ホーチミン市カンザー県に国際港建設へ

2022年12月1日(木)

HCM市は市の南部に位置するカンザー県に世界最大級の貨物船が停泊できる国際ターミナル港を建設する計画を提案したというニュースがありました。
此処は外洋に面していて港が出来れば海運には好都合。建設費用は60億ドル。
フランス植民地当時のサイゴン港。サイゴン河に面して建っているホーチミン博物館辺りにあって、フランスが全国各地で収奪した穀物やゴム、数々の物品を此処から本国に向けて運搬していました。
市内にあるのは便利。だが海からは遠く約50キロも上がって来なければなりません。このためトラックなどで渋滞が頻発、道路も沈下する。

映画ラ・マン。一家は夢破れ帰国。船がこのサイゴン港の岸壁から離れてゆく。主人公がデッキから一人陸を見続けていたラストシーンは印象に残る。
この当時、東洋一の先進港であり、日本政府はこの地で先進貿易や語学を勉強するための南洋学院を設立するも、天運は悪く時を経ずして閉鎖したのです。
卒業生はこの地に学んだことが懐かしく、またその恩返しもあって有志が日本語学校をHCM市とフエ市に創設しました。フエ市は地方の一都市ながら日本語が充分通じるのはこの南学の多大な遺産でもあるのです。
南学の授業は厳しい。日本人が教えるコマが2年間、毎日朝から夕方まで続くし宿題も多い。毎年20人しか募集しないが、それでも多数の希望者が居て、中部一帯から学生が応募し競争率も高かったその理由。レベルが高く授業料はもとより無料だし毎月わずかだが手当も支払われました。これも南洋学院卒の有志から出ていたのです。
此処から巣立った語学優秀な学生は多く、日本企業が進出し始めた際に彼らが活躍。現地で問題なく事業ができる事にも繋がりました。また20年程前にはHCM市やフエ市の南学日本語学校で教えた日本人が在住していて日本語教育の礎となり、また日本企業の現地駐在員の多くは卒業生の世話になったのです。私の友人も南学卒業生のひとりでした。
また日本政府はJICAを通じて小学生に日本語を教える事業を行なったが、選ばれた一都市がフエ市。事業に関わったのは南学フエ校で教えていたKさん。
現地に駐在する日本人、現地スタッフも世代交代して若くなり、こうした歴史を知っている人、先人の使命や想いを分かる人が双方に少なくなりました。
新しい港が出来るとなればこの様なドラマがまた生まれるのでしょうか。

HCM市はチン首相に送った書簡で交通省が主導して市と関係機関と協力し、国際港の利点や事業機会その可能性を評価するように伝えたとあります。
現在HCM市の貨物処理能力は1015年~2020年の間に7,34%成長、2021年~25年には5%増加する。2021年には1億6419万トン、全国貨物総量の23,36%に達しておりいずれ新港は必要不可欠です。
HCM市は世界のコンテナ輸送の一部をベトナムに移転するため、世界最大とされる船舶会社MSC/TIL、ベトナムの海事会社とサイゴン港がカンザーに国際港を建設する計画案を作成して提出。これに拠ると埠頭は約7、2キロ。10000~15000TEU(20フィート換算)のコンテナ船が停泊出来、世界最大級のコンテナ船にも対応できる見通しとなっています。
計画によるとこの新プロジェクトは7フェーズに分かれており、第一フェーズは2024年に建設が開始され、2027年には運用を開始。最終2040年に運用開始の予定と計画しています。
この地にコンテナターミナルを建設する事は、HCM市を中心とした南部経済圏の貿易と経済活性化に重要であることには違いありません。
COVID-19では多くの貨物が滞留して全く動かなかった。原因は港湾だけではないけれど、この新港湾施設があったなら問題は抑えられたかもしれません。

しかしカンザー新港への陸路アクセスは現在のところ決して良くないのです。
HCM市や南部一帯の工業区への輸送を円滑に行うためには、道路インフラの整備は欠かせず表裏一体だが、恐らくこのコストは見込んでいないと思われる。また物流を円滑にするため大型倉庫や冷蔵・冷凍設備、トラックターミナル、専用道路など必要。人が集まれば街が出来て活性化するが市中心から遠距離。住宅や寮、学校や病院、スーパーなどの利便施設も整えなければならないが、此処まで踏み込んだ計画なのかは分りません。
カンザー地区はHCM市最南端。漁港があって海の神様である鯨を祀っている神社もあるが、今も一帯は有数のジャングル地帯、マングローブ林が繁茂する。これを利用した解放戦線の基地になっていた所です。クチには多くの観光客が訪れるが、此処にも当時のベースを再現した施設が見学でき、古老の語り部が苦難に満ちた状況を若い人達に伝承している。
海に面した海浜は対岸にブンタウを望み、HCM市民の海水浴に利用される処。海の家があり食事と休憩をとる事が出来るし、ぬかるんだ道路脇で椰子の実を買って食べるのが楽しみ。
となればこのような観光資源やマングローブの自然環境保護をどう考えるか。古くから住み着いている住民の処遇にも触れていない。こうした歴史的遺産や自然を破壊してまで経済優先で建設を優先して進めるのか、環境アセスメントも並行して行なわないと片手落ち。また軟弱地盤を調査、埋め立ては圧密する改良工事も施工しないと不同沈下の危険性はあるが、技術が伴いません。
此処は地図を見れば分かるがアジアのハブとなるエリア。深水港カイメップ・チーバイ港は既に稼働しているが、北米航路にも位置しており最大25万重量トンに対応できる。新港が出来れば世界から物資が集まり、有利な条件で貿易がさらに可能となる恵まれた地域です。
新しい国際港はこれを活かし南部地域だけでなく、ベトナム全域の経済拠点となり得る地理的条件を備えていることに間違いない。
国際経済力は物流整備に依り上昇する。新しくできるロンタン空港と短時間で結ばれ、急ぐ部品などは空輸するが、大量かつ安価な海運との棲み分けが可能。これを一体化してこそ産業や工業団地にとって極めて効果的、効率的な経営が出来るのです。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生