ベトナムで食べる寿司は何故美味しくないのか(大切な米の話)

2020年12月29日(火)

当地に長く生活する日本人の農業専門家によると、ベトナムは気候が良いので米はメコンの大地で年に二~三期作られるが、生産農家は質より量を求める。
そして銘柄米はなく、また田に入れる水は澄んでおらず綺麗ではありません。
日本有数の米どころとは、清水が湧くとか、山から流れ来る養分豊富な雪解けの渓水を得られる地。即ち米には15%程の水分が含まれるため、水の美しさが旨さの要因のひとつになり得ます。また大雪が降る寒い地では雪の覆で地面は凍らず、地温が保たれるのも重要な事。
2019年度日本における米の食味ランキングでは、対象となった155銘柄のうち最高ランクの特Aに54銘柄が選定されたとあります。
取り分け日本人は米へのこだわりが強く、より旨く品質の良い米の栽培のため、江戸時代から改良や新品種、寒冷地に適した開発研究が続けられ、毎年の様にその成果として新品種が出回る。どんなんかな~と味を期待するのも楽しい。
地方自治体に農業試験場があり、寒冷地でも育つ米、粘りのある米、あっさりした米、色、艶、香りなど産地に合う品種を創り出して地元で作付けし、如何にも美味しそうな名前を付け銘柄化しています。

・ベトナムで作る日本米

メコンデルタ北部のアンザン省、カンボジア国境付近の岩山に建つ寺から眺めると、一部の田は青々としており、その隣に稲穂の波、水を張っただけの地面が見渡せるのに驚いたことがあります。
日本種米も作られるが、日系米穀企業は年1回だけしか収穫させないと聞く。
私が長年お世話になったのは富士桜(あきたこまち)で、アンジメックス木徳が日本から種を持ってきてメコンデルタはアンザン省で栽培しているという。
またこしひかりも栽培され、当地では少々値段が高いけれども日本に比べると遥かに安い。黒米、赤米、糯米もある。
また前回、日本食レストランの項で挙げた商社マンから転身したA氏は、北部で日本流に田植えから栽培すると話をしていました。米作りに対する作り手の想いを聞いたけれど、農家の米に対する熱意も旨さに必要な要素なのです。
メコンの大地では河が運んでくる土砂に養分がたっぷりと含まれ、農民が堆積した泥を田に運んでいる。だが競争力や改良への姿勢は弱い。
また先の農業専門家に言わせると、ベトナムの土壌は微生物が非常に少ないので良い作物が出来ない(日本は1㌘中の微生物が1億匹と言われる)とも話す。
1990年後半、私は一区の市場通りの米屋で日本米(GAO NHAT)と書かれた米を買いました。タライに山盛りにしてあり好みの量を言えば計ってくれる。
長粒種でなく、一見丸く粘り気はありそう。しかしご飯を炊いて口に入れるとジャリっと音がする。シャリではなく透明感がある細かく白い砂の様な石粒が出てきました。地場産の精米機械性は性能が良くなく日本のS社はこんなことが無く優秀だと所管の女性大臣が語っていた事を思い出す。やはり日系企業が扱う銘柄米か日本の輸入米をスーパーで買うのが安心できて良い様です。

・美味しい酢飯にするには

寿司米そのものに関して、米のプロは熟成度が低ければ旨味に欠けるという。食味に気を遣い、粘りとあっさり感のバランスを取るためには複数の米を配合して調整する。湿度は保管庫で調整するが、何れも現地で見た事はありません。
米を炊くにも、良い水がなく、電気炊飯器。炊きあがりを酢飯にするも酢合わせが下手で酸味が勝ち、混ぜる際には木製道具すらなく粘りが出る。料理人は殆ど見様見真似。オムスビの様に握るので空気が交らない。米の専門家、海外へ指導に行った堺の飯炊き仙人、TV番組で調理法を伝授した寿司職人もいる。本物の味にもてなし方を教えることが可能なら旨い寿司が味わえます。

・中国東北部の米は何故美味しいのか

日本ではジャポニカ種は当然だが世界で占める割合は20%程度と低い。原産地である中国もベトナムでも細長く、炊いても粘り気が少ない米を主食にします。
焼き飯にすると油と具に馴染んでパリッと美味しい。だが日本食の普及もあり日本種米の白飯に旨さに感動した人は多く一旦口にするとやめられない。
米は潮州付近が源流と言う説もあり、ベトナムには人の移住と共に伝わったとあります。日本へは島伝いに渡って来た学説もあって、コラム163に示した
佐々木高明博士はその伝播に詳しい論文を書かれています。またベトナムにもクア博士のような優れた米の研究者が複数人、日本の大学で博士号を得ている。
ではどうして中国の東北地方には美味しくて、日本の米に近いジャポニカ種があるのか。東北三省(遼寧省、吉林省、黒竜江省)で主に栽培される米は真珠米と呼ばれ美味と評判が高い。その訳は日本と深い関係があるからで、かつて旧満蒙開拓団が寒冷地に適した日本種米を栽培し、日本の稲作技術を広めたのが原点だと現地報道が伝えています。
さらに1980年代には日本から専門家が来て稲作を指導、これに農民が真摯に学び米を育てたため。日本のテレビでも紹介されたが、画面では山間部での栽培だが水は澄み空気に透明感がある。高値で取引され引く数多とあります。
この理由は生活水準が向上し、腹を満たすより美味しいご飯を食べたいというニーズに変わった事に拠るとある。日本からの輸入米は高いがこれに引けを取らないまでに成長。農家も裕福になったとあります。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生