ベトナム版 一村一品運動(2)

2020年2月10日(月)

実際の例をあげるなら、観光地で有名になったハノイ近郊で陶芸を生業にするバッチャン村。かつてアジアでは野焼きが伝統手法でしたが、今では電気炉で制作。日本人向観光ツアーにも組み込まれていて各店で製品を購入が可能。
同じく陶器では300年の歴史があるビンフック省フォンカイン村。土が良く破損しにくい性質と耐水性に優れ、これに保管すれば湿らないと評判が高い。
中央から来た役人が、余りの貧困を見かねて村民に陶芸を教えたのが始まり。何処の国でも水呑百姓と善良な役人が居る昔話が残されています。
同じくチュエンゴー村は螺鈿細工で有名。近隣7つの村で制作されていますが、中国の影響を受けて1000年の伝統があるこの村では最初に製品が作られ、品質が良いと評判が高い。原料となる夜光貝、白蝶貝、黒蝶貝などや漆が手に入りやすかったと言う地の利の良さが幸いしています。
ドンホー村の版画。バクニン省で500年続く素朴な絵柄で、当時の日常生活、風俗、社会風刺を描いた作品が多い。日本人の女性が弟子入りして修行の末、外国人初の職人になったと話題がありました。
中部ダナンと、400年ほど前には800人とも言われる日本人が交易のため居住した海陸シルクロードの交叉点であるホイアンとの間、五行山での大理石を用いた彫刻は有名。またこのホイアンはシルクを使った絹織物が人気上昇中、今では世界各国から見学に来ます。此処には日本でもかつて飼われた黄金色の繭をつくる貴重な蚕が残っていると聞きます。
他には銀細工が有名な村、銀細工の村、竹細工、籐製品、太鼓を造る村などが現存。最近は国内外の観光客が民家宿泊と制作体験が出来るツアーに人気があり今なお進化を続けています。
ある日本人は早期退職をして、北部の少数民族の寒村へ移住。村興しでカフェを経営しています。彼が来るまでほぼ自給自足の生活。儲けがあるものでは無いが単に村が気に入ったのが理由。独身なので自由に振舞える。
村長の家を間借りし、民宿を始めたところ欧米人が来て存分に田舎暮らし体験を楽しんでいるという。素朴な暮しや美しい民族衣装、シンプルこそ故に本当の美味しさが分かる食事など、何もないのだが精神的な豊かさを感じ、此処に居るだけで進化した生活に疲れた人間が癒される価値があるなど、村人は誰も思っていませんでした。文化の違いがもたらした恩恵だが彼が幾つもの足許の財産を蘇らせました。

一村一品運動が全国規模で展開が始まってから日が浅い。しかし下地となる伝統村には4800もの産品が存在すると言われ、一層の発展を期待できる可能性があるとも言われています。だが問題は効果的な運用と販売を行うためにはブランド化を行うと共に文化的価値を高めなければならないが、これ等のノウハウや知識に経験がありません。
製品の品質基準の設定や安全性の確保は重要なポイント。各商品に歴史やストーリーを持たせて付加価値を付けるマーケティング力を持つ、安売りしないなど企画力と発想がなければ消費者の信頼を得る事はできません。
認知されてこそ民族の歴史と有形・無形文化の保存と伝承が可能となり、雇用創出と所得増加が期待できます。しかし元々職人が居たというより、ダラットの刺繍絵の様に、手先の器用な人が農作業の合間に副業として作っていた物が、専門化され生業になっていったのが経緯だと思えます。
政府は一村一品運動のグローバル化を行うよう各機関に要請。全国の省・都市との連携を強化するよう指示をしているほど積極的な姿勢が窺われます。
この理由は農村社会の安定と維持、農村経済の再構築と農村から都市への人口流入を抑制、併せて環境保護が可能と考えるから。農業農村開発省は63省・直轄市のうち42カ所で一村一品プロジェクト実施を承認。2020年までに各地域の農産物とサービス改善を目的に、公共機関と民間との共同でバリューチェーンを構築。また観光資源開発も活性化の重要施策として挙げています。
統計によれば、昨年この分野の輸出金額は20億ドルに達し150万人もの新たな雇用を農村部で創出、農家へ収入増加をもたらしたと評価しています。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生