日本の開発業者が建てたマンションは評価が高い

2021年10月20日(水)

阪急阪神不動産がHCM市1区に100%現地法人を7月に開設。アセアンに進出して不動産事業を行うとありました。すでに現地でのアパート分譲が高い評価を得て成功していたこともあるのでしょう。
日本企業の住宅は住宅・居住性能が高いと言われ、導線、間取り、設備など、これまでなかった便利さと快適な生活ができそうで知識階級に好評だとか。
東の東急、九州の西鉄など鉄道を基盤にした企業に加え鉄道王国・関西の雄、小林一三の開発センスをDNAに持つ阪急がやっと名乗りを上げました。
だが決して早くはなく、私はむしろ遅きに失した進出と見ています。個人的にはもう10年早ければよかったと思うが、おまけに核となる事業は無く不動産単体での進出はこの国で何処まで自由に事業をさせてもらえるのか。
この当時でも大手マンション開発企業がHCM市に来て、ヒアリング調査を行っていました。しかし現地より内部の問題から進出できなかったが、この頃はシンガポールや韓国企業が進出して良い物件を確保、大規模開発を行っていた。同時期に勝負に出ていたなら成果はもっとあったと考えます。

・用地選定は此処でも重要

この2~3年、HCM市当局は人口がこれ以上集中することを嫌がって規制に乗り出したし、これまで筆者が市内で最後に残された地域は9区だと言ってきたが、今や郊外の、また外れと言える北部のクチや南部のニャーベー辺りまで高騰の波が及んでいる状況があります。此処までとなればベトナム人でも購入するには中心部の通勤圏から離れて遠く、利便施設などは無く不便でイメージから見ても躊躇する。まだ其処まで時代が追い付いていません。
この他にも不動産業を生業とする日本企業が現地企業と組んで進出している中どこの地域を狙うかだが、セオリーでは地下鉄沿線かな。
徐々に現地のデベロッパーもノウハウを得て、大規模開発を行う時代になりました。また木造や日本式住宅を現地販売という戦略で進出する企業も出てきている。日本は人口減少で開発事業は限界、ならば海外でと踏んだのでしょう。
かつて大手スーパーA社が進出し事業所を設置した時、1年以内にHCM市内5カ所に開発すると豪語していたが無残な結果となり、現法社長は何とか用地を見つけて欲しいと懇願したほど。現地土地事情を知らないとこんな目に合う。
また大手不動産某社は現地事務所を一旦撤退。数年後に隣国事務所長が兼務しHCM市で開発を行なおうとしたが上手く行かず再撤収。これは7~8年前だが所長は大阪の出身、地場の銀行担当者と一緒に会って話をしたが現地事情に疎く少々甘く見過ぎたのでしょう。

・管理の問題と 建築上で収納と設備など生活空間に差異が

中国のネットでも日本の開発企業が手掛けるマンションは、現地企業と違いが大きいとの評価が上っています。
それ以上の驚きは100年以上経過した旧満州の日本人が建てた家が、手抜きが見当たらず未だに快適に使えている事だと言います。
自国との差は何なのか。現地の専門家によるとまず綺麗。すでに初期に建った10年を経過したマンションでさえ共用部分もきれいに清掃が行き届いている。現地の場合、管理費を払っていてもエレベーターや床など汚いまま。
部屋内は収納が多い事。部屋がすっきりして広く感じると言う。このほかには完成しても一定期間引き渡さない。これはシック対策だと言うが、少々疑問。
日本で企画・販売まで担当した筆者から見てあり得ない。
この他にインテリアがお洒落とか、色彩設計が良い、水回り設備がコンパクトで機能的であり、生活空間が広く感じる工夫がされ使い勝手がいいとべた褒め。
日本で設計技術を学んできた学生が現地で内装工事を行った物件をみた若者に人気だと言います。

日本は基本的にシンプルで実用的なものを得意とし、実用例は数多くある。
公団住宅は是非があるがコンパクトで機能的な住いを実現。この発想は京大の西山先生。風呂と水洗トイレ、システムキッチンと洋風リビングは人気。
障子、畳の部屋こそが和の住宅文化、立って半畳、寝て一畳、人の体が基本。和室は空間設計の原点だと思うが随分と簡素化されていて残念。HCM市では水嶋さんが畳を現地製造・販売していて大好評。
黒川紀章設計の中銀マンシオンは現在のカプセルホテルに通じる先進的思想があり現代的、人気が再燃しています。

・ベトナムの分譲アパート

一概にアパートと言っても勿論だがピンからキリまである。また時代に拠って大きく違いがあります。
古いアパートは中廊下式で暗くて風通しが悪いうえ、これといった設備は無く、トイレとシャワー一体の浴室。配管配線は剥き出しで、窓とか換気装置すら無いのには何とも言い様がないが、現地では平気。またキッチンも強制換気ができず窓を開けるのみ。プロパンガスが普及しなかった時分には炭や練炭で調理していたのだから日本人には想像できません。風通しのため常に玄関扉を開放していましたが、HCM市の蒸し暑い気候に外国人は耐えられません。

収納は此処でも同じ。現地の開発業者はクローゼットや日本の様な押し入れを設置しません。私が購入したアパートや、住いした戸建てにも無いので、一部にスペースを設けて扉を別注、クローゼットを造りました。設計者も発注者も全く考えが及ばず、部屋の隅に家具を置くのが普通。しかも木材に種類はなくパーティクルボードなので重く、水を吸うので変形する。このためスチール製箪笥やプラスチック製の引き出しを使うのが一般的です。

ところがこの10年程で変化が起きている。これまで基本的にスケルトン状態での分譲であったのですが、内装も施工され、しかも壁・天井はプラスター塗ではなくクロス仕上げとなっています。床はタイルが基本だが、一部は木製のフローリングを貼っているなどセンスが向上、内装に進化がみられる。

ある日本人が購入したアパート。此処は玄関部分に履脱ぎがあり、低いけれど框を付けてある。しかもクローゼットに仕立てた靴箱がありました。
また設備もかなり充実しており、水回り部分の強制換気用のダクト、給排水用のPS、エアコン用のスリーブと配線も設置され、以前の様なトラブルは回避される様に設計されていました。
また浴室にはシャワーだけでなくバスタブ設置され、便器も日本製を使っているなど、大きな進展がみられます。

この理由、ひとつは海外で生活経験がある分譲主が販売したこと。また海外で建築の勉強をした人が帰国。ハノイの空港で会った学生は東京工業大学で建築を専攻していました。
もう一つ外国人が賃貸に住む際、不都合な点を指摘されたことで改善した事に拠ると考えられます。筆者は7区PMHから改良点を教えて欲しいというので指摘しました。

また管理については日本の様な法律はなく、購入時に契約書に規則とある。
現在は業者の善し悪しや経験則に拠ると考えられますが、何より住民の住環境を守ろうとする意識が一番肝心。だがこればかりは何とも言い難く時間が掛ります。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生