ベトナムに在住する中国人経営者のポジティブな考え方

2023年8月8日(火)

この記事に出て来る、若い人は見所があるとした経営者の王さんは、従業員を雇うだけでなく、未経験者であれば尚さら彼らの成長や仕事の経験を積ませることに注意する必要がある、と積極的な考え方をしています。
さらに彼はCOVID-19の流行期でさえ解雇せず自宅隔離された社員へ給料の半額を支給。現在ベトナムでも経済は停滞しているが、この会社、売り上げは26%増加したと書いてある。
ベトナム人スタッフをヤル気にさせたのは彼の思いやり。だが決してや一過性ではなく、思い付きでもありません。普段からの経営理念が明確であったからこそ。しかしこの処遇に真摯に応えた社員が居ることは、地場では殆ど考えられないことで、実は外資系企業にとっても稀有なのかも知れません。彼の会社の定着率は高いが甘やかしてはいけません。

・労働市場は魅力 肝心なのは従業員がやる気を出す仕組み造り

新興国では外資系企業の進出でその国の経済が成り立っているケースは多い。
となれば、駐在者の上から目線という状況がある場合も考えられなくはない。それは現地事情を知らず勉強もしないことに起因する可能性もあります。
北京大学の国家発展研究院の研究院である范さんは、中国企業のベトナム移転を研究する中で、現地労働者の資質より、ベトナムの若者の教育背景や価値観、キャリア傾向、人生の追求、消費への関心などを研究して理解し、従業員のために企業管理システムや成長計画を創出して、仕事を愛し、企業へ心から奉仕するという彼らの内発的な動機を活性化する必要があると論じました。
難しい事を書いている訳ではなく、海外企業であれば人事管理上の政策の一つで珍しいことでもない。だが企業が安定しており、理念の下で企業風土が明確に醸成されていなければ出来ない。社員へ帰属意識を高めて、動機付けのためインセンティブを企業が用意し、生産性が上がるという考え方に外なりません。

・ベトナム市場は魅力的 多方面からメスを入れる中国メディア

多くの外資系企業が考えるのと同じく、中国企業もベトナム市場は活力があり、魅力的と認めている様です。
労働市場は平均年齢が32,5歳で、人口の70%が労働力。識字率は95%程と中国と変わらない。問題もあるが、教育水準は他のアジア諸国に比べて高く、中国と距離的にも近いとする。文化も近く、現地従業員とコミュニケーションも取りやすいし、人件費が安く当面続くとして考えています。

またマーケットとして、経済成長に伴う可処分所得の増大、これに拠り生活にも変化が起き、より快適、便利で豊かさを追うようになっています。
量より質へ転換もその時期に入っているし、海外留学や生活をする人が増えるに伴ってこの傾向は増しているのです。社会主義的な考え方、貧しさを分かち合うなんて過去の為政者の人民を鼓舞するテーゼ。競争社会がどんどん進み、能力のある人が出てきて社会を変えて行く。そうなると格差が生れて、貧富や教育の差が大きくなるのは自明の理。20年以上現地で生活し社会・経済の流れを観てきたが、資本主義国家と変わらない所まで来ていると思えるのです。
中国人経営者が指摘するのは、彼らはより多くの収入を得て、より良い生活をしようとする意欲が希薄だとしている。これは家族主義的な考え方から来るのだが、この様な指摘は彼らだけではなく、以前から現地事情に詳しい人からは既に書かれています。悠久のメコンの流れのようにゆったりと、あくせくせず気楽にというのは、特に南の人達の食うに困らない豊かさに起因するが、実際にこの地を訪れ、家に逗留すればその断面が分かってくる。だからこそ敢えて都会に出て窮屈な生活をする必要などはなかったのです。

・時代の流れなのか 若い世代から変化している

このところ経済成長が安定的に続き、国民の所得も増えてきた結果、これまでの考え方は若い世代を中心に変化して来ている実態が見受けられます。
国の成長に連れ道路インフラや物流、商業施設の整備、通信手段の革新、また大学などの高等教育、海外留学の増加も変化の要因になっていると考えます。
何れの国でも時代の流れ先導するのは若者。喫茶飲食、ファッションに敏感でモノを大事にするより先端の流行に金(消費)を惜しまない。伝統よりも海外の商品を購入するという行動に出るなど消費性向に変化が起きる。これを助長するのが世界で同時に確認できるSNS、大手ショッピングモールや通信販売などに拠る物品購入で、都市と地方の時間軸での距離が無くなったのは事実。
しかしそういったことだけではなく、30歳前後の人達の起業も増え、中にはお得意のIT分野で成長、海外支店を出して受注するような事例も出てきた。
単に外資企業の下請け的組立の労働集約産業ではなく、ソフトを考え逆に海外へ輸出。実に頼もしい人材が増えてきているのは確かな事実。
中国人経営者もこういったところに目を向け注視しているのです。もはや産業構造の変換さえ起きる可能性も出てきたと言えるが、大げさでもありません。
ベトナムは1980年から2012年に生まれたデジタル世代が、2030年までに消費人口の40%を占めるようになると予想。急速なデジタル化は国家目標であり、若者世代の消費の在り方、構造を変える原動力になり得ます。
同国のEC市場は22年に164億ドルに達したが、購入人口は約6千万人、一人当たりの支出は280ドル程。今年第一四半期は前年比22%増。景気低迷と言われ経営環境悪化にも拘わらず過去最高の貯金額。市民の貯蓄意欲が高まり口座開設が増加、30%を貯金に回しているとある。
マッキンゼーの発表では、今後10年間で新たに3600万人が消費の主力層に追加され、一日に11ドルを消費。この主力層は2000年には10%だったが22年度には40%に拡大しているという。この市場は大きく人口は5月に1億人を突破し増加中。世界が狙う巨大なマーケットゆえ中国企業も軽視できない訳です。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生