ベトナム・ソン外相とフエ国会議長の訪中 ますます中国に傾倒か

2024年5月21日(火)

ブイ・タィン・ソン外相は4月3日から7日にかけて中国を訪問。広西チワン族自治区で王毅外相と会談した。習近平国家主席の訪越で決まったベトナムと中国との両国関係を包括的な戦略的パートナーシップに格上げ以降、有意義な未来構築に向けることに合意してから初の外相会談を行ったとしています。
元々はアメリカのバイデン大統領の訪越で両国関係の格上げが決まったことに対して、先手を打たれた中国側が追随した形であるが、これはチョン書記長の意向であることに違いはないとみます。
今回の会談で両外相は外交政策に於ける両国関係を6つの方向性により安定的に発展させるため、協力関係をさらに強化しハイレベルな合意と協定を効果的に展開してゆく必要性があるとした。だがこれは既に習近平国家主席の訪越時に決められたことであり、これを進化させる内容以外は再確認しただけのことに過ぎません。だが確実に着実に中国のベトナム進出が加速しているのは事実。
この6つの方向性とは、より高い政治的信頼性、より実質的な防衛・安全保障協力、より深い協力関係、堅実な社会基盤の構築、多方面にわたる緊密な協力、意見の相違を適切に管理・解決することとなっているのは以前に書いている。
また経済貿易関係を継続的促進と、戦略的な交通インフラ接続を優先させ両国の社会経済関係を促進することと、東南アジアの協力も促進するとしています。
両外相は人的交流を強化させ、各地方自治体の交流を促進。国境の管理と保護で協力するため、国境ゲートの新設、アップグレードなどを行う事で合意した。
海洋問題が収まったという訳では無いが、両国首脳の合意と共通認識を厳格に履行し、南シナ海における関係国の行動宣言を厳格に遵守し、海洋法に於ける国連条約に基づき南シナ海行動規範を締結することが重要としました。
中国は如何にも正しい行動を強調しているけれど国際法を無視、ベトナム漁船への無体な攻撃に対する事実関係を認めたもので無く、今回も単なるその場凌ぎの挨拶にしか過ぎません。未だにフィリピンへの嫌がらせは続いています。
ソン外相は持続可能なバランスの取れた経済貿易協力の推進を提案したとあり、中国政府に対してベトナム農産物の輸入増、一部の産業協力案件に於ける問題解決、ベトナム北部と鉄道路線の早期接続実現、二回廊一経済圏の拡大、観光の促進と商業航空便の増加を求めたとあるが、これは中国重視の明確な姿勢。
これに対して王毅外相は、一帯一路構想の中での二回廊一経済圏おいての両国の戦略的連携を強化する提案。ソン外相の求める農産物の輸入促進と観光分野と教育分野での協力を検討する。また両国間での道路接続を強化するとしたと報じられています。だがどう見ても力関係は明らか。まるでお願い外交であり、親分・子分の立ち位置が写真からも窺がえるが、このまま推移するのだろうか。

・フエ国会議長と高官代表団の訪中

フエ国会議長をはじめとするベトナム政府高官からなる代表団は4月7日から6日間、中国を公式訪問した。これは中国人民代表大会常務委員会・委員長の趙楽済氏の招待に拠るものとしているが、外相と時と内容は同じくしています。
VTV5の報じるところ、党中央委員会書記、軍上級中将、中国友好国会議員グループのクアン副首相、在中国のマイベトナム大使などが随行したとある。
フエ議長は初の訪中であり、両国の立法府の首長が直接会談することも初めて、力の入れ具合が分かります。これは両国が2023年に外交関係樹立73年と両国関係の二国間パートナーシップ協定樹立15周年記念ともされている。
記事に拠れば、このフエ議長等の訪問団、ベトナムと中国との関係発展に強い動機と勢いを生み出すことが期待されていると書いてある。
今回は公式行事の一環として北京で習近平国家主席と会談。中国の指導者としては初めてベトナムの国会議員団の訪問を受け入れたとし、フエ議長はチョン書記長と政府から中国の指導者に敬意を表し、中国共産党、国家、人民がこれまでに獲得した偉大で歴史的な成果を慶祝したと報じています。また第20回中国共産党全国大会で決定された目標を成功裏に達成し、世界の平和、協力、発展に貢献するとの確信を得たと最大限の賛辞を贈ったとしている。
習主席は中国がベトナムの発展、安定、社会主義建設の成功を指示することを確認。両国の指導者が共有された未来共同体の構築に合意したと都市、政治的信頼向上、実質的な防衛・安全保障協力、強固な社会基盤、緊密な多国間強調、優れた管理と解決された相違点という主要な方向性に基づく、二国間の新たな時代を切り開く戦略的意味を持つことを強調したという。
両国が前向きな発展関係にあり、両党と社会主義建設の思想的目標においては多くの類似点を持ち、人民の利益と幸福に努力しているともした。さらに両国関係を極めて重視、関係をより深く実質的に促進することを希望し、促進する用意があると述べたが、如何にもしてあげるよ、と言わんばかりの上から目線。
フエ議長は、中国との関係発展はベトナムの最優先事項で、一つの中国政策を貫いていることを確認したというが、台湾を念頭に置いているのは明白な事実。
これらの双方のやり取りは美辞礼賛を超えたもので、チョン書記長の個人的な想いの具現化を目指す表現であって、全方位外交を自認し、アジアの自由主義国家や欧米諸国に依存、経済と社会発展を遂げてきた歴史に反する発言であるとしか思えないものです。これをほぼ政府機関というVOV5から発信され、報じられるのは完全な情宣活動だとしか言えません。両国の将来的な国家構想が社会主義建設であり、一つの中国を認める内容に至っては、もはや筋書通りのセレモニーだが行き過ぎ。中国と一緒に歩もうなんて発言は、これまで支援してきた先進諸国や進出企業へ敬意が無く、蔑ろにしたものでしかありません。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生