ベトナムの工場を視察すれば、掲げられている標語が必ず目に入ってきます。
日本ではもう常識、即ち何処でも見られる5S。現地では日本語とベトナム語で書かれ、さらに絵で示されている製造現場をよく見かけます。
これは整理、整頓、清掃、清潔、躾の日本語の頭文字のS。日本人であるなら工場勤務者や製造業に携わる人でなくても理解できるほど。現場では必ずと言って良いくらい朝礼やブリーフィング、点呼訓示などを行う。私が居た作業所は会社が定めた行動方針の確認も行ったので、何時しか頭に叩き込まれている。
実施するか、しないかの論議は別に置き、終われば「ご安全に」と一同が唱和する。気を引き締め、作業に取り掛かる毎朝の行事が普通に行われています。
現場では日本では常識、使用する道具や工具類がボードに分類され、ご丁寧に形状が図示され工具類がその場所に収まる様に工夫しているのを見かけるが、紛失したり自宅に持って帰ったり出来ないよう明示している訳です。
筆者の経験だがこれ等はベトナム人にとって苦痛でしかない。電気関係の仕事をしていた時、スタッフは工具類を作業着のポケットに入れている。これでは失くす恐れがあり、弾みで服を突き破り体を傷付ける可能性も考えられ危険。
そこで帰国した際にホームセンターで購入したのがベルトに付ける工具入れ。これだと安全だし、顧客の家を訪問した際には如何にも仕事が出来そうで見映えも良い。ところが誰も使わない。小さな電気器具のビスなどの部品は胸ポケットに入れる方が手軽に使えて便利という(屁)理屈。これまでのやり方を頑なに変えない。どころか一緒に仕事をしていて分かったのは、こうした道具や器具、工具は会社の備品なのだが取扱いがぞんざいであるという事。紛失しようが気にも留めず新しい物を持って行く。道具は常に手入れを怠らず、大切に使う心掛けがなければ、良い仕事ができる真の職人になれない。
また当社ではこっそり持って帰って売るという悪戯は見なかったが、とんでもない事に自営業者の従業員が小遣い稼ぎをする手口。従って市内で有名の泥棒マーケットには中古品、すなわち出所が明らかでない故買物が沢山並べてあり、なんでも調達できるほど種類の多さには驚きです。
中国のメディアではこの日本のスローガンの効き目は全くないどころか、失敗。多くの現場責任者でさえおざなりの状態だとし抵抗感を持つ者もいると報じる。
世界標準にもなったトヨタのカンバン方式。これを生産過程に取り入れようとしたけれど所詮は真似事にしかなりません。経営の基本だが、同メディアでは民度の低さという事を指摘している。しかし根本原因はそうではなく他にあるとその考察も行っている。
即ち日本企業は時間を掛けてこれを採り入れた。戦後復旧のために工業製品の輸出に会社が力を入れ、日本人が団結し苦労を厭わなかったためとしているが、資源のない国。労働コストが高く、節約しなければならなかった。さらに終身雇用で企業への忠誠心が高まった事に拠るもので中国にはないと評するが、今は少々状況が異なる。
これを軸に考えると中国企業は従業員を大切にしない。資源も多く労働コストが安く付く。従って従業員に忠誠心や意欲は無く、元々民度が低いため、故にこの5Sは広がらなかったとの暴露になる。
こうした記事がネットに出ることは珍しくなく、常に話題になるのが自動車であり新幹線に代表される基幹部品。これは幾ら頑張っても日本から輸入しなければならないとし、その理由の解析を行っています。そしてこの中で見かけるのがもの作りの習慣や民度の高さ。この精神文化の習得に長い時間が掛るとの見方をしているが、そうだろうか。やればできる可能性があるのか?
これをベトナムでのワーカーに置き換えるとどうなるか、考えてみました。
その前に基本的なことだが、ベトナムの企業には理念というものがほぼ見当たらない。これまでいくつかの企業からパンフレットを頂いたが、日本は、ほぼ初めのページにこの企業理念が書かれてあり、企業の歴史とか成り立ちがある。またこれを具現化するためにそれぞれの企業の行動規範や指針が並んでいます。そうすると大体は何を作っている会社なのかは分かっているけれど、その企業の持つ品とか格なりが伝わってくると言うもの。なるほど納得という次第。
ベトナム企業は歴史が浅く、こうした理念があって創業したのならまだいいが、何時の間にか急成長。あと付でもいいから社員が共有すべきは自社の社会での価値観を明確にして、社員が理解する必要があるはず。これが無いから会社はオーナーのもの、社員は労働を提供してその対価を貰うだけ。そこには企業へのロイヤリティーは無く、企業風土などは形成されない。従業員の定着率は低く気に入らなければ直ぐに辞めるわがまま振り。これが延々と続くのです。
そうなると先の中国ネットの指摘はあながち間違ってはいません。
整理・整頓・清掃・清潔はまだいい。しかし躾ともなれば該当する言葉が辞書では家庭での教育とありました。これは到底やれるものでは無い。親の姿などみせられない恥ずべき行為を観るにつけ、真似をすれば価値観がおかしくなる。どういう事情か此れまでのコラムからご推察下さい。
日本人の持ついわゆる国民性。要するに他人に迷惑を掛けてはいけないと言う今の時代の若い親でさえ持っている気持ち。常に論じられる恥の文化であり、組織的に行動する日本人。かたや同じ米作農耕民族であっても個人主義的考えが強いベトナム人の性格の具現化ではなかろうかと、仕事を通じて思った次第。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生