各国際機関・銀行はベトナムの成長予測を見直し

2022年10月3日(月)

IMFはベトナムの小売売上高や鉱工業生産などの主要経済指標が好調な動きを示しており、経済が回復し成長が見込めるとして評価。引き続き経済成長への策が効果を発揮するものとし、このため2023年には7,2%になると報告。だが今年は6%と慎重な予測を崩していません。

2021年度のGDPは3680億ドル、国民一人当たり3780ドルとなっており、もはや立派な中等国。2030年には1万ドルとの噂も囁かれるが、こうなると本来ODAなど必要ない筈。だが実質はまだ発展途上とみるべきで、性懲りもなく援助を求めているしたたかさに変わりはない。以前に書いた様に中等国の罠が待っているが、これへの備えは如何なものなのか。
確かに昨年の2,6%からすればV字回復とみられるが、労働市場の回復が遅れていること、価格の上昇圧力が高くなっていることが懸念材料になっているとしている。これ等のインフレリスクを警戒、さらには問題がある資金貸し出し。特に不動産向け不良債権や社債など金融面を監視、経済安定化に取り組む必要があると分析をしています。またアメリカの金融政策に拠り新興国では通貨の下落、投資資金引き上げが起きる可能性がこの国も例外ではないと考えられる。
都市部で異常な不動産価格。この期はさらに急騰して一般市民が住宅を買える状況にない。一部の富裕層や特権階級の投資や利殖のため進出企業の外国人へ賃貸物件化に見られる様に、行政も絡んだ都市再開発での行き過ぎた入札価格が顕著になっているなど極端な社会格差、分断が生じているのが現実です。
この高騰は何れ地方にも飛び火するのが定石となっているけれど、時間の問題。
社会主義国ながら資本主義国以上の不動産価格の過熱と狂乱。人口が増加する、都市への人の集積が止まらない。はっきり言って無為無策の政府の土地政策。突き詰めれば成長戦略と外資に頼る経済政策が問題。これをIMFは見逃さず、表面の数字では判断できない歪な産業構造や企業間にあって経営能力におけるアンバランスなど総合的に経済最前線の現実を評価したものだと感じます。

因にIMFは昨年ベトナムのGDP成長率について、28年間で28倍にもなったと伝えている。しかしこれは東南アジアで5位。1位インドネシア、2位タイ、3位フィッリピン、4位はシンガポールとあるが、ベトナムは総額3680億ドル。人口比でみても上位4ヵ国に劣っている。しかし1993年当時この地域での占有割合は僅か2,6%に過ぎなかったが、外資企業の進出を促進して発展してきたため、2021年には10,3%に拡大している。反対に1位インドネシアは若干の伸びにとどまり、他国やマハティールが目指したルックイースト政策のマレーシアもその割合が10%強と縮小している。中でもタイは10%近くも減少させているのは特殊だが、海外からの投資をなおも続け、自由貿易協定を積極的に締結して成長を続けているベトナムは、当面は発展余地があり優位性を持っているともいえるが、成長は誰のためのものなのか。

・では銀行筋はどう見ているのか

長くベトナムで業務を続けるHSBC・香港上海銀行は、6,6%から6,9%へ上方修正している。これは経済活動再開により輸出が好調であり、国内需要も回復している。インフレ率は概ね3,5%と読み、物価の上昇は周辺国と比べて管理可能な範囲であるとするも傾向が認められ、エネルギーリスクを考慮し、中央銀行は政策金利を第3四半期以降翌年に掛けて複数回上げざるを得ない。
従って2023年度はむしろ当初予想よりも0,4%下げて6,3%とみており、IMFとは反対の見方をしています。
またイギリス スタンダード・チャータード銀行は、2022年6,7%、2023年度は7%と据え置き。観光業はじめ復活の兆しはあるが、原油価格上昇が与える経済・社会悪影響を考慮したものと言えます。
シンガポールのユナイテッド銀行は、従来の6,5%から7%に引き上げ。特に下半期の成長を高く評価し7,6~7,8%と予想。捉え方に違いがみられる。

機関の多くはほぼ当初の予測を上方修正し概ね7%の成長率を見込んでいるが、これは製造業とサービス業の牽引する所とみているものの、サプライチェーンの混乱が何処まで、何時まで続くか。ウクライナ問題で懸念されるエネルギーと食糧問題の行く末、さらにアメリカの金融引き締め政策は金融市場で世界のリスクとなってこれがベトナムや新興国に如何に及ぶか。その不確実性で予断を許さないものがあると考えられ、当面は様子見が妥当だろうと思えます。

もう一つ加えると、在ベトナムヨーロッパ商工会議所が行ったベトナムに進出したヨーロッパ企業の第四半期での景気感指数調査。此処に記された判断指数が68,8%となり、前期比から4,4ポイント低下していることが判明した。
また次の第3四半期で、調査企業の60%がベトナム経済は安定・改善すると回答したが、前期の69%から後退しているとの注目すべき答えが見られます。
巷ではEVFTAの成果を強調するが、現地に根を張った外資の見方は少々異なっている。ベトナムのFDI誘致に関して45%の企業は概ね満足しており、その76%が追加投資を計画しているが、だが部品供給や原材料高騰という外的要因の外に、外資企業が困惑しているのは進出や投資に関する手続きの煩雑さに行政の遅さ、インフラ整備への不満は中々解消されていないと答えています。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生