寄せるなどで、実際に筆者の知人の娘が渡米したこともあるが、こうしてご縁は欧米だけでなく、日本、韓国などでも切れずに深く継続しています。
よく言えば全方位外交、悪く捉えると八方美人的外交。これが国を豊かにするために採ってきた政策であり、シタタカとも云われる所以なのかと思えます。しかし根っこの部分は中々変われない実態もあり弊害も解消できないが、成長と共に徐々に社会と国民生活が発展進化してきたことは、筆者がその経過の流れの中に居たので良く理解できます。
切掛けはともかく、ナチュラルな欧米人全てがベトナムをビジネス拠点にするのに血縁者やルーツを辿ってビジネス活動を始めようとする訳ではありません。彼の場合など多額の資本は不要、地元や働く人を相手にしたサービス部門で、小規模。特定の人対象だからこそ密度が濃く有益な情報も多く得られるので、現場の状況によっては直ぐに変幻できるフレキシブルな事業だと思えます。
小さく始めて、徐々に大きくしていったケースは新興国では有効。だが急速に事業が拡大した地場企業を幾つかみて来たけれど、これは時流に乗ってこそで、それにはビジネスセンスと度量が無ければ到底成し得るものではありません。

また若いベトナム人世代は留学経験をもとに語学力と現地で学んだ技術や企業経営、人脈を活かして新しい分野で起業し、成果を収めている人も出てきた。世代交代と国内の産業構造の変化を海外視点で呼応、先進国の若者に欠けると言われるハングリーさと知識欲、情熱で自国だけでなく海外に雄飛しようとしている。これがベトナムを見て来た筆者にとって、これから国の経済をリードするには十分過ぎるほどの有能さと変化を感じさせるが、実体験を得れば一層の発展と進化が期待できると考えるのです。
単なる手先が器用で目が良い、即ち神話の源にもなった物作りに適していた若い労働力の供給ではなく、知的能力を戦略的に生かせる能力を装備した人材が近年現れた次第で、これ等を見て判断するとベトナムが中所得国になろうとし、その際には足踏み状態が起きると云われているけれど、また高齢化社会に突入し人口ボーナスの恩恵に与れないなどの不安説もあるが、事業環境の好転変化は見逃せないのです。
こんな状況を現地で実感するとなれば、欧米人が西洋の高度に発展した草臥れた社会より、ベトナムのある種東洋的な癒しの感性を捉え、体制に問題があるけれど、若者の活気と未来志向に通じる魅力を感じたのかも知れません。
世界的なスタートアップランキングのプラットフォームであるStartBlinkに拠ると、HCM市に2024年の統計だが、182社の外資系スタートアップがあり、これは国全体では52%を占めている。またこの3年間でHCM市は68位上昇して、世界の中で111位の都市にランクイン。これはベトナムのビジネス環境が改善されてきた事で促進されたと結論付けています。
だが世界銀行のビジネス環境の現状という報告書からは、ベトナムは190ヵ国中70位。決して上位ではないが、事業登録の合理化や手続き期間の短縮で外国投資が促進されたとしている。
東南アジアでスタートアップを支援するベンチャー企業は、ベトナムには他のアジア諸国とは異なり、独特のエネルギーがある。混沌としながらも、活気に溢れ、若くて野心的な労働力、ストリートライフにバイク文化、多様な料理が外国人投資家を引きつけ、過去10年間で起業は増えたとする。これにはDXエドテック、ヘルスケア、フィンテック部門で際立っているとしています。

アメリカ人起業家も世界を取り巻く情勢を見ながら、ヨーロッパの会社を売却してまで、ベトナムで新たな事業を挑戦したかったとするが、これは兄が先に起業していたのを見て直ぐに決断したとまである。ひとつの現地での体験が、そうさせたけれど、移住を決めた際、タイ、マレーシア、シンガポールなどでも普通に行われている個人へのストレージサービスが無い事に気付き驚いたが、需要があるのにこうしたサービスビジネスが遅れていることを発見した。
要するに幾らでも消費者のニーズやウオンツはあるけれど、この国は地元企業や個人事業化も他国の事情を知らないこともあって、特に外資企業が多く進出するけれど困っているという事実に気が付いていない訳です。
だが一旦こうしたビジネスがせいこうするとわかれば、次々に地元企業が参入するのはこれまで幾つもあった、ところが彼らにノウハウや技能・技術がないので時間の経過と伴に客離れが起きるのです。挙句の果てに借金してまで投資したのに敢無く倒産、という憂き目に遭っているケースは多い。
産業構造も変化してきたが、未だにこの様なビジネスへの未熟さがうかがわれるけれど、これは外国人投資家にとって新規事業開拓にとって大きなチャンスと言えるのです。
しかし、需要はあるけれど限定的。現地利用者の認識を変えるには、需要者を創出しなければならないという課題がある、このためマーケティングに多額の費用が掛かるというわけで、一般的にみて普及するのに数年~10年掛る場合も想定しなければならないのです。さらにこうしている間に、他国の事業者が参入することも考えられ、決して創業者利得が得られるというものでもない。
この辺りがサービスビジネス新興国であるが故のリスクと言ってもいい。
事実、日本の企業進出にあってもこの様な状況を幾つも見てきました。必ずしも苦労して創り出した、それまでベトナムにはなかった事業やビジネスだが、日本国内で需要が無くなると見て、ある時点から気が付けば、かなり大手であってもやって来た、と思ったことがあります。

このひとつに不動産事業がある。賃貸はもちろんだが、発展が急速に知られるようになった段階で、一旦退却した大手企業も現地とJVを組んで参入したという事例もあります。こうなるとこれまでは細々と進出日本企業を相手にしていた個人は廃業しなければならなくなる。現地ではなく日本の本社や銀行からの紹介というから太刀打ちできない。幾ら現地で実績があっても、日本で経験や資格があったとしても全く無意味なのです。事実筆者もこういう事態に遭ったけれど、現地のコネクションを活かせるとしても歯が立たない。実際の話であるけれど、ある建物の改装工事。地場の段階では何にも問題が無かったが、進出は日本企業、施工も日本の大手ゼネコンと決まった。すると当局は新たに防火階段の設置とか、スプリンクラーなどを要求したことが分かったのです。
想定以上のコスト、初めは鳴り物入りで客も入ったけれど、料金はそれなりに高くなった訳で、二年すら持たなかったと後で気が付いたのです。
自国企業には甘いけれど、海外企業がイザ事業を始めるとなれば、これは一例だが、次々と要求が出てきます。小さな日本食レストランでも同じことが起きたがベトナム人スタッフは他省の出身者なので対応できず、日本人オーナーが公安に激怒した。こうなると虎の尻尾に嚙みついた訳で、相手は黙っていない。
勇気をもってしても結局は潰されたのです。日本ならば考えらないことが事実日々起きている。これは何も外国人だけでなくHCM市の個人経営者も同じで、お上に逆らうとやっていけない程の権力からの嫌がらせが次々と始まります。
普通の民主国家では無く、見えないところで権力を振りかざす横暴があって、これに有効なのは未だ以って賄賂。決して地元民も愉快では無いけれど逆らえない。こんな側面もあることを肝に銘じてくことも必要です。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生