完全に失速した不動産市場と 潮が引いた開発企業で解雇が続出

2023年3月9日(木)

昨年10月と12月、ベトナムの不動産市場と不動産企業に関し続けてコラムを書きました。この時点で2023年も状況は変わらないとしましたが、この記事に事情がのみ込めず、ベトナムの不動産は未だに値上がりしているとかで、外国人も何ら支障なく購入できると思っている方が多かったのではと考えます。
筆者は現地で1999年から不動産関連事業を皮切りに、自身で不動産購入と売却を行い、また日系企業の依頼を受け建築関連の事業をして来た経験から、今回は危ない状況が当面の間続くと読んでいます。
ベトナムの不動産関連産業はGDPの約11%を占め、多くの雇用を創出している重要分野です。昨年の初めから取引が徐々に減少して行ったが、この主な原因は資金不足で多数のプロジェクトが開発を中断しました。
特にアパートは元々資金を持つ投機筋に支えられた投資を目的としたもので、高家賃収入の他、売ればキャピタルゲインも望めた手っ取り早い利殖法でした。
このためバンバン建設して販売。HCM市から周辺ビンユン省、ドンナイ省等へ波及して行き、一般市民でさえ僅かの期間で利ザヤを稼ぐことが出来るため、無理な借金をしてまで雀躍、不動産取引に手を染めたがそこは素人の悲しさ。
もはや手遅れあっという間に二束三文の負動産になりました。
一度目のバブルの経験が全く生かされるどころか、今回のバブルは有名不動産企業まで倒産するのではないかと思えるほど酷い状況。第1四半期はインフレへの懸念と銀行の預金金利の低さから不動産需要が高くなる、即ち価格は上昇と踏み、誰もが安全資産として不動産を見なしていたのだが不覚でした。
結果として目論見は脆くも崩れたがこれは誰もが予想しなかったロシアのウクライナへの侵攻に端を発し、今や世界のエネルギーと食糧問題へと発展したことが直接の引き金になったと考えられなくありません。
高速で走る自動車の窓からは近景がよくみえない。これと同じ様に不動産市場が急速拡大し価格も高騰を続けている間は粗は隠せるのです。即ち筆者が観るのに(超)高層アパートに一般市民が住むようになってまだ20年が経過するかしないかの段階。では分譲業者はどうかと言えばこれもまた然り、たかだか10年前後の経験しか持たず、さらにこうした不動産物件に関する法律など整備されていないのが実情です。要は外資系建設会社が建てた現代のアパートを見様見真似で造ったものでしかなかった。もちろん時を経て経験を積むことで進化しているが、物件そのものの建築品質は評価できるものでなく、これは日本のデベロッパーが開発した物件への人気が高いことを見れば明らかです。さらに販売担当者にしてもお粗末としか言いようがないほど無知。客の都合など関係なく売って歩合マージンを稼ぐだけ。上層部も大して変わらないレベル。
これは実際にモデルルームを訪れると分かるし、友人の兄が大手企業に在籍、偶々手前どもの店舗の隣で仕事をしていたのだか、よもやと互いにビックリ。
こうなればおおよその実態は見えてくる。大手と言えどこの程度の人材なのか。
こういう企業歴史の浅さに事業経験も短いこと。そこへ以って急速に販売減少、不動産市場が減速してくれば周りの景色は誰の目にも明らかに見えて来る。
こうした状況の中で事業資金が無くなって行き、さらに銀行は貸してくれない。
こんな中で解雇者が続出。だがこれらは単に世界情勢が原因だからとの言い訳は通用しません。業界が信用を再び取り戻すには相応の時間が掛って当然です。

・南部でのアパート販売は約9割も減少と冷え込む市場

前回書いた通り、不動産が売れなくなれば坂道を転げるように加速度が付いて下落してゆく負の連鎖に陥ります。この怖さは他業種の比ではありません。
現地不動産コンサルタント会社に拠れば、11月に多くの業者が40~50%値引きしたと聞くけれど明らかに換金投げ売り。すなわちこうした取引は金利が上昇したため、緊急に銀行に借入金の返済をしなければならなくなる。このための資金を必要とした会社であったとするが、損してまでも得を採れという余裕があっての戦術で無く、もはやステージ4、末期的症状でしかありません。
調査では販売不振が続く中でも11~12月にHCM市と隣接するビンユン省で僅か213戸のみが分譲されたとあるが、他の省では全くなかったとある。販売戸数は何と89%も減少したのだが、此の原因は新規プロジェクトが中断など急速に減少したのです。その理由とは銀行の信用引き締めで住宅ローンが下りなかったことにも拠るが、別の購買調査で明らかになったのは第3四半期に不動産購入への意欲(心理)が極めて低かったとある。このため開発業者は計画していた物件が売れないと判断、中止に至った次第。土地価格は下がる、建物は塩漬け、金利は嵩む。果たして持ちこたえられるのか大いに疑問です。
客は安くなったとしても何が起きるか不安で怖くて買う気にはなれない。それほど業者への信頼を失くしてしまいました。家を買いたい殆どの人達は、購入の計画を繰り延べし、これまで貯蓄していた有り金全部を金利が上がった定期で運用することにしているという。何時かホトボリが冷めるだろうとの期待感は家を持ちたい人にとって無くなるものではないが、期待は気体、空気の様に掴みどころがない。それまで機を伺う事にしているが、けだし賢明な判断。
このような時に犯罪を企てる者は何処だっている。しかしベトナム公安の取り締まりは群を抜いて厳しく、監視していた当局はタンホアンミン・グループやヴァンティエンファット・グループ開発責任者を詐欺容疑で逮捕。これは債権発行によるものだが、何の保証もない単なる紙切れ、資金調達が困難になればこんな手口も出てきた。知識がない事案には迂闊に乗ってはいけない教訓です。
大手不動産コンサル会社サビルスは、HCM市の第3四半期のアパート成約率が15%。これは2019年以来最低の数字なのだが、売れ残り戸数も供給数の66%に及ぶとし、高止まりしているという。
多くの不動産関係者や期待感もあって今年一杯は低迷が続くとみている様だが、そう易々と元の状態に復活するものでない。政府の強力な施策が必要だが何処の国でも同じく、知識はあるが現場を知らず他人事。遅々として動きが鈍い。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生