これまでベトナムで圧倒的に強かった日本車。中でもトヨタは一位を独走していました。これまで何度かコラムにしたけれど、故障は少ないし、乗り心地もそれまでのアジア車に比べて違いは際立ち、あっという間に人気が出ました。
タクシーにこのトヨタ車を全面的に採用したのが大手ビナサン。HCM市だけでなく地方でも最も安心できるとし、さらに殆どのガイドブックにもお勧めのタクシーだと書いてある。この影響は大きく殆どの会社がトヨタ車に変更した。
しかしこのところEV車への切り替えが進みつつあるとの現地報があり、先のビナサンも年内に電気自動車を導入する方針を株主総会で表明したとトイチェ紙が報じています。
これはハノイでヴィングループ傘下の子会社が、自社製造のEV車500台でタクシー事業に参入。HCM市でも稼働しているが、ヴィングループ会長であるブン氏の話では、今後全国で10000台のタクシーを同社のEV車で運用する計画だとしています。要するにこの業界への新規参入で自社製造の国産車を投入。ネームバリューのアップと宣伝効果、さらに売る揚げにも寄与するのだが、すでに同じことはトヨタや日産でも行ってきたので、斬新なアイデアというものではありません。
ビナサンの新聞報道はこうした状況を重く見た株主からの質問に回答したもの。しかし導入には設備投資、運営コスト、保守費用、売却価格など検討を要するとし、さらに充電に時間が掛るなどの課題もあるので各条件を総合的に勘案し、前向きに検討すると述べたに留まったとするのが本当の様です。
これ以外には2021年に、ハノイでヴィン社が製造するバスを公共路線に市が投入し、現在8路線で使われています。またハイフォン市でも現地タクシー会社エン・ヴァン社は25台のヴィンファスト車を購入し、さらに125台をリースして運営するとしています。これは同社の工場があるためであり、使わない訳にはいかない暗黙の了承事項です。ラムドン省・ダラット市でも使用中。筆者は大学卒業後に配属されたのが京都の三菱自動車の軽合金エンジン工場の建設現場。もちろん現場で使用するのは三菱車だし、社員も自社の車に殆どが乗っている訳です。しかし中には他社の車を使っている人もいたけれど、こうなると工場内の敷地には駐車できない。そこで近所の駐車場を借りていた訳で、こうした事情は他の県・市でも同じ。社員への各種購入優遇策は一切得ることが出来ないのは当然だし、もし分かれば白い目で見られる事を覚悟しなければならない。これが恐らく世界共通の様なので、ヴィン社のお膝元で他社の車を使えば商売などできっこありませんから、双方相見互いというところか。
・アジアでの動き
タイ、台湾、インドネシアなどのアジア諸国でもこうしたEV車への切り替えが始まりかけており、多くの物流企業でも2035年までに全社をEVにする計画が進行しているとあります。中国での最大のフード・デリバリーサービスであるMeituan社も競合企業もEV化が先行。
こうした動きの中でイギリスの調査会社は、昨年度のEVバスとトラック販売台数は過去最高の238,000台になったとしています。京都市でも中国製のEVが運行しており、ひときわ目に留まります。
ベトナムでも炭素排出懸念から、ベトナム企業もカーボンフリーを認識し始めているとされ、GOTOも最終的にはEV車のみを使用する予定としています。
政府のEV車への奨励策もスピードアップに繋がっているとされ、昨年7月、政府はグリーンエネルギーへの転換と、国内の排出量の4分の一を占める物流業界の炭素とメタンガス排出量の削減に関しての行動プログラムを承認。これに拠れば2025年までEVバスへの転換。2030年にはEVタクシー車、2050年までには全ての自動車はEV化されるとしています。
さらに建設業、工業生産に於いても脱炭素化を図ると意気込むけれど、大阪市が2016年にHCM市でラウンドテーブルを開催、この時は当時の吉村市長が出席したが、市役所の担当者が脱酸素社会の支援ということで来ていました。
偶然高校の後輩であったのだが、この時点ではおよそこんな状況などは程遠く、無縁に近かったと記憶しています。急激にこの様な考え方になった背景には、この国産車とされるヴィンファストのEV化支援という背景も含まれるのではなかろうかと思えるのです。
ヴィン社がガソリン車から大きくEV化へ転換を図ったのには幾つかの理由があると思われるが、現在は全国の各省や地域でこれに賛同して、購入計画がある人の25%が使用を増やしたいと考えているとあります。
・勝算はあるのか
ただでさえ電力不足のベトナム。経済が成長すれば生産のために電力が必要。
企業誘致は積極的だが、インフラ整備が追い付かず余剰電力などなかった。
また市民生活も所得が向上すれば各種電気製品を購入するので、電力使用量はうなぎ上りなのは必然。かつては計画停電があって、これには参ったけれどやむを得ない。そこでダムを建設し発電所や各種発電設備を整備してきたが、間に合わない。
また今年はエルニーニョ現象で特に暑く、ダムの貯水量が激減して節電を呼びかけるが、エアコンの使用も増えるとか、除湿器とか白物家電の大型化も拍車をかけているのが実情で、自然現象には勝てません。
となれ売電しかなく、これまでにもラオスから買った経緯はあるが、今年は5月に中国から電気を購入しなければならなくなった地域も出てきました。
即ち現在この様な状況なのだが、火力発電はカーボンニュートラルに反するし、水力発電間見込めない。如何に自然の力を利用するかに拠るけれど、この様な有様でさらに電気自動車を計画通りに普及させるとどうなるのか。この計算は出来ていない様です。
また自動車関連のアナリストはベトナムでのEV車の可能性は疑いの余地なく高いとする一方で、障害もあるとしています。
これには充電ステーションとバッテリー交換のための場所が必要だが確保できるのか。さらに今のところ充電に時間が掛るという問題。おまけに燃料コストが1,3~1,5倍かかるとしています。これにはさすがに物流企業は政府にインセンティブを求めている。
またタクシー料金もガソリン車より現在2倍以上する。環境重視と言うが頻繁に使う事は出来ず、消費者が納得して全てを受け入れるとは限りません。
だが世界的な潮流である以上、ベトナムも見逃すことはできない、としている。
先進国に近づくには脱炭素化は重要事項。表向きはともあれ、実際の電力需要は追い付くことにはかなり無理がある。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生