ベトナム国家主席辞任劇を何と見る 斜めから見るのが正しいのかな!

2024年4月25日(木)

VOV5(ベトナムの声放送)は、3月21日付けの記事で、ベトナム共産党中央執行委員会が20日、ボー・バン・トゥォン国家主席(53歳)が党政治局員・党中央執行委員・国家主席・国防安全保障評議会議長としての役職を全て解任されたとの決定をうけて、国会は21日午前、人事手続きを行うために第15期国会の臨時国会を開催したと報じました。
国会で議員らはトゥォン氏始め、ビンフック省選出のホアン・ティー・トゥイ・ラン氏議員、カインホア省選出のチャン・トアン・アイン議員の解任について国会常任委員会の報告を受け、秘密投票(出来レース)にてこの3名の解任に関しての議決を行ない、この決議をいとも簡単に採決したとあります。
また現地報は「ボー・バン・トゥォン氏を、ベトナム国家主席辞任」との見出しで報じており、国会は2021年から2016年までの任期であるけれど、その任務を解任したと論評は無く簡単に報じている。
チュン氏の後継者と目され、時期書記長ともされていた人の解任決議の理由は、個人的な要請に従ってその主要な指導者としての職を辞任することに同意したとされ、国会はこれを受け議決されたとしているが逆らえるものでは到底ない。
辞任を受けて国会は21日、ボー・ティー・アイン・スアン国家副主席を国家主席代行に指名したとあるが、スアン女史はこの国では数少ない女性政治家。
また記事には、共産党中央員会がトゥォン氏の辞任の承認について、彼が党の規約に違反し、世論に悪影響を及ぼし、党と国家、彼自身の評判を傷付けた、とする意味が解からないこじ付け辞任理由を声明で説明したとも報じています。

トゥォン氏は1年前史上最年少で国家主席に就任。メコンデルタ・ヴィンロンの出身。前任のフック元主席も部下の汚職の責任を問われて辞任しているので、僅かの期間で2名が国家主席という要職を辞任しているのは異常としか言えず、これ以上内紛が続けば外国や外資系企業からすれば不安を煽るだけの話。
だが日本人が誤解していると思えるのは、国家主席は国の序列トップではなく、ある意味で儀礼的な役割もあるけれど実は2番目となっているのです。
当面はスアン女史が代行職となり、早くも外国要人と会談を行っているけれど、恐らくは5月の通常国会でその人事が発表される可能性は高いとされています。となればそれ以前に人選が行われ、臨時国会が開催されて承認となる公算が強い訳だが、本来的にチョン氏の操りやすい側近になるのかが見所です。
この解任劇を額面通りに受け取る人は何処まで居るのだろうかと考えるけれど、汚職撲滅を掲げる最高指導者であるチョン書記長(79歳)の、またもや汚職に関連した理由で排除されたとする見解には整合性があると考えられます。
だがフック氏解任と同様に、確かに今もなお蔓延る汚職が一応まともな理由とされるのは表向きであって、汚職撲滅に執念を燃やす過熱したチョン氏の強い意向があったと一般的に評されるが、実は権力闘争に巻き込まれたトゥォン氏が割を食らった引責辞任であると町雀の噂話があるが巷で信用されるかは疑問。
こういう汚職撲滅なんてスローガンは政争の手段として利用されるのは歴史の証明する所で、権力への不信感を利用したものです。しかし度が過ぎて伝家の宝刀でなくなった時が怖く、何度も使えるものではなく刃こぼれが見えて来る。
すでに上の顔色を見て仕事をする行政となり、弊害が生じている、とも噂されているがまずは間違いない。こうなると又もや全てにおいて事務が滞ります。
わずか一年程の任期でしかなかったので殆どこの方の人物像を知らないけれど、党規違反というけれど実はその詳細は明らかにされていなく、極めてあやふやな処遇でしかないのだが、それだけ疑念を抱かせるのにはお釣りが来ます。
こうした汚職から事務の停滞などの原因が招じるのは、最高権力者の指導責任の方がより強い筈でその責を感じなければならないが、そうは問屋が卸さない。
フック氏の場合は余りにも自由主義的傾向が強く、西側諸国と仲良くしている。これを快く思わないチョン氏の意向が働き、引責という形で辞任に追い込まれたのが噂の真相で、今回もまた同じ轍を踏んだ形となっているがもう種切れ。
もはやチョン氏は79歳と超高齢。権力を手中にして後継者を育成しないのも、その立場に固執しているとしか考えられない。従って彼の本心はこの国を元の正しい方向?に軌道修正するとの決意でないかとも考えられます。それは即ち共産主義国家建設への道となるが、焦りであり、となればまともや貧困を味わった時代に逆戻るのです。その状況を十分承知している人々、戦争を知らない若いそして豊かに育った人達から共感を得られる訳など絶対にあり得ません。
80近いと言えば貧困を分かち合う世代。如何にもレトロの郷愁に戻りたいとする個人的な理由など誰もが納得できるものではありません。だから汚職撲滅というテーゼに切り替えて分り易く、納得しやすい方法で誤魔化しただけです。

当面は大きな変動や外交上での問題が生じないにしろ、こうした政情が不安定と認識され何時までも人事が定まらないとなれば、外国から投資は躊躇される可能性は否定できないし何時までも時間を掛けられない。
コロナ禍でサプライチェーンの中国依存からの脱却で俄かにベトナムが脚光を浴びたけれど、このままだとこうした世界の動きからも疎外されかねません。
正確に情報を公開し、確たる理由が明らかにされなければ益々この傾向は忍び寄ってくる。そして現在も企業に対する賄賂が本当になくなったと証明されなければチョン氏の賄賂撲滅も絵に描いた餅でしかなく、あくまでも権力維持のお題目に過ぎず、真の意思に気付かれるとそっぽをむかれる。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生