今話題になっている一冊の本から

2021年7月29日(木)

・人気の一冊「ルワンダ中央銀行総裁日記 増補版」

読むほどに面白く、日記というより、一国の経済基盤を作り発展させた経済・金融の実務ドキュメントです。

初版が出たのが1972年6月なので49年前。しかし赴任したのは1965年1月、だから実際は56年も前の話なのです。このころはアフリカの状況など一般によく知られていません。キリマンジャロに雪があり、草原に百獣の王ライオンが寝そべっていて、シマウマが草を食んでいる。この程度の認識か。
海外に行く事すら余程でなければ考えられず、飛行機に乗れる人も数えられる位に少ない時代。今は近代的ビルが建つ清潔な首都、人は親切とあるが、もしかしてこの基礎を創ったのは著者の服部さんなのでは?

植民地からようやく独立を果たして間なしの小新興国。現地情報は限られ詳細など分る術はありません。
海外の国で中央銀行トップを任されるにしても、現地政府の高官はおろか職員も全くと言っていいほど金融の仕組みや仕事が分っていない。大臣に国会議員も経済や貿易実務、国家予算、苦境の経済回復の方策も理解できない。
交通・通信手段は脆弱。国際電話は繋がらないし、ネットもない環境。こんな所に行ってこれまでの弊害や因習を断ち切り、ほぼゼロからシステム立ち上げという業績を成し遂げた。発展途上で貧国ゆえの苦労は並大抵ではなくまさに超人技です。

着任早々、現地スタッフは仕事のサボりと居眠り、金の誤魔化しに水増し請求、加えて縁故採用等々の洗礼。基礎教育が出来ていないため徹底的にやり直し。
当時の国際関係、経済などは前宗主国ベルギーの援助下にある。時代や状況が異なるにしても、ベトナムでもよく似た事があったと思える節が見受けられる。
一番の問題はもちろん金融。中でも貧国の悩みでもある通貨の平定と為替相場の安定。税制の改革と貿易制度の整備。市場経済への移行。すべてに経験がないため、外国の餌食にされたようなもの。具体策を考え果敢に実施しました。
このためには市場の整備をしなければいけない。勢い工業化より農業国として、農業生産の強化が大切と判断。主生産品であるコーヒーから、まずは発展整備が肝心と考える。彼の決断、一言が一国の命運を左右するため、マクロ経済と現場の実態を見る目が確かで様々な実務経験と深い見識が求められます。
それには歴史と自然、文化に生活を良く知り、人と会って話す。良く観察したうえで市場経済の安定に尽力。これには経済理論よりも実践力が求められる。また商業と流通の整備を念頭に置いて同国民の商売人を育成しています。
さらに交通網の整備に登場するのが日本政府と企業の技術支援。レベルの低い現地スタッフの教育訓練を行うが、日本人ならでは指導力は今もって同じです。  
規模は小さいが、ベトナムの一般の小企業でも財務諸表などが分らず、予算も販売目標もなく、その日暮しでよしとするいい加減さ。貿易赤字が続けば即通貨切り下げと節操がない。こんな昔の状況が浮かんできました。
時代は違っても、赴任先で誠心誠意の限りを尽くしてきたからこそ政府の信頼を得る事が可能。こうした先人の海外で苦労して日本人のアイデンティティーを発揮。今の日本の存在観、立ち位置があると考えます。
強く感じるのは高い地位にあっても現場主義。経験と知識を活かし自分の意見をしっかり述べ誰にも忖度しない。相手には自信をもって提言する姿勢。能力評価を重んじ、人種での差別意識はしない。卓越した能力です。
日本人の持つ人の善良さでなく、真に相手の利益を考えての行動。厳しい措置なども講ずるが、真の商売人の心も併せ持つバランスも重要と気付かされる。一旦始めると組織化を図り、同国人の後進に託せる時期が来るまで任務を全う。従って当初5カ月の約束が延長を重ねて6年もの滞在。
こんなことが本から感じ取れます。今をもっても決して古い時代の事だと思えない。現在の企業、経営者に置き換えても通用。見習いたいものです。

・アフリカなら緒方貞子さん ビジネスでも通用する現場重視の人

アフリカに貢献した方で思い出すのは、元国際協力機構理事長の緒方貞子さん。
国連難民高等弁務官として国際社会の最前線で自ら行動し、いずれの国の人も大切にするという視点と全く軸のぶれない強い姿勢を貫きました。
「東京に居ないで外に行きなさい。外に行ったら、都市に居ないで奥地に行きなさい」が口癖。机上で事業を行う組織ではない、一番大事なのは現場を知ることだと徹底した現場主義で在外職員を4割も増やし、現場のアイデアを生かす仕組みを作り上げたと伺います。
JICA在籍中に大きな功績がある。緒方さんになって国際協力機構では民間からの人材を登用されました。
ベトナムに日本ベトナム人材協力センター(VJCC)があり様々な活動をしている。貿易大学HCM校に隣接して事務所と図書館があって、ボランティア会議とやらにも参加もしたが意見を聞いてサヨウナラ。
失礼ながらお歴代は定年間際の名誉職という感じ。何事も荒立てずに差し障り無い申し送りのような雰囲気。草の根援助活動には、金を出すが、口も出す。審査が厳しいのは当然だが、現地で2回、日本で最終審査だが、何であそこが落ちるの?という団体もあった。現場の事情を理解できない本国の偉いさんに何が分かるのか、民間企業とも共通する疑問すら湧きました。
このような中、元松下電器の現法社長・藤井さんが登用されたのには驚いた。来越から20年以上に亘り工発展のため提言や渾身努力を認められ、HCM市名誉市民という称号を授与されるほど現地を良く解っているため最適任。この方が民間人所長登用第1号の一人。これで事務所内が随分変わり官庁のような雰囲気はなくなり前からいる調整員もピリピリ。これが普通です。
退任後、国際関係の仕事で日本とアジアの国々を行き来していました。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生