住宅政策に新しい動き 遅きに失した感

2022年12月22日(木)

昨年に建設省は労働者に向けた低コスト住宅を建設するために、30兆VND(約1800億円)のクレジットを提案。全国に266カ所のプロジェクト、1戸当たり10億VND(約600万円)相当のアパートを供給する予定です。
また今後30年の間に賃貸住宅の割合を増やす計画を立てました。優先順位をつけて低所得向け賃貸住宅を供給するというのだが、あくまでも計画の範疇。
また政府はこのほどチン首相が主導し、社会住宅とする(政府や地方の行政庁が支援する住宅)を2030年までに100万戸建設。これに拠って低所得者や工場労働者が購入できるよう開発計画の策定を指示したと報じられている。
そこで各省・市に対し、このプロジェクトに付き、その実施計画、建設予定地、地元ニーズなどの報告を求めています。だがこれは投資家誘致のためとなっており建設省が纏めた上で計画投資省、財政省、資源環境省、国家銀行と計画案を策定して政府に提出するとなっているが、省庁間の関連性が良く解からない。

要は国の予算には計上されていないという事であり、案を作ってから投資家を集めようとする考えなら、何時になれば供給できるのか見当がつかないのです。
人口の増加が続く成長段階から安定期、将来に成熟期を迎える段階をも見越し、国策として住宅建設促進国債を発行するとか、外郭団体を創って専門的に特化した実施部隊で事業を始めなければ、進められるものでは無いと考えるのだが。
建設事業は裾野が幅広く有効需要を生み出すので経済効果も大きい。国が資金を出せないなら割賦式積立て販売方式だって出来る筈だし、民間の不動産会社や建設会社に出資させ民間セクターを創ることだって可能。こうした投資家に頼ろうとするのは、どうやら外国投資で成長してきた思考が染み付いており、あなた任せで他人の褌での相撲は如何にも無責任で無為無策、愚の骨頂です。

・低価格帯物件の建設へ民間企業が乗り出す

これまでに低所得者向けの低価格住宅の供給は無かったわけではありません。
2016年以降、都市部でのこうしたプロジェクトは1040件ほどあった様だが、完成したのは約25%、266件・142,00戸しかありません。
建設省は2020年に目標とした到達は半数にも及んでいないという結果であったとするが、昨年には35兆VNDの公営住宅建設を提案している。
遅々として進まないのは政策があっても、行政能力に欠けていた結果しかあり得ません。その要因は分らないにしろ民間デベロッパーの開発投資意欲は高く、市民の住宅購入への渇望度も高いのだが、これは何故なのか。

世界におけるベトナム人の幸福指数は97,3%とか。これは2022年3月、世界価値観調査の結果で幸せな人が多い国で何と1位に輝きました。人夫々の価値観の違いや調査項目にも拠るけれど、今やいくら何でも小さな幸せで満足できる国民性ではない。豊かになったと数字で示しても格差は一層拡大、生活し辛くなっているのが実態。このままでは国民の多くは幸福だと言えません。
安寧の生活を送るための基本は住宅の確保、次に広さとか設備など住宅品質で、これが国の利益に繋がる。何れにしても一般の人が必要とする低価格帯物件の供給が少ないのは依然として事実で、ますます必要性が高くなってきています。だが幾ら無理しても「家をつくるならあぁ~」と夢を実現できると思えない。
住宅行政に詳しい大学教授の話では、本当に住宅を必要とする人の予算は7億~10億VND(約420万円~600万円)だがこれでも精一杯。一方供給戸数は全く届かないけれど、流動性は高く安定した市場性を持っているため、供給を促進するのは社会・経済の発展に極めて効果的だとしています。

この様な状況の中、かねてから話題を振りまいているVinグループのヴィンホームズ社は、今後5年間で50万戸の住宅を建設すると今年5月に発表した。
その価格とは3億~9億5千万VND(182万円~575万円程度)というから驚き。ブランド名称はハッピーホーム。HCM市、ハノイ市、自動車工場のあるハイフォン市、近年は工業が集積するクアンニン省で夫々郊外に50haの用地を持ち建設してゆくとしています。これまで高級路線で不動産をけん引してきた感が強く今回が初めての試み。現代的な住環境も創造してゆくとしており本気度は高いが手腕は未知数。
実は2016年に早くもVinCityと称し、30万戸のアッパーミドル層を購入対象としたアパート分譲を計画した例がある。
今年タインホア省とクアンチ省で、このブランドで2案件・3500戸を着工。中部で街づくりが民間の手で行われるが何故この地か。余り豊かでない地域が大きく変貌することに驚きの目で注視しています。

・HCM市での不動産の状況変化に関して

経済成長と人口増加に並行して、民間主導で不動産開発は進められてきました。大都市部に於けるアパート等の動向は一般市民にとって極めて関心が高く重要。人生における最大の買い物とは住宅購入だが、急騰に次ぐ高騰で懸命に働いても益々手が届かず遠のくばかり、諦めの境地になると勤労意欲が減退する。
時には利益に対する譲渡税も論議されたけれど、実現しなかったのはなぜか。
しかし此処に来て低価格住宅の建設が進められようとする機が生じたのは喜ばしいことで、転換期でもあると考えます。
ところがこうした状況は都市部だけではなく徐々に地方にも移ってきました。
これは地方へ産業の移転が始まり、生活環境も大手流通業の進出や通信販売の普及によって大きく変化し、都市並みの生活が可能に。しかも土地価格や物の値段は安いという暮らし易さのメリットがある。こういう傾向が一層進化する可能性もあり、不動産の需給関係と価格形成にも変化が起きると考えられます。

HCM市では今年になって、これまで関心を持たれることが殆どなかった地域でも新しい動きが出てきています。
かつてサイゴン河の向こう岸一帯はマングローブが生茂っており、ミニメコンと謳い旅程に余裕のない観光客が小舟でジャングル体験できた程であったし、
地方から移転してきた人が極めて安価な家が購入できた場所。道路は未整備で地道。フェリーでしか行けなかったのに橋が架かりトンネルが通じました。
こうした交通インフラが整備され始めてから急速に開発が行われようになり、高度で新たな商業・金融街の構想、高級アパートの話題が沸騰してきたのです。
此処は市中心部から僅かの距離、とんでもない価格で地場開発業者が札入れをしてビックリ(その後辞退)。10年程の時の流れでこれまでと違って、かなり都市機能の区分が明確になってきていることを実感すると同時に、こんな所が狂変するなど思いもしなかった。知人の兄が苦心して手に入れた苫家も消えた様子。強制的に収容させられるのは常に貧困の弱者です。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生