経済拡大に期待するベトナム 経済連携協定とRCEP締結に関して③

2021年1月20日(水)

今や世界2位となったベトナムの繊維・アパレル産業。しかし充分な原材料の確保が出来ないため競争力があるとは言えず、新興繊維産業を軸とする他国の攻勢を受けます。大きな理由は原産地証明要件。中国からの輸入に頼っている状況で、その60~70%をどう転換すべきかだが明確な解答はない。しかも仮に課税されても、中国製原材料を使用する方が割安という状況。生産能力は圧倒的に規模が違っていて、必要とする量の確保にしても勝てないという矛盾。
ベトナムの繊維・アパレル産業は約6800社あり、EUやTPPに加盟する国との新規取引を増やしたいが妙案はなく、将来的に原材料の製造を行う国内企業の育成をしなければならない。

・ASEAN首脳会議

昨年11月、ベトナムが議長国となりハノイで開催されたASEAN首脳会議。COVID-19収束後の経済回復、貿易、投資、往来の協力強化、サプライチェーンと貿易の連携を目指したとあります。また投資貿易に関するボゴール目標、アジア太平洋地域経済統合である自由貿易圏・FTAAPの実現のため努力する意思を確認。この場でRCEPの締結が計られました。

・RCEP

ASEAN加盟国10ヵ国に、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドを加えた15カ国が合意し、協定に署名しました。
2011年にASEANが提唱してから始まりましたが、当初から参加を予定していたインドが加盟しなかったのは中国との関係悪化が理由、残念な事です。
RCEPは「Regional Comprehensive Economic Partnership」の略語。日本では東アジア地域包括的経済連携と呼び、本来世界の経済をけん引するこの連携の影響は大きく、世界の人口の約半分とGDPの30%以上を占める巨大経済圏でのFTAが構築できる予定でした。
FTAやEPAは二国・二地域間に関する協定だが、RCEPは広域地域経済圏で包括的に連携。関税自由化だけでなくサービス、モノの移動、規制緩和や投資障害、通関に関するコストを除外しようとするもので、加盟国間で享受できる利益やメリットは大きいとされます。
この他にも知的財産権とか経済・技術協力協定が盛り込まれ、新興国への支援について受ける側の国にとって広範囲な分野で協力が得られるものとなります。しかしこの協定に加盟しない発展途上国にどう関わるかだが、始まったばかりで不詳。
ベトナム政府はこの協定締結に関し、自国企業が参加するサプライチェーンの強化が出来ること、安定した輸出市場を開拓し確保できる有利性、投資が増加する可能性を評価。また原材料調達に悩む自国企業には、特に中国の参加には大きな意義があるといい、原産地証明が不要になる可能性を歓迎しています。

しかしメリットばかりとは言えず、発展途上で人口が増加する国と、少子高齢化と人口減少が始まっている日本などが抱える問題。即ち将来的に起こり得る競争力低下、次元は異なるにしても安全保障問題。今回のCOVID-19で露呈した食料自給(自国民優先)問題。これらに対処できるリスク管理と紛争が起きた場合の解決方法が必須条件となる。
資本の論理から見て、大企業の総合力が前面に出ると価格競争が激化する恐れがある。これでは基盤がぜい弱で特別の技術を持たない中小企業は淘汰される可能性がある。新興国の産業が保護されなければ経済的に成り立たなくなる。自由競争の持つ怖さが表面化します。
反面一次産業に恵まれ、農業生産も高い国は輸出増が可能となり、食料自給率は輸入品の質に良否があっても、下がる国は農業の荒廃に繋がる。
さらに金融に強い国にとって、ノウハウを武器に海外に資金が流出する所も出て来る事も否定できない。など考える範囲でも問題となり得る事案に留意する必要が出てきます。

・中国が主導するFTAAP

ASEANにとって中国は最大の輸出入国に成長し、このシェアと地位は揺るがない強力なものになっています。
FTAAP(Free Trade Area of the Asia-Pacific)アジア太平洋自由貿易圏、が提唱されています。世界第二位のメガ経済を誇る中国。今まで一帯一路など政治的意味合いが強い支援を以て国家間の関係構築に重点を置いてきました。
RCEPでも積極的姿勢をみせ、この協定の発展に大きな役割を果たす可能性は高いものがある。しかし国境を接するブータン・ネパールの領土内に喰い込んで軍が施設の建設を強行したが親中政権は見てみぬ振り。こういう逸脱した確信犯の違反行為にまで暴走しないだろうが、協定を締結したとしても何が起きるか分らない危機感を覚えます。
FTPPAはTPP、RCEP双方を含む広域圏で自由貿易協定の実現を意識したもの。APEC加盟国間で自由貿易圏を形成し、関税や貿易の障害を撤廃・廃止するだけの構想の様だが、既にロシアを含む21ヵ国が参加。何やらなし崩しで自国有利第一を狙っているだけの様な気もしなくない。

・RCEP睨んで台湾企業のベトナム進出・生産拡大が続く

中国で大半の製品を製造してきた鴻海。だが脱中国生産を急ぎ、強化するため280億円を投じて工場を新設。液晶ディスプレー生産を始めたばかりなのに、さらに現地生産を増やして輸出。ベトナムで製造出来ない電子部品を中国から大量調達しなければなりません。
RCEPに加盟していない台湾。過度に依存した中国からの移転を進める企業がこぞって北部にシフト。電子機器受託製造で世界二位のベガトロン社は昨年3月。ウイストロン社が昨年末。パソコンの受託製造大手コンパル社も工場を建設中で今年の創業を目指している。製造各社の早い動きが見られ先手必勝。過去に台湾が投資国一位もあったが、復活を為す兆しなのか。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生