消費者物価指数と不動産の動き

2022年1月13日(木)

・消費者物価指数(CPI)

社会的移動が出来ない都市封鎖が長期間実施され、人々は思うようにモノを買えない。こんな状況が長く続きました。おまけに企業の生産活動が停止されるとか事業所そのものが閉鎖・解散したなどで、仕事を失う人も相当数に上っている。こうして経済にも人の暮らしにも重大な影響を与えました。
消費が低迷すればモノは売れない。このため物価は下がる筈なのだが生産活動も停止しているという通常の状況にない。動きをみると8月のCPIは前月比で0,25%上昇。また2020年12月に比して2,51%増加しています。
さらに今年1~8月では前年同期比1,79%となっており、2016年からの5年間で最も低い数字を記録しました。だが統計総局は今年のCPIを4%以下に抑えるとし、この目標は達成可能であるとしています。
この要因、上昇したのは石油・ガスなどエネルギー資源の世界的高騰。また米に、セメント、鉄鋼製品、砂などの建設資材。反対に下落したものは食料品、電気料金の値下げ、移動制限が課されたため、鉄道と航空運賃、飲食旅行関連費用などで、これらを相殺すると若干の増加になっています。
しかし、10月を過ぎてからワクチン接種の効果などで感染者数が急速に減少。このためこの先年末にかけインフレ傾向になる可能性が出てきたとされ、このインフレになると思える要因が幾つか考えられます。
まず企業が生産を再開すると、これまで需要が低迷していた原材料価格の上昇が考えられます。また活性化のため政策的に金融緩和措置が講じられるなら、景気が刺激されインフレになる可能性が高まります。
次に10月初旬から始まった原油価格の高騰。これは大きなCPI上昇要因で、11日にガソリン価格が約4%、車やバイクで使う95が1L当り22897VND(約113円)まで上昇して最高値を記録。8月から3度目でこのまま高騰の傾向が収まらなければ相当な上昇圧力となります。
またCOVID-19感染で中止されていた建設工事と公共投資が再開。裾野が広いため景気刺激の効果は絶大だが、影響が波及するのも必至。工事が始まると資材の価格が上って行くことは自明の理。
さらにこの所、所得が伸びたことで食生活が改善され、農業分野では畜産業、水産部門では輸出向けの海老や魚の養殖が急拡大しています。このためこれらに必要な飼料の多くは輸入しているため、国内で生産できるように転換し生産コストを下げなければなければ価格が上昇すると考えられる。
経済活性化は所得も上昇するが、反面インフレを招くため、いかに市場価格を安定させるか、混乱させないため監視を強化する必要があります。

・不動産価格は下落

不動産価格が上昇を続け、HCM市内でも南のニャーベー、カンザー、北部のクチ、ホックモン、西部ではビンチャン地区、これらは昨年末から20%上昇。新たに市となったトゥドゥックや9区(ここは前から筆者が推奨していた最後の開発有望エリア)などへも拡大。一見順当に思えました。
しかしCOVID-19感染が始まると停滞の傾向。世界では最も対策が進んで感染を押えられたと評価され、2020年から今年の4月くらいまでは安定しており、取引は徐々に増えてきました。
アパート価格は一般市民が手を出せないまでに上昇。日本のデベロッパーでもこれまで分譲してきた物件は好評完売。市内は価格的に合わないためドンナイ省、ロンアン省など近隣省へ進出、大型プロジェクトを現地資本とJVで始めたものです。だが幾ら道路インフラが整備されたといえ、日本の様に鉄道網が張り巡らされている訳ではなく、価格も高級志向のため、地方からHCM市に人が集中するとしても、狭い範囲で行動する中間層の食指は動きません。
ところが俄かに感染者が急増・急拡大。5月前後の第4波から動きは止み業界は急速に冷え込み始めたのです。
現地からの話では、HCM市の不動産価格はほぼ30%下落したとあります。
とはいえ、これでも一般市民が普通に購入できる価格ではなく、まだ高過ぎ。
目安として年収の5~7倍になれば活性化するが遠く及びません。不動産購入は一部の富裕層への特権のようで、格差は広がる一方の社会矛盾。
人口はまだ増え続けており、都市部は地方から仕事を求めて流入が止まらない。明らかに政策の問題。産業の地方分散化と土地価格の制限、勤労者が安心して住宅を買える融資制度や金利、公的分譲住宅建設など考えれば幾らでも方策はあるけれど、余裕がないにしろ野放し状態。少なくとも過去20年の間HCM市にはまだ開発できる用地はあったのです。
さてこの価格下落の理由。倒産件数が3割にも及んだとあっては、知人が住むアパートでも多くの住民が失業した模様。収入のない企業は賃金を払えない。
日系企業などは生産を停止していても、最低賃金保証で7割を支給して雇用を維持していると聞きます。地場企業の大多数は規模が小さく耐えられないし、外資系企業も打撃を受けて一部撤退した話も聞くと言う。報道では欧州の企業は移転や撤退はしないとあったが、プロパガンダなのかは良く解りません。
さて不動産に流れていた資金、これは何処へ行ったか。株式へ流れているとのウワサ。世界的にも株式上昇、その利益で不動産購入。この図式が一般的です。
やがて感染が収束すればまた不動産市場へ資金が還流するでしょう。こうなると何時まで経っても庶民は自分の家を持つ事など儚い夢、憧れに終わります。

・不動産を購入する時のコツ

海外で不動産を持つのは夢、という人も居るが、何しろ膨大な費用が掛るので余程の金持ちか投資に長けている一部の方のみ実現可能。将来この地で住みたいと考える御仁が居るにしろ少数。かつて勤務した企業の海外部門が分譲するも大失敗。損失の穴埋めは我々の事業部門。不慣れな事をしてはいけない。
物件を購入するのは本来必要があってのこと。結果として値が上がった試しもあるが、先を読んで譲渡益を稼ぐのはプロ。普通ならまずあり得ません。
海外企業に勤務する人、現地で配偶者を得た場合はやはり終の棲家として考えるのは当然。賃貸に住むより長期間現地生活をする上では得という事もあるがベトナムの現状は値上がりしていた。海外投資が増え、都市部に人が集まり、立地条件が良いなら必然。今買わなきゃと誰もが判断する。
ベトナムは人口増が続き経済成長に拠り所得も上昇。道路・交通インフラ整備が行われている地域で物件価格は確実に高騰。益々市域は拡大。ドンドン郊外化が進みました。
私の場合は勤務先近くにアパートが建設中であった。だが当時は市中心から人が移住するなど考えられない地域。開発計画はしっかりと見たし、事業母体も全く問題が無い。おまけにこの担当者(台湾人)と仕事を通じて知り合い様々な情報を得、反対に不動産関係の知識を教え、割引価格で買えた幸運が重なりました。売却時はバブルの終わりだがほぼ3倍まで上昇、それ以上に8年間の家賃相当額、約8万ドルが浮いた形となったのです。だが一般の人にはこれは無理。ベトナム人の不動産屋でも欲をかいて失敗する人が続出しました。
何処であっても基本はほぼ変わらない。
物件が将来発展する可能性が高い。これを読むには確かな情報と幾つも物件を見て回り、付近の状況確認が必要だが、簡単ではありません。
地域的要因では、できれば市中心に近い市街地。交通利便施設の確認、学校・商業・病院等々が近在すればベター。嫌悪施設が無いこと。
特に一戸建てなら、土地の状態、方位を確認(日本だと南東向角を選ぶがベトナムは限らない)。
ファミリータイプ(基本は3LDKあたり)。ローンは支払いと金利に注意。
このほかにも要因はあるが、建物は買ったときから劣化が始まります。
余程の事情が無いとすれば、概ね10年以内に売ることを念頭にして購入するのがいいのです。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生