政府は2050年を視野に入れ、2021年~2030年までのメコンデルタ地域開発計画のマスタープランを3月4日に承認しました。
これに拠ると、メコンデルタ地域を各地方、海外と結ぶ交通・物流のハブとして開発、特にデルタに無数に拡がるクリークを使った水路輸送の強みを活かす事に焦点を当てるとする。またこの地域に総延長830kmの高速道路を建設し、4000Kmの国道を整備する目標も設定、注目は国道50B号線のHCM市とメコンとを結ぶ主要幹線道路になります。
高速道路に関し、カントー~カマウ間は今年11月から工事を着工すると交通運輸省が発表。計画図を見るとほぼ一直線でカントー市、ハウザン省、キエンザン省、バクリュウ省を横断してカマウ省に通じる全長109㎞、道路幅17mの4車線。17兆5千億VNDを投資し2025年末に完成予定だが、国道の工事でもデルタ特有の絶え間ない出水があるため工事の難航は必至です。
さらに4空港と13の港が建設される計画があり、ハノイ市、HCM市、中部ダナン市に次ぎメコン1市12省が東南アジア、世界へと繋がる玄関口になる。
こうなるとメコン一帯はベトナムの穀倉であり、世界的有数の農水産物生産地。安定した効率のいい農産品や多種多様な水産加工品の海外出荷が可能となる。これが経済回廊と結ばれると、陸路で東へ伸びることができる訳で、世界から投資が集まる都市群へと生まれ変わり一大経済圏が出来上がる期待を持てます。これは目を離せないないし、見逃す手はありません。
カマウ岬はベトナム最南端。国道一号線の南の起点からはかなり進まなければならないが、此処までの周辺には広大な未利用地が拡がっており、観光資源の開拓にしろ、工業用地にしても開発の余地が数多ある穴場になります。
日本はODAで発電所を建設。この地域の各省が物流、研究開発、従業員育成、農水産品や加工品の統一規格化など、優秀な研究者がいる地元大学などと官民産学一体が協力連携すればその成果は大きいと感じている。
もう一つはこれも以前に書いたがメコン地域は米の大産地。此処に多くの日本留学経験者が居て有名な人が居る。中でも若手研究者のTAOさんは東大(院)卒で論文は米に関してだが、ダウンロード可能。今は現地の大学教員になって米の研究を続けているそうだが若手で優秀な人材は多数いる。やっと専門能力が開花する希望が出てきたと解釈します。
このメコン地域の平均成長率は6,5%となっている。これが2030年には2021年の2~2,5倍に成長すると予想されていて、農水産業がGRDP(経済規模)の20%、製造・建設業32%、サービス産業は46%の構成。
メコンデルタは実に面白い。見渡す限りの大地、稲穂が輝いている。とにかく大メコンに沈む夕陽を見たくて何度も足を運んだもの。かつて鄭成功の乱で逃れ越南に逃れてきた明人、ホイアンから体のいいやり方で入植させられた日本人の末裔が居るロマンも感じる豊饒で悠久の地と大九龍。夢は拡がります。
・メコンデルタ地域で人材の採用活動に力を入れる企業が増える
HCM市やその近隣省で若い工場勤務者やビジネスに携わる人を見つける事は段々と難しくなっている。今COVID-19も理由だが、生産の拡大による人手不足は意外と深刻。また産業構造の変化で三次産業とかIT関連など高度な職能や熟練工が必要になってきている背景もあり、単純労働をする人も同じ様に採用が困難と言われています。
政府が未だに海外へ労働輸出と称し派遣する実習生。元手の掛らない外貨獲得の有効手段だし、海外で技術やこれから必要になってくる仕事を覚えて帰国。国や産業発展に欠かせないとすればまだ止まるものでは無いと考えられる。
こうした人材はもはや都会の周辺部では集められる事が出来ず、各企業や団体は伝手を頼ってメコンの南部へと足を運び採用すると聞いている。
ある企業は都市部では500人募集しても一日に面接に来るのは精々10人に満たない。どうしても地方へ緊急に採用を掛けなければ生産に支障をきたす。もはや昔の様な状況ではありません。
以前は都会で小商いに成功した親戚や知人を頼り、憧れもあってHCM市にやってきたとか、学業優秀な人が大学進学を機にそのまま住み着いたなどは普通であった。それだけ地方には就労機会や現金収入を毎月貰える企業は少なかったのです。
だが知人に頼んでも所詮は小間使い。まともに給料など貰えず、休みなどなく早朝から深夜まで働かされ、おまけに家族の世話まで何とも酷い扱い。これもHCM市で珍しくありませんでした。ところが一念発起。知人の妹は携帯電話で成功し今や2軒の家の持ち主。日本流に言えばタタミ一畳の店を単独で始め、支店までもつ。流石にメコンの出身者、可愛いけれども気が強かった。
また日本語会話力と努力を認められ社長秘書。故郷に錦ではないが毎年数百人もこの企業に工員として集団採用。こんな能力のある人がメコン育ち。
感染を恐れてそのまま戻らないとか、地方にも工場が進出して親の元から通う方が良い。大規模スーパーも進出するし企業も増えてきた。都市かが進むし、ネット通販で何でも買える時代。それでも格差は思うほど縮まりません。
未だに都会や海外に憧れはあるし給料は多い方がいい。そこでこの企業の様に地方をターゲットにすると一日50名以上の希望者が来るので一安心。
ところがそれなりの福利厚生策を用意しなければならなくなった。給与は上げられないが1カ月に一度は帰郷させその費用は会社持ち。
HCM市周辺で働くなら3カ月間は物入りだろうと手当を奮発しなければならない。こうなるとほぼ2倍の給料と同じで厳しい。
さらに従業員に故郷を派遣して一本釣りさせる企業では、親戚などから採用に成功すれば特別ボーナスを支給。おまけに採用者にも祝い金の様な形で約半月分の手当てを渡すなど報奨制度が出てきたというのでビックリ。
これまでいずれの企業でもほぼ通勤に伴うガソリン代などの手当は一切なく、本給+残業代と給食支給が一般的。
金額は少ないが住宅手当を支給する会社も出てきたし、また予め本給を定め、給与条件など給与制度を具体的に明示するなど、このところ大きく様変わりしている。
メコンデルタ地域にある工業団地内でも事情は変わらないと言う。即ち陣取りならぬ、人採り合戦。如何にいい条件やインセンティブ、即ち福利厚生を提示しなければ必要な人材を集められなくなっている現状があります。
人が居なければ物はつくれない。もはや採用する企業より、ワーカー側に強さがあり形勢逆転が現実となりました。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生