ベトナムの露店 消滅危機

2026年7月29日(水)

ベトナムに旅行すると、ハノイやHCM市と言った大都会の中心でさえ、通りから一歩中に入ると車が通れない狭い道が縦横に走っているのに気が付きます。
こういう所にこそ庶民の普段の生活模様があり、ビビッドな暮らしをみます。HCM市で外国人旅行者が多く宿泊する有名なファングーラオ通りから一本入った路地、これをHemというけれどその幅は精々1メートル位。電線は何十本も垂れ下がっていて各住宅はそこから一本を引き込んでいるけれどこれも風物詩。見栄えは良くないけれども実は送電効率が良いのです。
こうした住宅の一部で宿泊を受け入れている所もあって、結構多くの外国人が逗留しているけれど安くて親切、時には家族共々料理を振る舞われる事もあって楽しく過ごせる。このような民家で短期生活しただけでも現地の生活文化を味わえることが出来るのだから、特に若者は海外旅行するなら一考に値します。
朝起きるとパンを焼くにおいがして来た。お馴染みのフランスパンだがこの通りの中で焼いていた。20年以上も前の話だが一個500VND(当時5円にも満たない)ほど、だが焼きたてを味わえた。昼ごろにはアイスキャンデーを売る自転車が入って来るが、独特の音楽を流すのですぐわかる。さらに何かしら家で作ったものを売っている店もあって大変活気がありました。
私は海外に行くと真っ先にローカル市場とこうした路地に入るのだが、観光地とはまた違った現地の普段の生活シーンに出会えることが出来て誠に興味深い。

ところが経済が成長し、外国人観光客が多くなってきた現在、当局はこうした街の露店文化を面白くない、不衛生だと一方的に決めつけている。
最近話題の記事だが、ハノイの露店はあちこちに移動し、屋内スペースを借りたり、テイクアウト専門店に切り替えたりと変幻自在。これ当局は歩道の不法占拠に当たるとしてキャンペーンを展開、取り締まりを強化しているとある。
こうした店はHCM市にもあり、私が在住した時、いつも食した餡かけ揚げ麺は大変美味で安い。日本から来た方もお誘いしたが、定番の赤いプラスチック製テーブルと小さなイスが唯一の備品、傍らで料理しているのだが知らないと怖くて入ることは出来ない。だが一旦麺を口にするとどんな高級店よりも旨い。ベトナム茶は氷入りでも気にならない不思議な魅力がありました。夜の営業は無かったが、この店もHemの直ぐ入口にあった。
露店とか道路に店からはみ出たイス席など大阪市でも大きな問題となっている。
救急車など緊急車両の通行を妨げるし、通行人とのトラブルにもなる。しかし日本でもこういった事例があるが、パトロールで見つめても警告だけ。度重なる行為で何年か続かない事には検挙など法的な対処をしない所に甘さがある。
ハノイのハンチャオ通りのカニスープの店、1メートルほどの路地には壁に向けて4つのテーブルがあり、此処で店主は10年間営業してきたと記事にある。
かつては10代のテーブルがあり、一日100杯も売れたというが、最近当局の取り締まりが厳しくなり店をHemの奥に移した。もし摘発されると250万VNDの罰金とイスなどを押収されるからだが、筆者はかつてHCM市の露店で公安が突然急襲してトラックに積んで全てを持って行った光景を見ていた。令状を示す訳でもなく有無を一切言わせない、これがベトナム流やり方です。
同じ様に市内に至る所にあった昼だけの路上店もどんどん消えて行き、安くて、早くて、美味い、三拍子揃った庶民の味方がなくなっていった。道端で屋台を引っ張って来て、食事を提供し、昼が終れば引き上げるのだが、日本にもあり、不衛生と言えばそうかも知れないが、此処で凡そ飲食業に衛生という考え方が間違っており、郊外レストランの調理スペースなど全く清潔ではありません。
バインミーにしても、カフェにしぼりたてジュースなどを提供する露店にしても同じで、誰もが店主と毎日顔を合わせており気の置けない庶民の文化です。

ハノイ市は歩道の回復を目的としてプラン332なるものを実施。監視カメラを導入して取り締まりを強化、罰金を科している。公式統計では市には約1,100本の歩道のある通りがあって、この内120の通りを対象に調査をしたところ、その90%以上が商業活動や駐車スペースとして占拠されていたという。
市当局はより厳格な方針と技術で歩道の管理をするが、また地方公務員が都市秩序を守るため責任ある強化を求めているという。
確かに露店での営業は少なくなり、一部では店舗に移転したが高額な賃料負担にあえいでいるとあり、これに関して金融アカデミーの国際金融学部のティン准教授は、ハノイの街路が整然となったことは認めるが小規模露店業者の生計を考慮すべきとしている。また当局は人が商品を販売できる空間を作るためにそのゾーンを検討すべきとも述べている。

ところが露店の経営者もシタタカで、パトロールが近づいてくるとこれを知らせる警報を出す。あたふたと備品を片付けて、立ち去ったと分れば元の木阿弥に戻すというイタチごっこが続いている。彼らに取れば死活問題、ただでさえ馴染みの客が減少し、売り上げも少なくなっているのだから、是が非でも店は続けて行きたい。店を持ちたいけれどそんな資金など何処にもありません。
これは天秤棒に籠を付けて商品を載せて売り歩く行商人でも同じ。巡回が分かれば慌てて路地の中に逃げ込み、制限区域の外に移動するのだとか。田舎から出て来て他に職が無ければこの様なことも彼らはやって生活を凌ぐのです。
市は6月までに183箇所、残りの130箇所は来年までに制限する。
この歩道上での商売を規制する動きはダナン市でも行っているという。
此処では移動式看板の設置、鉢植えや装飾品を置くことも禁止しており、歩道を完全に市民が通れるように知ることを人民委員会は目指して、包括的な都市管理計画を発表した。無許可で路上での販売、バイクや自転車の駐輪も出来なくなります。また特定の場所での乗降しか認めないとし、また電柱や信号機に貼り紙をすることも禁止したという厳しいもの。これで観光客は綺麗な歩道を歩けるし、清潔な環境を楽しめると自画自賛するけれど、また住民が良い習慣を身に着けマナーが向上すれば魅力ある街となりサービス活性化が期待される。
日本の都市でも路上に看板を置くとか、ビルの袖看板にも道路使用量が発生するのだから、この取り組みが間違いとは言えない。また京都市の四条通りは、かつて看板だらけ。だが千年の古都、今は綺麗になったが、これは官主導ではなく、歴史的に強い民意から都市景観を守ろうという自発的な動きだったので、事情は全く異なるのです。
こうした所に行政から指示がある文化と、民間が主導できる文化の違いがあるけれど、だが露店が不衛生であり観光客には不人気とは考え方に違いがある。非日常的で母国にはあり得ない異文化モノに外国人観光客は憧れや喜びを見出す訳で、そうであればシクロみたいにもはや実用に供されるものでなく、観光用に残すべき資産として利用を考えてもいいと思える。
これに対してHCM市は歩道利用料を科す予定だが、法的な問題から実施に至たらず遅れている。市は歩道が社会インフラであるとしつつ、一時的使用とか利用に関して公共資産の管理という観点からみると法律や政府の法令には規定がないとしているのです。現在交通省と財務省に連携し首相にも検討を受ける必要があり提案書簡を送ったというのです。
路上を利用するのは個人か事業者、北はクチやホクモン、南はカンザー地区に及ぶ約900本の道路が適合しているとある。地域に拠る適正な使用料を明確にすることで、バイクなどの置き場が確保されなければ、生活の足を駐めることが出来なくなって大変なことになり兼ねません。こういう現場の実態を認識する必要もあり一方的に美化で済まされるものではないのです。
確かにこれまで市は清掃のために人を出してきたし、美観に問題があった事も事実でいくら清掃しても追い付かなかった。歩道の管理を新たな方針を導入するにあたって、美観と市民生活から見て、何とか両立できそうなところまで来たというように感じます。これまでにも幾らかの費用の聴衆はあっても、今回の様に全国的に環境面から見て何とかしたいという方針も理解できる。
運輸省は管理ソフトの開発を決定しており、料金、収集方法、利用計画が公表され市民がアクセスできるようになるという。こうなるとハノイ市も規制するだけでなくこれを活用、来年から歩道使用料を徴収する計画となっている。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生