COVID-19禍での経済成長に関して③

2021年4月29日(木)

・2020年の貿易概要(推計値)

税関総局の纏めに拠ると、昨年の輸出額は2826億5500万USD(約29兆3960億円)、前年比7%増。輸入額は2627億0100万ドル(約27兆3210億円)で3,7%の増加。貿易収支は199億5400万ドルとなりました。
輸出のうち品目別では携帯電話・部品が511億8393万ドルと引き続いて一位、輸出総額の18%を占めています。前年比では0,4%減。
なお携帯電話は世界50を超える国・地域に輸出され最大は中国で約25%、EUへは19%、アメリカ、韓国、UAEと続きます。ベトナムは携帯電話の世界的製造国でサムスンは同国で60%を生産するほど。
また輸入ではコンピュータ・電子製品・部品が639億7112万ドル・前年比24,6%増加しています。

・アメリカのベトナムに対する為替操作疑惑 今後も火種として燻る

アメリカ商務省が発表した2020年の貿易統計に拠ると、貿易赤字額が過去最大となる9158億ドルと前年比で6%増加しました。
赤字相手国の順位は中国、メキシコ、ベトナムとなり、ベトナムが前年の5位から初めて上位に顔を出し、日本は前年の三位から七位に後退したのです。
さりとてベトナムは喜んでばかりいられません。兼ねてより問題視されてきたベトナムに対する為替操作疑惑です。
トランプ政権は、ベトナムが輸出を有利にするため通貨安を誘導していたとの疑いを持っていました。ベトナムにとってアメリカは大幅な輸出超過国で最大の貿易黒字国です。既に2019年度にはアメリカの対ベトナム貿易赤字額は
560億ドルへと膨張。前年比では40%増大していて危機感を抱いたのです。
そこで財務省はベトナムを不公正な貿易慣行に反するとして監視リストに載せ動向を注視していました。為替報告書では対米貿易黒字が余りにも大きく顕著。この裏には当局の介入が頻繁にあり、通貨政策への透明性を高めるべきと通貨安をけん制。通商法301条に基づく調査を続け監視をしていたのです。
また違法に伐採された木材をアメリカへ輸出したとして、通商代表部と財務省は共同で調べていました。しかし疑念はあるが結果として違法性はないと結論付けしています。
確かにこれまで貿易赤字になればVNDを切り下げた事は頻繁にあったが、これはベトナム経済が脆弱。輸出するモノは農水産物や原油などの一次産品が多く、また繊維・靴などの加工製品もあるが、台湾などの企業が製造していました。アメリカとの貿易が少なかった2000年代、万年貿易赤字体質の時のこと。
黒字に転化、外貨保有額も増加(昨年100億ドル)して通貨が安定してからは大きな切り下げはありません。
また材木はラオスなどで違法に伐採され、中部の山岳国境を越えてベトナムにトラックで入って来た事実が明確にありますから、疑念を持たれても当然です。
昨年2020年度は、アメリカはベトナムにとって一番のお得意様。対米輸出は断然一位の77,077百万ドル(27,3%)。これに対し輸入はわずかに
13,713百万ドル(5,2%)で5位。貿易黒字額は何と63,364百ドルにも達するのですから、これでは不平等と怒るのは無理からぬことだが、過剰消費と借金漬け体質である国民性が改まらないことが深刻です。
しかし、完全に疑惑の払拭、無罪放免とはなりません。COVID-19感染禍で明確になった生産拠点の中国からのベトナム移転の加速。この状況が続けば安価なベトナム製品が一層アメリカに入ってくる筈。また原産地証明については不透明な部分もありベトナム政府も対応しているがアメリカは不満を募らせる。

・その他の指標

鉱工業生産は前年比3,4%の伸び。この中で最も増加したのは薬品の27,1%増、次いで金属14,4%増、石油製品11,4%、電子製品等が11,3%となり二桁の増加です。
小売売上高は前年比2,6%、約5060兆VND(23兆円)となったが、例年は10%を越えていたため若干幅で減少しています。
CPI・消費者物価指数は3,23%の上昇、政府目標の4%を以下に収まっており、依然として安定傾向であることに変りはありません。
昨年新規に設立された企業は約13,5万社で前年より2,3%と僅かに減少。起業意欲は未だ旺盛。また登録資本金は増加し、一社当たり平均32,3%増えて166億VND(7500万円となっています。この増加傾向は年を追うごとに高くなり、企業規模が徐々に大きくなっている証明です。

長く現地に関わり経済の過程と現場を観て感じるのは、いま過渡期にあること。統計を見れば成長の推移は分かるが、中身の7割以上は外資企業の作った数字。だが冷静に自国の実態を過度に評価せずかなり正確に認識している省庁があり、有能なビジネス人材が育ってきたことも感じる。
変化と革新を加速しているベトナム。COVID-19を変換点として、長年言い古されたモノ作り神話はすでに終焉したと考え、課題は認識しつつ新たな経営視点へ思考をスイッチし、未来志向で戦略を練る事が必要なのではと思料します。これからは思惑や期待だけで進出できる訳ではない時代になりました。(了)

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生