銀行が金利を下げる銀行とその理由とは

2023年9月5日(火)

かつてベトナムの銀行金利は20~30%ありました。ベトナム通貨VNDに信用と価値が低く貿易赤字が続くためどんどん切り下げる。この繰り返しが続き何時までもエンドレス。こうなると高額紙幣が出て来るのが世の常です。
不動産取引では小切手など無く、現金。数えるのに必死になって、銀行でさえ間違う有様。持ち帰るのにリュックサックに詰め込んだけれど、ひったくりに会わなかったのは幸運かも知れません。
一年経てば表向き金利と実勢との差は大きくかけ離れマイナスとなって損切り。米ドルはそれ以上に価値がある。こういう時代がありました。
そこで少し資金がまとまれば、銀行に預けることなどせず、外貨に交換するか金を購入する。これはアジアで一般的。銀行など信用しないし、仮に留学するとしても両替は簡単でなく、海外送金も恐ろしく手間と費用が掛る。誰も利用せず地下銀行に流れるのは無理ない。最近口座開設が急増しているけれど預金が伸びないのは当然の帰結なのです。
市中に両替屋や金屋が多数あり、結婚式や子供の誕生祝いも同じく両親等から贈られるのは金や米ドル。現地通貨を預金するより外貨に軍配が上がります。さが貿易黒字が出始め、外貨準備高が増すにつれて金利は下がって行きました。

現地から報じられるところ、ベトナムの中央銀行は6月16日、政策金利調整である主要金利を50ベーシスポイント引き下げると発表。借り換え率4,5%、割引率は3%、電子銀行間金利は5%に引き下げるとしました。
これは世界的に需要が低迷。信用の伸びが鈍化する中、ベトナムの製造業主導である経済を強化するためであり、また輸出も鈍くなっている状況から政府は中央銀行に対し直ちに政策金利を引き下げ、金利水準を下げる実質的措置を講ずるようにとの意向が働いたのです。
ベトナムの経済成長率は主要輸出市場での需要低迷から、第1四半期の5,9%から第4四半期に3,3%に減速。しかも製造企業は電力不足というWパンチをかけられ、受注減少と停電の両方に対応せざるを得ない状況になっています。
地域の主要拠点における主要製品であるスマートフォン、電子機器、繊維製品の出荷は、今年の5カ月間で12,3%輸出が減少しており、度重なって金利を下げている状況にあります。

こうした主要金利の引き下げで信用活動の強化と流動性が向上するため、経済にプラスの影響を及ぼすと期待され、景気を押し上げると予想しています。
専門家は中央銀行の金利引き下げ決定の背景に、FRBの連続の利上げが終了したこと、2月以降からインフレの悪化傾向、国内通貨の安定した需要と銀行システムの流動性の強化。5月時点での輸出と工業生産への投資減少に拠るものとなっています。
国内市場では金利や為替レートへの圧力が大幅に緩和され、事実、ベトナムの金利水準は1~1,5%低下。米ドル/VNDの交換レートは年初と比較して0,57%と僅かながら低下しています。

これに関連してHCM市経済大学・HUAN博士は中央銀行の決定は経済の後押し。一般顧客やビジネスに於いても、低金利で資本にアクセスするための好ましい条件を提供していると述べています。
またTHINH准教授は、中央銀行が僅か4カ月間に4回も連続して金利を引き下げたことで、商業銀行は貸出金利と預金金利の両方を下げられたと主張しました。
さらに今年末までに2019年の水準に戻るという大きな期待感があると強調したが、最近に表面化した経済減速スピードから、その復活シナリオは第3四半期の終わりまでに起きるであろうともしています。
だがこれはかなり希望的観測に基づく机上の推論。金利の引き下げだけで経済復活を可能にするのは無理がある。近視眼的で国内外の需要予測や地場企業の経営力、最も大切である顧客マインドの動向に触れていない。総合的な視点が必要です。
確かに金利引き下げは企業から歓迎され、これに拠り多くの企業は融資コストが削減可能となる。また個人や事業主にしても、多大な恩恵を被ることで消費や生産活動が活発化する事に理論上は間違いありません。そういう意味で政府のこの金利政策は、成長への原動力として低金利ローンへのアクセスは好ましい要因の一つになります。
ところが問題は、其処に至るまで審査という関門があるため、誰もが条件なしに受けられるものではありません。
フルブライト大学のシニア講師であるTHANHさんは、銀行の資本支出意欲は高いが多くの企業は実際にアクセス出来ず、経済にインパクトを与えるものとして充分では無いとしているのです。
中央銀行の首脳は、銀行はインフレ圧力への対応へは引き続き注意を払い、国内と世界の状況も監視、信用機関にコスト削減と貸出金利の引き下げを指示。経済回復を行ない企業のバックアップ実施を確認しています。
だが専門家は、利下げは不信感を解除してキャッシュフローを促進、消費を回復させ経済成長に背中を押すための普遍的な鍵ではないと主張。
彼らは消費と生産を促進するためには、より強力な財政政策と、企業と経済を支えるためには公共投資のスピードアップが必要であると指摘しています。
これはけだし正論であり、政府の財政出動と公共投資に拠る国内企業の活性化は裾野が幅広く、その経済への波及効果は万民へ大きな恩恵がもたらされます。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生