ベトナム農業 近代化へ ①

2021年3月17日(水)

ベトナムは世界的にも名だたる農業国。メコンの気候と豊饒な大地、豊富な水に恵まれ、様々な果実や野菜、米を作り各国に輸出しています。
しかし、恵まれているはずの自然ではあるが、それだけ害虫の被害は大きく、
このために使う農薬の量は半端ではない位。ローカルテレビのCMでも頻繁に映し出され、農民がバンバン作物にまき散らし、この結果多くの虫がイチコロお陀仏になっている。その絶対的効果を各社が喧伝するくらい酷かったのです。
この画面は見かけなくなったが、認識が変化したのかと思えます。

こういう状況にはあるが、有機農法や低農薬で栽培するオーガニック農業への関心が高まり、HCM市内でもこうした野菜は見栄えは良くないが安心できる、値段が高くても安全だから、と購入する人は増えています。
実際に、HCM市から300キロほど離れた中部高原の都市バンメトーでは、10年以上も前から日本人が行っているし、ハノイ市近郊でも農業大学を出た友人が完全無農薬栽培には無理があるので、低農薬で百種類程の野菜類を栽培していましたが、人気があり需要に添えない位と話していました。
単なる農業従事者ではなくGAPの専門家でもあるし、日本でも農家を指導していた位なので土壌も見分けが付くし、農薬事情にも詳しい。

この所、現地報に拠るとメコンデルタ地域では農家や組合、生産企業などに向けてオーガニック農法の奨励が積極的に行われているとあります。
先覚者が居て、ある企業オーナーは土作りから始め、大規模に事業を行っているのだが、大阪でアジア・フード・ショウがあった際には直接会社を訪問して、当時我々の行っていた食品関係企業と共に参加を促した事があります。しかし先に中国の交易会に参加したけれど興味を示されなかったとの話を伺いました。数年前は時期尚早というのか、一歩先んじると付いて来られない凡人が多いのが世の定め。こういう志を持つ御仁がベトナムに居るのか!と感嘆したことがありました。できればまた会いたいと思う稀有で優秀な人物なのです。
また友人もその一人。自らもコーヒーの販売等をする傍ら、勤務する新聞社で行っているオーガニック野菜の販売に興味を持ち、家を売ってまで自分で山林を購入して開拓し、有機コーヒーの為の畑を作っている人も居るほど。
意思あれば道あり。ベトナムでもやっと食の安全に関心を持つ時代に追い付いてきたという気がします。これは経済成長の結果でもあり、物質的に豊かになって精神的に余裕と知識ができた証左でもある。またエージェントオレンジの被害の恐ろしさが分かっているのも理由かとも考えます。

・高まる食の安全

地球人口は増える一方で、減少してゆく日本とは全く反対方向にあります。
そこで問題となって来るのが食糧事情。このままでは増える人口に食料が追い付かない。2050年は97億人に達し、現在から約3割増える見込みなので、
農業は人間が生きて行くために欠かせない重要な産業になって行きます。
食料増産ために品種の改良も必要となるが、今以上に並行して求められるのは科学的に操作されたものでは無い安全性の高い品質かもしれません。
だが世界の趨勢は必ずしもそうではなく、ベトナムにもアメリカ大手化学企業が忍び寄り、自然とかけ離れて化学物質や農薬を使うとか、世界の種苗を人為的に生産して富を集中させようとする勢力が蠢いています。
だが人間はそれほど馬鹿では無い。こういう動きが明確になるほど惑わされず、優秀な種の保存のため本物を求めようとする人も居る。
栽培も従来から行っていた日々繰返しのお天道様と雨に頼る従属的なものではなく、市場を見ながら生産者が客の要望に見合った作物を自然環境にも優しく、消費者の体にも安全。しかしそれでいて味は良いという、日本なら旬の贈り物的な作物を安定して生産する動きが出てきた模様。これは10年ほど前と大きく異なっていると気付きます。

・カントー大学

メコンデルタ中核都市、直轄カントー市。此処に伝統あるカントー大学があります。なかでも農学部はこの地域の農業を発展させる重要拠点。多くの優秀な人材を輩出していて、日本へ留学した人、博士号を取った教員も多く在籍。
なので、日本語で話が出来たのも嬉しい。7~8年前に訪問した際に現状を聞いた所、まだ品質よりも収穫量を求める。年に3期収穫できなくはありませんから欲を出してしまう。ところが2回までに抑えて丁寧につくることを指導、この方が良い米が採れるし量もほぼ確保できるが信じない。
しかし、スマート農業がこの所どんどん採用され、日本企業が大学と共同で行うようになって、また有機栽培農法が受け入れられ市場も拡大する傾向が出てきたことを受け、農民の意識にも変化が出てきている様です。さらに米穀企業もこれに賛同し、栽培する生産者が増える転機を迎えていると報じている。
都会で販売されるオーガニック製品は、健康と自然環境にも安全なので価格も高いし、生産者にとっても収入が増すと期待されます。またブランド化が進み
米の品質が良くなれば、海外への輸出も増える可能性は高いという効果もある。以前はカンボジア米をメコンに入れてベトナム産とするなどの小細工もしたし、量があれば収入が増すという考え。ある省は中国へ売り込むミッションを送ったのだが、質が良くなくて思うほどには売れなかったと聞き及びます。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生