・2030年の工業化目標 ASEAN工業国トップ3へ
ベトナムはこれまで2020年に先進工業国入りを目標にしてきましたが、今では2030年までに工業化と近代化を成し遂げ、ASEANでの地位確立を目指しています。
これは2030年に向けたベトナム工業化戦略及び2045年へのビジョンで
あり、世界的競争力を持つ製品の製造、部品供給チェーンへの取り組みです。即ち外資企業のベトナムへの製造拠点の移転を視野に入れている。
具体的にはGDPに占める工業割合が40%。特にIT分野でそのうち45%を目標にするとし、集中的に産業開発を行い生産性、品質、競争力と付加価値の向上に期待しています。
並行して人的育成の強化で労働生産性を年率で平均7,5%成長させ、製造業の年間平均成長率は10%を達成する目標を掲げ、世界的に大規模な工業集積地とこれに伴う製造業の確立を実現させるという意気込みです。
・EVFTA 進出外資系企業にもメリットがある
昨年8月1日、EUと自由貿易協定が発効しました。実に2012年6月から交渉が継続されていた案件が結実したのです。
EUにとってこのEVFTAはシンガポールに次いでASEAN加盟国の中で2番目に締結するもので、また新興国として数少ないものだとあります。
ベトナムにとってEVFTAは大きな経済効果が見込める魅力があり、今後5年間でベトナムのGDPを2,2~3,3%程度増加。EU向けの輸出は同じく2025年には42,7%増えると推計されています。
今回の発効は奇しくもCOVID-19危機からの復興が双方の共通優先課題であり、
経済回復へ活を入れる切掛けとしては最も効果的なニュースを提供しました。
この内容はEUの原産品に対し、ベトナムの関税が発効と同時に即時に全品目の65%が撤廃され、最長10年を掛けて段階的に減少させ、最終的に99%が撤廃されるというものとなっています。
また、EU側でもベトナムからの原産品への関税に関して71%が即時撤廃。最長7年間の逓減期間を経て撤廃を目指すとしています。
現在ベトナムはEUの一般特恵関税(GPS)の対象国であり、2018年度の実績ではEUが輸入した約64%の品目にこのGPSが適用されています。
今回FTAが締結されたことに拠り、ベトナムは2年後にはGPSが対象から適用除外となりますが、どういう選択をするのか。
協定の締結前にEU向けの繊維・アパレル製品と靴・履物製品は、このGPSの優遇措置を受けており、9,6%の関税を適用されていましたが、最初の2年間はEVFTAの何れかを選択して課税を継続が可能となるが、3年目からは協定に定められた原産地証明が必要になり、これを満たせない場合は12%に引き上げられることになっています。
・厳格に定められている原産地証明
ベトナムからEUに輸出される製品に関しては、当局に拠る原産地証明が必要となり、或いは6千ユーロを超えない範囲での輸出者側の自己証明については、国内の法整備が必要になります。だがようやく発効の2日前に商工省輸出入局が原産地規則に関しての11/2020/TT-BCTを通達。発効後の8月中旬になって全国の税関支局に対して、原産地証明書類への対応を指示したとあります。
TPPと同じく事務方での作業遅れ、混乱が生じる訳です。しかしEVFTAに基づく輸出入品に関する税率を定める法令が公布されていないため、原産地証明の申告は可能だが、一時的に税金を納付しその後に還付を受けるなどする必要があるという。しかし原材料を自国で製造することが難しく、その多くは中国に依存している現状から原産地証明取得そのものに不安が残ったままで、
改善の方向は見通しがたたない。また調達先を変更するにしてもコストや納期や多彩な種類、注文に応じられるかは未知数で、直ぐには不可能が現状。
・EVFTAへの期待と問題点
ベトナムにとってEVFTAは貿易と投資の促進、新しいサプライチェーンが創出されることで大きなメリットと輸出機会が生まれると期待されます。また先進的技術や優れたデザイン、優等な工業製品を持ち、域内流通とリサイクル技術においてもベトナムに投資をもたらす可能性が高いのです。
ベトナム戦争終結で多数のベトナム難民がEU諸国へ移民し、既にドイツではベトナム系の大臣が誕生しており、こういう点でも関係性が整っています。
またEUにとっても同様にベトナムがサプライチェーンの基軸となり得る環境が出来つつあります。
だが問題点はベトナムの工業力。裾野産業は未発達で先進技術を以ってEUが納得で来る製品を造れる国内企業は少数に限られ、メリットを生かしきれない可能性は高いと考えられます。
実際に海外からベトナムへの進出企業はこうした状況下にあり、地場企業から調達できる製品やサービスは30%程度に留まっているとされ、中国の68%、近隣アジア諸国の40~58%に比べて著しく低い実態がみえます。
事実規模の小さい企業が多数を占め、しかも保有する特別な技術やノウハウがある訳ではない。企業の歴史も浅く伝統もない。しかも弱点とされるのが企業側の姿勢です。多くのこうした企業のスタッフは専門性が低く、その日の糧はその日に造る分で充分、という思考に根強いものがあります。
また金銭欲求は強くて能力以上のモノを要求するが能力に見合った仕事ができる人材は少ない。必要な金さえ出さない経営者も多くない。即ち絵に書いた餅にならないために、企業へは経営努力、政府には適切な政策と公明で透明性のある事業環境を整える努力が重要課題であると考えます。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生