ビンファスト

2023年7月25日(火)

国内はEV車化が進められようとしており、ヴィン社は国内市場が大きくないとして、タイ、欧米へも進出の動きを加速しようと目論んでいます。
アメリカへの輸出を増やし、これを足掛かりにしてヨーロッパへという流れを加速したい。そこで今年度は5万台のEV車を販売する予定とかだが、これは2022年度のほぼ7倍にあたるが思い通りに行くのでしょうか。
計画通りに進めば2024年度にはブレイクする可能性があると、同社の年次総会で豪語したのは創設者のブン会長。手前みそもいいところ。

市場が唯一ベトナム国内であった2022年には、わずか7400台しか売れなかったが、今年は40000~50000台を販売できると予測している。ブン氏は付け加えて他に2種類のモデル、ピックアップトラックとバッテリー駆動の都市型、あるいはミニカーのラインアップを計画している。この価格は10000ドル~12000ドルの間で超低価格だと自賛しています。
これにはアメリカで5月に特別目的買収会社、ブラックスペードとの合併を通じてアメリカ株式市場へ上場する発表をして以来、最も新しいニュースです。
同社は開発販売が先行するライバル企業テスラ社との競争に晒され、世界経済が低迷するなか、低価格の新しいEV車の供給を目指すことで市場が再び堅調になればヴィン社も財政的な豊かさを取り戻せるとしているが簡単ではない。
これは何を意味するか。これまで自動車を1台生産する度に万ドル単位の赤字を出しており、またEV車も儲けが出ている訳でありません。

国内で売れているということは、人気が高いからではなく、購入に際して政府や自社の優遇策があるからです。これを勘違いして売れている、とするものではありません。
従って子会社を創ってまでリース事業を行い、タクシーに参入するのは売れていない証明、単なる台数稼ぎに過ぎない。さらに5年後には一定の条件と減価率で買い取る制度を5月に発表。形振り構わずの状況の様だが、台所の苦しさから苦肉の策か。この先には中古市場を創るのではと筆者は想像しているが。
そこで会長が行ったのは自身の懐から10億ドルを拠出、グループも5億ドル、さらに5億ドルを借り入れ、合計20億ドルを赤字処理に使うという策に出たのです。此処までするのは何故かだが、会長は儲けを目指している訳ではなく、国家や社会への貢献だともっともらしく語るが単なる意地。であれば部品寄せ集めのアッセンブリー車であり、他にも工業製品はある筈なのに、拘ったのがベトナムで最初の国産車?を創ったという名誉でしかありません。
各国での自動車ショーにも出展しており、スタイルが良いなどの評価もあるが、真の国産車と語るにはほど遠い。系列も無く、各国各企業から集められたバラバラ部品等の完成品輸出でしかなく、今までの工業製品と一線を画するものでは全くない。単なる延長でしかないのに誤解している人が多いのは気にかかる。

・初のアメリカ輸出 全車リコールの屈辱は経験や技術力不足からなのか?

こうした状況の中、昨年にアメリカへ輸出したEV車は999台だが、全てがリコール対象になったとの現地報道があります。
これはアメリカ運輸省道路交通安全局からの警告に依るもので、この車種には情報を示す車に搭載したディスプレイのソフトウエアに不具合が見つかって、正常に作動しなければ衝突する危険性があるとの指摘に拠るというものです。
実際に販売された車はそれほど多くないようで、700台余りは現地の手元にある模様だとか。また2月には一部のフロントブレーキに不具合があったので2781台がリコールされたとあるが、技術的な問題が次々現れている。
絶対にリコールが無い企業はあり得ないけれど、輸出早々の問題発生いうのは海外での経験が不足しているのか、焦って輸出したのか、輸出時での検査不備だったのか等々あるけれど、出だしで躓いたという事実の他なりません。

ところが、思わぬ伏兵が現れた。何とお膝元のベトナムHCM市で、中国製のミニカーA₀1なるものが1億VND(約4260ドル)で3カ月以内に売り出される事態となったのです。いわば海外に気をとられている隙間を付いて割込まれた。さては勝算は如何にというところ。
Zhindouという企業が計画しているというが、同社ではこれをオートテック・アクセサリー展示会へ出品、都市向けヴィークルだとしている。
大きさは小型車の代表であるKIAモーニングの三分の二ほどというからかなり小型。クイックチャージが特徴でわずか30分のフル充電時間。さらに100キロの運行距離があるので、まさに道路事情が狭いHCM市では最適合車種。
この車は中国国内、インド、ロシア、アメリカやタイでもすでに販売しており、ベトナム国内で協力会社が組み立てるという。

・果たして安泰なのか ヴィングループ

ベトナム最大のコングロマリット、というのがフレーズ。リゾートや商業施設などの不動産から一時は全国展開を目指したコンビニも経営していた。しかしこちらは上手く行かずに手放し、経営資源を集中させると意気込み2019年に初の国産車を販売。4年経ちました。現在の生産能力は25万台(50万台まで設備的には可能)と言われ、年々成長してきたけれど数字上でのお話。
だが順風満帆ではなく、これまで赤字の垂れ流し。22年8月に急にガソリン車製造を停止し、全車EV化を宣言。良く言えば時流を読んだともいえるが、構造的に簡単で部品も少なくて済むというから、事業経験が少なく研究開発の費用や設備投入も少なくて済むので同社にとってはもってこいという訳です。

国内事業が盤石でない所に、アメリカへ進出も吉と出るかはこれから先の話。
だが功を焦り過ぎては全てが沈んでしまい兼ないから賭けと同じです。経営には時として必要だが、恐れを知らないビギナーズラックになるのか。果たして各国のメーカーが鎬を削り、現地工場を建設して需要に応えて来た積年の経緯と経験を凌駕できるだけのナニかがあるのか。
これまでは不動産収益を投入してきたからこそ可能だったけれど、会長や親企業が寄付や出資など、もはや最後の手段。こんな馬鹿を何時まで続けることが出来るのか疑問でしかない。

・不動産事業が順調ではない

ところが、これまで幾度かコラムにしたけれど、此処に来てベトナムの不動産市場は思わしくない。ヴィン社の不動産事業はまだマシとの報道もあるけれど、何とか乗り超えてきたが、現状からみると何時かは限界がくるもの。
即ち創業の原点である不動産事業があった故の自動車産業への進出であったが、利益が出るところまでは適わない。こうなると本家本元の肝腎要の事業が振るわず、2022年上半期に比して75%減、また連結売上高も48%減の31兆6130億VND(約1897億円)*JETRO報。というから足許に火が付いたという認識を持たなければなりません。自動車産業に首を突っ込んだがために、ブレーキがかかった。
このまま不動産市場が回復しなければ、どうなるのかは不透明ではあるけれど、ただでさえ経常利益は下降線を画いていており、足許が弱いだけに良い状況にはならないだろうと考えられます。

国内シェアも海外シフトを始めてから落としている。この理由は何を意味するのか。報じられるのは部品供給の問題で、納車が遅れているという失態も露呈。同社のサプライチェーンは脆弱、といみじくも証明された他ならないが分かり切ったこと。プロモーションでしか販売を伸ばせないのに根本的な無理がある。
また余りにも拙速すぎた結果リコールも多いとされる。これも同社ブランドへの失墜につながる可能性を否定できないし、アメリカに次ぐヨーロッパ各国、タイなどアジア諸国へ輸出を進める上で足枷にもなりかねない。全ての従業員はこんな経営状況に危機感を持っているのだろうか。
同社はアメリカノースカロライナ州に20億ドルを投資し、EV車専用工場を建設すると発表。だが自己資本はなく、資金調達のため米国証券取引委員会にIPOを申請。あくまでも強気の姿勢を曲げない。
ヴィンホームズの株式6%を持つアメリカ・KKRがバックに付いていると勘違いした安心感なのか、おくびに出さず一気呵成に世界市場へ攻勢を掛けようとする節があると感じる。しかし海外ファンドはモノを言う。豊かな人材と資金、これまで培ってきた世界での投資ビジネス経験は数知れない。となれば黙っている筈が無く、何時かはお家を乗っ取られる場合もあるのを覚悟すべきです。

さらに先行投資か、EU市場でもドイツ、フランス、オランダに支社を相次いで設立と発表。ではこの理由は何か。要は工場の低稼働率が利益の出ない原因なので、何としてでも海外での販売を上げたいとの焦りに過ぎません。
国内市場は現在のところ幾ら見積もっても精々40万台が関の山、海外で帳尻を併せなければ何ともならない実態だが、どう見ても無理筋。新興企業に在りがちな寄せ集めでは機能しないのです。
こうした状況を知らず、日本の一部でベトナムは良い車を造る、と知った被りは如何なものか。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生