進むベトナムハイテク農業

2023年11月6日(月)

ベトナムの米輸出が好調とか。インドの輸出制限もその理由の一とも言われるがベトナムにとってはチャンス到来。このため政府は市場拡大の絶好の機会として米輸出を奨励。また同時に国内供給の安定と生産者の保護、食の安全保障に向けた連携を呼び掛けている。だが国内供給が賄えるかとの懸念も出ている。
統計では今年1~7月の米輸出は前年同期比で18,7%増加し483万トン、金額では29,6%増の25億8千万ドルとなったとの現地報があります。
品種の内訳は香り米と糯米、白米が主で、輸出先は主に東南アジアだがEUへの輸出は30%伸びたという。

カントー市で行われた米輸出管理会議で商工大臣は、市場の拡大とベトナム産米の地位向上へのチャンスであり、米農家と輸出業者にとっては生産と輸出を伸ばす好機だと発言したとあります。
さらに食糧の安定供給のための確保と備蓄、過当競争を防止するため生産者と売買業者が連携を図る適正な仕組み作りが必要と説明している。

個人的にベトナム米は結構好きです。インディカ種だがパサパサせず適度の粘り気もあると思う。炒飯にすると余計に合う。ベトナムでも日本種を栽培し、国内と近隣諸国へも輸出しているけれど、これは日本の米穀会社が20年以上に渡ってメコンの米作農家を地道に指導してきた結果でもあるのです。今は何種類かの品種が現地で栽培され販売しておりスーパーなどで購入できる。
またインディカ種も品種改良で近年は良い米が作れるようになり、輸出されるまでに至ったとの報道があります。しかしそれまではそれ程の高評価ではなく、ある省の幹部が中国へ輸出するために現地へ出向いたが、思うほどの成果は出なかったと聞くが品質の問題。
この理由のひとつだが、現地では年に3回ほど栽倍が可能で、しかも日本のような方法ではなく種をばら撒く。最近は肥料を与えるが以前は河の底から泥を揚げて田に入れていた。それほど肥沃で栄養を含んでいたのは確かです。
アンザン省のサム山から眺めると、カンボジアとの国境が分からないほど広がる農地が目に入る。植え付けたばかり田、青々と茂る田、黄金の稲穂が風になびく田、刈り取られた田、面白いコントラストを画いていたのに驚きました。

またこの所は機械化が進んでいるが、2000年台初頭など殆どの農家は水牛を使って農作業を行なって居たわけで、農家も休むことを知らず非効率、品種改良どころでは無かった。
年中農作業に明け暮れ、田を休ませることもせずに作り続けた。これが実は単位面積当たりの収穫量が低く、旨みや実入りも良くない原因とは気付かなかったのです。
だが大学農学部を出た指導員、中には日本に留学した経験のある人が多数教員になっており、此の縁で日本の支援などを得て改善が行われ、急速に米の品質は良くなってゆくことになるのです。

・ハイテク農業化が急速に進んでいる

南部のメコン一帯はベトナムの穀倉地帯。圧巻の見渡す限りの大地と青い空。中心地にあるカントー大学は地域の農業を守り神。多くの農業研究者を輩出し、品種を改良、農家を指導・育成してきた経緯があります。この事情は以前に書いたので今回は触れません。
米に関してはこれまでも認めているが、クア博士はメコンデルタ・ソクチャン省の出身。九州大学と京都大学へ留学、京大で外国人農学博士第一号となった優秀な方だが、ここにベトナムの米研究の源流があると思っています。
しかし若くして急死、後を継げる逸材、施設など無く、米の研究は爾後かなり時間が掛ったと思われます。余談だが、奥様の中村信子さんは昨年に99歳で長寿を全うされたがVOVの日本語放送を担当、長く在住者の支援もしました。他にも東大(院)で博士号を取得、現在地元大学で教員をしている才媛もいる。

ところが南部だけではなく、北部ハノイでも近年急速に機械化やハイテク化が進んでいるという。10年程前だが東北のある県から知人のN氏に話があって、県内大手米企業がベトナムに進出したいとか。仔細は省くが、筆者も加わったけれど、結局南部でなく北部で事業を行うことになった。社長は苗代を作っての米作りを教えるとのこと。これが何とNHKが特集し放送もした。現在どうなったか知り得ないけれど、恐らく続かなかったのではと考えています。
それから現在に至り、最近の報道はハノイ市でハイテク化が進んでいるとある。

報じられるところでは、市内の多くの協同組合が農薬や肥料の散布にドローンを始めとする無人機を使用。幾つかの県で農業農村開発省のハノイ市農業拡張センターが指導し、スマート農業のモデル事業化が進められコスト削減や収益改善に繋がっているとされます。
だが多くの農業従事者は資金が無い。このためセンターが最新機器を貸与し、生産組合のハイテク技術導入を支援。農場では種まき、肥料散布へ機器の貸し出し、天候モニタリング設備も導入。自動的に灌漑から水やり、虫害から守り作物の病気管理、土壌成分や水分の維持管理に役立っているとあります。
また日本では一般的だが、多くの農業機械が最近使われるようになりました。これは一軒の農家の購入ではなく、複数の人達が資金を出して購入。各戸で使い回すか、或いはレンタルとなっていて、農作業の軽減になっているのです。
このようにハイテク機器を使えばこれまでみたいに人力で、しかも頻繁に農地のチェックの必要など無く、しかも正確無比。収穫期に米を刈ればいいので、疲れないし多くの余剰時間が生れる。購入の初期コストはかかるが、それ以上に時間の節約となり、好きなことや他の事業も出来る訳で、収入が大幅に増加するというのがハイテク導入の利点であるとしています。
もはやこの様な先端技術が無ければ今ではベトナムの農業は成り立たず、輸出増も大きく見込める訳なのです。
ベトナムでも悩みの種は農業従事者の不足と高齢化であるが、これを解決する手段としても有効な方策です。
何故なら農家の子弟は親の姿を見ており、朝早く夜は遅い農業に嫌気を差し、現金収入が得られ、決まった時間に働き、休日は遊ぶ。何よりも華やかな都会への憧れがある。急速に拡大する都市部でサービス業に仕事を求めたい。
しかしハイテク農業を実施するためには、導入の資金が必要だし、先端機器を使いこなせなければ出来ない。このために資金融資と操作方法のトレーニングが必要とされています。
これは農業生産者の事業拡大や作業の軽減に役立つが、現地在住の友人。
彼は農大出、実家は葡萄栽培とワイン製造。専門は酵母の研究だったとあるが、ベトナムの土壌に棲む菌は日本に比べ半分以下でありこれが作物に良くない。
ハイテク化も良いけれど、根本的に有効な土壌作りを研究すれば、今まで以上に栄養価が高く、大きくて安全な、美味しい米や野菜が生産できるはずです。
国内消費者が喜び、輸出が拡大できるためには、基礎的な研究も必要不可欠な要素なのだが、実際にこれを実践された方も居て成果をあげていらっしゃる。

また温暖化も稲作に影響が出るとの報道がある。米は出穂から45日が経過し、品種によって異なるも、積算温度が1000度前後になってから刈り取るが、暑くなり過ぎると反って病気になるとか。日本は寒冷地栽培の研究をしてきて成果を上げたが、この所は気象状況が変化。こうした高温化に於ける栽培品種の研究を公的機関で行う努力は必要なこと。さらに世界は水の争奪戦も勃発。これはますます酷くなる傾向にある。輸出が好調としても現状に満足せず将来に向けて米のR&Dに投資をするべき。だが残念ながら、これまで何度か実際に視察者を案内した事があるけれど、公的機関でさえ施設や設備は極めて貧弱。研究する内容でもレベルが低いのが実態。こうなると折角期待して来越したのに一目でハズレ。提携どころでは全く無くなり、苦言を呈された次第です。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生