企業と人間をテーマにしてきた経済評論家の内橋克人さんが9月1日に死去との報道。高度成長期には技術開発の現場に光をあてた「匠の時代」を連載して注目され、これは誠に面白く拝読しました。
こういう正統派は少なく、関西人らしく権力に媚びず自由で気骨があり、我々世代までは疎通する思想をお持ちだったと考えます。
急速に成長し始めた大量消費社会、豊かになった日本。資本の論理を貫く企業と人間・現場の接点に人を原点として追及。表向きの成功者より、裏で支える職人と技術にスポットを当て正当に評価されている。
謙虚で実直、ひたむきな姿勢だが頑固一徹。これぞ日本の職人の鑑というか、もの作りの原点と映ります。
日本のR&D力が世界の主流から落ちているが、現場(人)を重視しなかった結果。理論や頭でしか物事を考えない政治家は世論を無視して権力保持、企業は事務屋が多数派、巷では不労所得の礼賛。
大学はもはや象牙の塔でなく、批判の的となり忌避された産学共同が力を発揮、その成果が一つの社会的評価にもなっている。卒業生の起業にベンチャー度が高まり、大学が出資までしてこれを支援する様変わりには目が飛び出るほど。
時代の流れと驚く反面、学問の自由が脅かされ、政府の意に添わせようとする魂胆。もしかすると厳しく学者を管理しようとする思惑を危惧します。活力に満ちた時代は過ぎ去ったのか。
先人から伝承されてきたワザを持つ職人には後継者がいない苦境。国立大学は法人化。研究開発予算はどんどん削られ、企業と同じ早く利益を出せとの意味。これでは基礎研究の継続は不可で質は低下。正夢になったのがCOVID-19禍で起きた製薬業界。かつて世界トップを走る座にあった感染症研究とワクチン開発は転落。危険を回避し合理性を追求した結果、理念を失い薬九層倍の高収益部門を売る破目や人員整理。先端頭脳の中国流出も政府の責任でもある。
また今や世界は挙ってAIの研究開発に心血を注いでいる時代へと変化。自動車等にも搭載され、囲碁や将棋でも人間との対決を面白おかしく書き立てる。所詮は人類が築いてきた叡知と経験を機械に学習させ、様々なパターンを瞬時に分析して結論を出させるという魔法の玉手箱に違いはない。目先はある程度予測できて便利になったが、鉄腕アトムの様に情感を持ち合わせず相手の気を読むところまでは行かない単なる機械。物つくりにしても大量生産で安価に造られたものより、どこかに人間臭さがあると言うのが評価され高くても売れる。時代の進化は二極化と、自然回帰、人間復帰が反動として出るが全てに共通。内橋さんはこの現況を如何なる言葉で評されるでしょう。
こんな中、面白い記事をみてその本を読んでみました。韓国通で有名な女優、黒田福美さんが書かれたのだが、社会と生活に精通しその深い見識から日本人との精神性や文化の違いなどを比較しておられる。単なる観光や料理のファンでなく、TVでも歴史認識を高く評価されるほど。時に辛辣な指摘も充分相手国を理解しているからこそできる技。安易な論評をする芸能人コメンテーターなどと異なり、ビジネス書として活用も可能な位に知的度合は高く、同じ半島に位置するベトナムも同様の状況が一部に見ることが出来る、と考えられます。
其処に登場する日本との違いでビジネスに関連する件とは、①島国と半島国家。②日本の仏教倫理観に比し、韓国の儒教観。③日本の職人文化に対し、韓国のホワイトカラー文化。④日本のエビデンス(証拠・根拠)文化と、韓国の見たものを信じるレッテル文化。⑤ボトムアップ文化の(現在の)日本に、トップダウン文化の韓国。⑥日本人の秘める文化、韓国の誇示文化。要するに日本人は湾曲して物を言い互いに察する。に対し韓国人はダイレクトに言わなければ分からない。これ等を理解できなければ海外での事業などやれない。
思い出したのは辺真一氏が書いた本。ある苦学生が居たとする。すると日本では担任が彼を呼び出して密かに費用を渡す(修学旅行や給食費)。しかし韓国ならば教師が教室で生徒全員に彼の状況を伝えて支援する。のだとありました。
日本ならば辱めを受ける事は絶対に避けなければいけない、けれど、韓国では全員が悲しみも嬉しさも共有するとあった。また政治や組織、TVドラマでもいがみ、けなし合っており、間違っていようが関係なくケンカ腰で大声を張り上げて自分を正当化し、相手を威嚇する場面が多い。これは多分⑥です。
さてベトナムでは日本流だったかなとの記憶がある。相手に恥を掻かせるのは厳禁と越南指南本に叱るなら別室でとあったが、逆手にとって社員の面前でやったとする。即刻退職か、翌日は出社せず連絡もなく勝手に辞めてしまいます。
韓国ドラマを観ると、とかく財閥家族が出て来て社員に偉そうにするシーンが多い。成り上がりで品が無くまるで下僕扱い。HCM市で見た好事例がある。
以前日系企業でGMをしていた時のこと。部長が支店長にヘイコラしていたが部下には掌を変えキツク当たる。またVN人マネージャーに部屋を紹介したので手数料を払えと横柄に言ってきた。当然あくまでも支店長に内緒。ところがこの支店長はなかなか良くできた人、工場開設の式典に招待してくれたほど。
この会社、韓国では一早くVN進出した大手グループ企業。上からの指示命令は絶対服従、勝手な行為をすると即時クビになる。それほど韓国企業内の学歴、格差、上下関係は、年功序列でなく厳しいと聞く。差し詰め⑤でしょうか。
ベトナムでも40歳台の大卒者は、行政機関、企業でエリート。権限を持っている。彼らが学生であった頃は大学進学率が3%程しかなく、横の繋がりは堅固で連帯意識が強く日頃の付き合いがしっかりしており、経験した者なら分るがこの人脈は驚くほどビジネスでも有効に作用する。飲み食いはしても不明瞭な金銭は動きません。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生