不動産に新たな動きが出てきた 二度のバブル

2022年12月13日(火)

COVID-19の影響でベトナムの不動産事情はここ3年の間に変化が起きました。分譲物件においては2019年と比較し供給が大幅に減少。また賃貸にあっても経済の中心となるHCM市、ハノイ市ではビジネス活動が減速、オフィスと商業店舗の空室が増加して賃料は大きく下落。しかしこの所、経済に社会機能が復活するに連れ、不動産を取り巻く状況には新たな動きが多々見られます。

・先ずは近年ベトナムでの不動産の流れ(経過)を見る

2007年以降、ベトナムは経済が急速に発展しました。このため現在に至るまで二度の不動産バブルが起きています。
筆者は日本で建設・開発業者の立場で業務を実践。自宅をバブル期に売買した経験があり、ベトナムでも一度目のバブル期にアパートを売却しました。
こうした経緯から不動産や現地の建築事情に関して幾度となく評しています。
一度目の頃には経済発展と重なり、金融市場でも変化があり、インフラ整備も進み掛け、都市の様相が徐々に変化してゆきました。また人口の増加が続き、しかも若い年齢層が多いため生産現場や街には活気がみなぎっていました。
しかしバブルに付いては、不動産を扱ってきた勘から今回だけでは終わらず、必ず次もあると確信。これも理由とともにコラムに認めたのです。

・一度目のバブル

一度目は2008年。一般市民に人気があるトイチェ紙ではこの時の場景を、「不動産価格に目が回る」と表現。事実、不動産屋は物件価格を頻繁に書き換える始末。まさしく日本のバブル期と全く同じ様相を示していました。
ベトナムは不動産を扱う資格・免許など不要、儲かればいいと俄か不動産業者が雨後の竹の子の如く出現する始末。関連する法規や土木・建築知識も持たず、実務に至ってはチンプンカンプンでいい加減な千三つ屋。契約書すら作成したことが無いなどとんでもない連中が巷にゴロゴロいました。もっとも不動産に関連するまともな法律が無いので如何ともしがたいのが実情です。
私が行く散髪屋の隣接店舗。日本企業に務めていた顔見知りで語学の達者な妹が辞職、姉と共に開業していた。姉の購入した家が高騰して大儲け。そのため不動産に手を染め始め、今度は妹のためにアパートを買ってやった。次は妹が儲かると踏んだビンユン省の土地が急騰、私にも買えと親切に勧めてくれる。こんな場所など危ないので止めた方が良いと諭したが、後の祭り、後悔先に立たずとはまさにこれ。暫くして値崩れが起きて二束三文に。無理して借金したのにと多くの人が悲観に暮れ、自宅が流れた話など各所で聞かされました。
トイチェ紙によれば、HCM市郊外の土地を例に、前年1㎡300万VND(約2万円)が僅か1年で5倍に急騰したと記事にしていました。この新聞社には日本語が達者なトアン君が居た。家が近くだったこともあってか時折日本の状況を聞きに来ていたし、これを参考に彼は記事を書いたものです。
筆者は2001年に購入したPMHのアパートを2009年に売却しました。上物がある場合と異なるが、それでも建て込みで3,5倍近くにもなっていた。それまで掛った家賃も含めるとすれば、相当な譲渡益が出た勘定になります。

HCM市経済研究所ではこの時のことを、はっきりとバブル状態にあるとし、売買の多くは投機筋の転売目的だと述べるが、譲渡益に税金は掛からなかった。
この時点で多額の利益を手にしたのはリッチ層。北の人達にしてもHCM市の経済事情を見てアパートを購入、それを外国人に賃貸し運用したのです。高額家賃で利回りも良かったが、売ると笑いが止まらないほどの利益を濡れ手に粟。
さらに短期で売買を繰り返して売り抜ける、という方法で益々資金が集まった次第です。これには多くの市民も熱に浮かれ、儲けたあぶく銭で起業した人、買い増しをした方もいたが、殆どは雀の糠喜びとなり、借財に追われ泣きの涙。
この不動産が急騰した背景。ベトナムで初の証券市場が生れ株式投資で利益を上げた人が不動産に突撃開始。頃合いを見て売却した基本的シナリオなのだが、この仕組みを知らない多くの人が遅れて参入したため損をしたのです。
この2010年前後、日本の業者は殆ど興味を示さず(既存のアパートは早い段階で何棟かあったが)出遅れた。目敏かったのは香港やシンガポール資本。韓国企業もバッチを付けたままHCM市庁舎に出入りする程に食い込んでいた。

・二度目のバブル

二度目は2021年と思います。この前後には日本の各デベロッパーも進出し、住宅品質の高さから人気を博しているが、HCM市へは実に海外投資の85%、約20億ドルがホテルやリゾートなどの不動産物件であったとされています。
建設省では不動産価格の上昇は今後も継続すると見込んでいるが、2016~18年頃に高騰してきた流れから、恐らく今がピークでなかろうかとの考えと、大幅上昇はないのではとの見方もあるが、何れにしろ、一般市民は不在で諦めの境地。政策が追い付かず不動産価格の狂走乱舞に振りまわされて終始します。
心配されるのが価格の下落。頂点にあると思われる地域では、その傾向が何時でてもおかしくないと考えられているが、こうなると下げは止まりません。
このため投資家の間では不動産投資にはリスクが考えられるため、慎重に行動するべきとの見方も出てきており、その様な論調の記事も出始めました。こうなると予想されるのは取引件数や新築物件供給が減少。必ず具現化して来ます。
世界では多くの国がこうしたバブルを経験しており、資本主義国だけでなく、社会主義国でも見られます。中国は発展に重点を置き、改革解放政策を採って先進諸国から技術を導入。やがて国力が増すに連れて資本主義国の巨大企業に肩を並べられる経営能力のある「資本家」が多数出現、超富裕層も生まれる。余剰資金は株式、不動産へ流れ怖いほど自己増殖。貧富の格差が一層酷くなる。
すると中には京セラ・稲盛さんの説く経営思想を信奉する企業家が現れ、民主主義化が促進されるのではないか、政府の屋台骨を揺るがす事に成り兼ねないと体制側に恐怖や猜疑心が起きる。やり過ぎれば巨大企業でも潰されてしまう。
だが今や成長は減速し始め、不動産はガタガタの危険水域、金融も触発の状況。
ベトナムは社会主義先進国を見習い、外国投資法を整備するとか、土地政策を実施してきた。だが一度目のバブルと違い経済発展が進化した二度目はこれまでと大きく事情が異なり、中国と同じ状況となる可能性もないとは限らない。他山の石にして、現実を注視しつつ、爾後の対策を講じておくべきなのだが出来ないものです。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生