公表されている経済指標では予測以上にベトナム経済が回復していることを示しています。確かにGDPは年初来9カ月間で8,8%伸びており、国内で起業する人も増えている。しかし一見好調に見える経済であっても13830社が市場から撤退。要因は様々にあるとしても依然として多くの企業が元の状態に回復しておらず、また政府の支援が行き渡っていないのが実情だと、さらなる支援策が必要とその課題が指摘されています。
年末が近くなり政府の回復のための支援が間もなく終了する。こうなるとこれまで順調と思われてきた企業であっても、2年間の支払い猶予期間が終了して銀行への債務返済が負担として重くのしかかってくる。この債務は企業の資本の約70~80%を占めているとされ、財務状態が決して健全ではないうえに、信用枠は一杯となっているので、必要とされる資金確保が出来ない限界まで来ていると言われています。
そこで多くの場合、貸し手は中長期のローンのために短期資金を回している様子がみられるという。
こうなると貸出先である銀行の経営にも問題が生じることになり、兼ねてから専門家が指摘し警告していた予測が図らずも的中することになる。
即ち最近のニュースでは銀行は今年第一四半期に利益を計上したものの、国内有数の幾つかの銀行では不良資産の増加が目立っています。例えばテコムBKやエキシムBKは回収不能債権が各46%、21%上昇。他の銀行も引当金を増加しているが、こうなると利益率減少に繋がるけれど仕方がないという状況。サイゴンBKなどはほぼ倍増、期間利益率は4%と低くなっている。
また企業にとっても高金利で借り入れをしているため利益率を低下させている。さらに製造コスト高騰に直面。製造業は原材料・資材などのコストが年初来6%上昇し過剰な負担を強いられている。この上昇圧力は過去10年間で最も高いとされ、こうなると何れは消費者へ値上げ分を転嫁しなければ赤字になる。
これが繰り返されるとなれば、最悪のシナリオである景気後退へと繋がって行くことは明白。これに対して経済専門家は、有効な手段は企業を支援することであり、特に中小企業にはより多くの策を講じる必要があると述べています。
具体的には減税であり、手数料の減免によって企業が債務を見直し財務体質の改善が行える手助けを必要としているが、果たしてどこまでできるのか。
さらに公共投資にも触れ、新しいプロジェクトを増やして資金投入するよりも、現在進行中の案件に資金を集中すべきで、鉄道、海運などの物流、情報処理へ公金支出を行うことが重要としている。例にとると、地下鉄案件で海外資金を借り続けることが出来ず、外資に依存する問題を指摘。国内企業がその機会を得るべき。さらに政府は新たに強力なビジネスを生み出す必要があると述べているが、地場企業に果たして技術的、資金的にも可能か考えなくても分かる。
・企業を圧迫する信用収縮=資金不足問題
地場企業、取り分け民間企業にあっては事業継続に必要な資金を調達することが困難な状況下にあるが、これはCOVID-19の3年間に亘りキャッシュフローが枯渇する程に生産を減少させた事に拠るもの。しかしこれは従業員にとっても死活問題で、仕事が無い状態に置かれ、最悪失業を意味するのです。
こうした資金不足は地場企業が国内外の企業と競争する力を削ぐことにもなるけれど、歴史が浅くて基盤もぜい弱、技術力も及ばない地場企業にとって海外企業との競合は相当な苦渋を強いられるのは目に見えています。
全ての産業が順調という訳でなく、供給が需要を上回っている業界などはこのキャッシュフローを維持するため、実はコストを30~40%も押さえた製品を販売せざるを得なかった、とビジネス事情に詳しい専門家が評していると報じています。背に腹は代えられない、とした当面の苦肉の戦略が正しかったか、それとも手傷を負ってしまう結果を招いたのかはこの先明らかになるが、未だ発展途上で企業には余裕の無い国であることが表面化したと考えられます。
ベトナムが中国に代わってサプライチェーンとなるべく小躍りしたのも束の間、製造に必要な精密機械が導入できない。海外取引先企業が望む製品を造るための技術導入や、スタッフの教育訓練などへの投資も出来ない。となれば降って湧いたような折角の事業機会に為す術が無くなる、という事態に陥ってしまう。
なぜ政府が支援を続けなければならないのか、理由は簡単。与信枠はとっくに超え、資金不足はこの先も顕著になって行くので先手を打つ必要があるのです。
元々海外企業の進出に拠って経済を発展・維持してきたベトナム。この地場:外資系の輸出比率に於ける地場企業の弱さとか、低付加価値製品の割合が多い地場企業、また原材料・資材の国内調達ができない、という解決できないまま抱える問題点は幾度となく書いてきたので省略するが、この状況が真に分かっているのかと懸念します。
統計総局の発表によれば、国内の金融機関から資金調達を殆ど行わない外資系企業は14,1%成長したが、地場企業は1,4%マイナスだったとしています。
これは何を意味するのか。状況が長引くほどに地場企業と国内経済の競争力は低下することが明白になる。
株式市場も年初来の底値を更新しているが、これも国内事情を反映したもの。
市場への信頼度が低くなり、資金不足が生じる。投資へのフロー欠如となればやはり資金量がある外資企業のM&Aが活発化、軍門に下る事も考えられます。
せっかく地位を築いてきたけれど売却しかない。企業、工場や生産設備が外国企業の手に渡って行く。こんなことがゴッソリ起きてしまうリスクも考えないとなりません。外資を導入し二進も三進も行かなければ吸収されるわけだが、幾つかの提案が行われているとしても、もはや足元に火が回っているのです。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生