FDIに関して経済専門家の話

2023年5月11日(木)

・FDIに必要なのはもはや以前の様な誘致政策ではない

中央経済研究所元所長であるDOANH博士は優遇措置と何らかのインセンティブはもはや誘致の強みではない、と述べたとの記事がありました。
とっくの昔に税の優遇措置など終わっている筈と思いながら読み進めて行くのだが、現在の時代にあっては透明性のある制度、インフラ整備、質の高い労働力が必要だとおっしゃる。これは今に始まった事でなく、こうしたことは外資企業であれば先刻承知、数々の洗礼も受けてきました。今さら何をという感は免れません。お得意の単純なアッセンブリーでも、徐々に熟練度と速度が要求されてゆく。

しかし日本の様な工業高校、日本の支援で導入が決まった工業高等専門高校、さらに大学工学部でも本来は必須である溶接など専門技術課程が無い有様。
また省や民間の専門学校には地方から若者が集まって来る。外国語学習の他に幾つかの教科があり、これを履修して海外へ実習生として送り込まれる算段。如何せん海外事情を知らない教員は先進技術が分らない、教えている技術も旧過ぎて使えず無駄。となれば採用した企業が初めから教育さなければ仕方がないのだが妙な癖が身に付いている。全体的に基礎力がない、応用が利かないということを実際に体験したのだが、これが現地の教育実態です。

さらに博士は投資環境の改善、税制や土地の件に関しては地元の努力だけでは無理で、主管省庁間の協力が必要。政治局決議50と政府の行動プログラム、明確な目標とタスクにより実施し監視監督されなければならないと訴えている。要するに地元省の自由裁量に任せることは間違いで、公共投資で行われているヘッドの責任を増やす必要性を指摘する。だがこうなると地方分権に程遠く、国家による統制が強くなる危険性さえ出て来ます。元々は役人だからこの様な見解が出て来るのだが、もはや民主主義的経済の大原則から逸脱した方向性で、これを報道する(社会主義的思想)ことが問題。

冒頭は誰もが思っていることを語っただけだが、後半部分を考えると自由競争ができなくなり投資は停滞か減速するに違いない。
また此のままFDIを通じてベトナムがサプライチェーンにどのように参加、活用してゆくかという問題に付いては、専門家であれ、企業も良いとは思っていません。現実問題として多くの投資フォーラムが開催されているのだが実質的でない。
大企業であっても多くの場合、補助的であり世界の部品供給に参加する資格はないと厳しい目が向けられているのも事実。世界は期待している様だが棚ぼた的に中国から工場移転と喜んでいられない。
ベトナムの製造業や裾野産業の実態を理解している識者はこう考えている。

計画投資省が策定した2021年から2030年における外国投資戦略では、特に総FDIが占める一部の登録投資資本の割合を、20年から25年に20%以上に、26年~30年には30%引き上げることを目的にしているという。
これ等の外国とは日本、韓国、中国、台湾、シンガポール、マレーシア、タイ、インド、インドネシア、フィリッピン、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ロシアとするが、こうした諸国から導入したいのは先進先端の技術で、特に半導体に関する技術移転。世界との格差があり過ぎるけれど、ならば世界の部品供給国となる目標は放棄したのか。

・外資系企業はベトナムのメリットではない?

財政省の報告に拠ると、2021年の調査では外資系直接投資企業の55%が、即ち進出企業のうち14,200社を超える企業が損失を報告しているとある。これは2011年と比較して20%増加したとする。しかし新規進出がかなり増えた期間であり、COVID-19の蔓延で地場企業も同じ状況なのです。
2021年にはFDI企業の総資産は8億ドルに達し、2008年と比較して13%増加。しかし負債もまた12,3%増加し5億ドルと報じているが数字の間違いか?どう見ても少な過ぎる。これがお気に召さないようだが、外資系企業の多くは進出後、僅か数年の間に利益を出せる様な状況にはないけれど、財政当局などはそんな筈がないと考えているように感じざるを得ません。
ベトナムでは大小、国内外企業を問わず、税務署に公認会計士や税理士事務所が毎月申告しており、無理難題を押し付けられる道理など一切ない。それでも外資なら利益が出ない訳は無いと重箱の隅を突くか、ありもしないケチを付け、時には公安まで暗に脅し紛いに来て、何かしらのお土産に与ろうとする場面に誰しも遭遇して辟易する。金銭に公明正大でなく透明性など求められない。
日本企業にしても、調査に拠るとベトナムへの進出とか事業拡大を考える企業は多いとの結果がある。損益事情も報じられるが、半数を超える企業が損失を計上しているとの記憶があります。新規開設時には初期投資が嵩むし、必要とする部品は現地で揃わず、本国から輸入しなければならない、思う以上に労働コストが掛ってしまう。大手有名A社でさえ進出後、黒字転換するのに10年以上も掛ったと聞いた事があるくらいです。

財政省は企業の資産規模が拡大しているのに、負債の拡大がこれよりも上回って大きいとしている。FDI企業は主に外部資金による資本増加がある(本国から追加投資)が、一部の分野で収益はマイナスが続き改善されていないと分析しています。
FDI企業の利益は総投資額に見合うだけのものでは無く、損失とその累積、資本ロスを報告する企業数は増加する傾向にあるともしています。
またこうした企業の製品は、主に加工品と組み立て品であり、低付加価値製品で労働集約型、しかも低技術、低ローカライゼーションだとも評しています。
要するに自国の実態を十分理解できている。然しながら進出数は増えて来たけれど、ベトナムが目指すものでは無いと言いたげで、外資系企業が国に利益をもたらしているものでも無いと言及している他ならない。
こんな言い分が出てきたのは貿易黒字が続き外貨保有高が1000億ドルを超え、自国通貨も安定してきたからこそ論調に強くなったに違いない。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生